社説:大震災から12年 教訓に立ち戻り備えねば

 東日本大震災の発生から、きょうで12年になる。

 死者と行方不明者、災害関連死は計約2万2千人。この1年間、新たな遺体の発見や身元確認はなかった。初めてという。

 大規模な復興工事が東北沿岸の風景を変え、時間の経過を物語る一方、今も震災は終わっていない。

 世界最悪レベルの東京電力福島第1原発事故は収束せず、国の緊急事態宣言の解除は見通せない。福島県内では約2万8千人が帰郷していない。

 昨年6月以降、最も放射線量の高い帰還困難区域でも、除染を終えた拠点地域の避難解除が始まったが、帰還者は3町村計100人ほどだ。長期の避難生活と不十分な医療・生活基盤が壁となっている。「ハードありき」でなく、当面の二拠点生活を含め、住民の状況に合わせて地域再興を進めるべきだろう。

 国内外で甚大な災害・惨禍が相次ぎ、人々を苦しめている。東日本大震災の犠牲と教訓を切に刻み、人命と暮らしを中心とした防災・復興を見据えたい。

 事故原発の廃炉作業は、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し開始予定が2年以上遅れ、損壊した原子炉建屋内に残る使用済み核燃料の搬出も停滞している。依然高い放射線量に阻まれ、30~40年かかるとした廃炉を実現できるかは、不透明さを増している。

 一方、東電は原発でたまり続ける「処理水」を今春以降に海洋放出する準備を進めている。技術的に取り除けない放射性物質の濃度を国基準の40分の1未満まで海水で薄め、沖合約1キロで流すという。原子力規制委員会は安全上問題なしとした。

 だが、風評被害を懸念して漁業者らは反対している。一方的に既成事実を重ねる政府と東電の手法が不信を増幅している。なし崩しに放出を強行するのでなく、国内外の理解を得る十分な発信と説明を尽くすべきだ。

 取り返しのつかない痛苦が続く中、岸田文雄政権が原発の「最大限活用」へ回帰するのは看過できない。事故の反省から可能な限り原発に頼らないとしてきた政策の拙速な転換である。

 老朽原発の耐久性は未知数が多いとして最長でも60年に制限した運転期間を延長可能にし、新増設を含む原発の長期利用を視野に入れている。

 だが、事故で露呈した原発のリスクと欠陥が解消されたわけではない。核のごみ処理や避難対策は積み残され、武力攻撃の恐れも顕在化している。

 震災12年を前にした全国世論調査では、政府の原発「最大限活用」の方針について「評価しない」が64%、「説明不十分」が92%に上った。ウクライナ危機によるエネルギー不安に乗じたごり押しが国民の不信感を高めており、再考すべきだ。

 東日本大震災の規模を超える新たな災害想定への対応も課題となっている。大震災の津波被害で高台に移転した岩手、宮城、福島3県の住宅地区の約3割が、新想定の最大級津波では浸水域に含まれるという。

 安全性を過信せず、既存想定を超える可能性を再認識した上で、早期避難の計画や訓練など命を守る地域力を高めたい。

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