<社説>玉城知事訪米 独自外交で戦争避けよ

 玉城デニー知事は米首都ワシントンを訪問し、米政府、議会関係者に米軍基地問題への取り組みを求めた。沖縄の在日米軍専用施設面積50%以下を目指したロードマップの作成を要請したほか、台湾有事に懸念を示し、平和的な外交・対話による緊張緩和に取り組むことなどを要求した。 玉城知事の訪米は知事就任後3度目だが、今回はこれまでとは様相を異にしている。台湾有事を想定した日米合同の軍事演習が激化し、中国も警戒を強めるなど緊張が高まっているからだ。

 台湾有事になれば真っ先に標的になるのは、米軍や自衛隊の基地が集中する沖縄だ。1945年の沖縄戦で県民の4人に1人が犠牲になった沖縄を再び戦場にすることは絶対に許されない。有事を回避すべく、対話による解決を訴える独自の自治体外交を県は粘り強く続けるべきだ。

 沖縄の基地負担は減るどころか、増している。米中対立の激化に加え、ロシアによるウクライナ侵攻後、台湾有事を叫ぶ声が日米で高まっているからだ。負担軽減に逆行する軍事強化が南西諸島を舞台に展開されている。この危機的状況を背景にした今回の要請行動となった。

 玉城知事は要請で米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設反対を伝えた。新基地反対を訴え、県民に選ばれた知事の主張は本来、無視されてはならない。だが辺野古埋め立てに投票者の7割が反対した県民投票の結果を含め、新基地に反対する沖縄の声はいまだに受け入れられていない。

 日本の一県が、日本政府を飛び越えて外国の政府に問題解決を要請すること自体、異例だ。日米政府は、沖縄にも適用されるべきであるはずの民主主義をないがしろにしていることを自覚すべきだ。「民主主義の価値を共有する国との連帯」を掲げた「価値観外交」とも明らかに矛盾する。

 沖縄の基地問題の解決どころか、対中包囲を強める米国に追従し、南西諸島への軍備増強を推し進める日本政府は沖縄の人々の命を軽視しているかのようだ。住民保護は自治体任せで、保護計画は現実性に乏しく不安は拭えない。

 国際政治学者の豊下楢彦氏は「政府が沖縄県民の生命と安全を保障できないのであれば、沖縄県が『台湾有事』狂想曲を乗り越え、戦争回避を求める東アジアの国々や自治体、市民との連携を深めるために独自の自治体外交を展開することは、全くもって県の『専管事項』である」と述べている。県が4月に設置する地域外交室は、この言葉を胸に、今回の訪米の成果を今後も生かせるよう自治体外交に取り組んでほしい。

 玉城知事が要請で基地内調査を認めるよう求めた有機フッ素化合物(PFAS)の生活水混入問題も、命の問題だ。面談した米側関係者の中には、調査に前向きな姿勢の人もいたという。ぜひ早急に対応してもらいたい。

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