埼玉にいた日本一バリスタ、店は8年目 ラテアートから入った世界、今はコーヒーの道へ 導いた“感動”

「お茶や紅茶にはないフルーティーな甘さを出せるのがコーヒーの魅力」と話す近藤寛之さん=新座市野火止のコーヒー・スタンド

 フラスコに入った湯の蒸気が豆の粉が入ったロートに昇り、抽出されたコーヒーがフラスコに下りてゆく。サイフォンの前に直立するバリスタは神妙な面持ちで、一連の工程を収束させる。コーヒーを見つめるまなざしと立ち居振る舞いはラボラトリーの研究者と見間違うほどだ。

 埼玉県新座市野火止5丁目のアパート1階を改造し、コーヒー店「コンドウ・コーヒー・スタンド」を開業して8年目。オーナー兼バリスタの近藤寛之さん(42)は昨年、サイフォンで抽出するバリスタ日本一を決める大会「ジャパンサイフォニストチャンピオン」で優勝した。

 この大会は一般社団法人「日本スペシャルティコーヒー協会」が毎年開催する。2022年はプロアマ問わず、全国から約30人が参加した。競技時間は1人15分間。プレゼンやテクニック、味などを5人の審査員がジャッジする。近藤さんは「味と技術が伴うコーヒーが提供できた」と振り返る。

 新座市出身。農家の次男で大学卒業から10年間、レンタル会社などでサービス業に従事した。退職後、ラテアートを学ぼうと、製菓学校に入学。1年間、お菓子とコーヒーの作り方を学び、コーヒースタンドをオープンした。

 学校を通じて知り合ったバリスタがきっかけだった。「その人が入れるコーヒーの味が違うことに感動したんです。バリスタや入れ方によって違うことが分かり、カフェラテよりも、高品質のおいしいコーヒーを提供できるお店をやろうと決めました」

 営業は正午から午後5時。客が抽出方法(サイフォンまたはドリップ)と12種類の豆からコーヒーを選ぶ。終日、運営は一人だけ。午前中はコーヒーの仕込み、閉店後は技術と味の錬磨に充てる。「自分のモチベーションを上げてくれるのがコーヒー。今後も技術を向上させ、影響力のあるバリスタになりたい」。

 コーヒーの求道者にゴールはいまだ見えていない。

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