ロシア版グーグル「ヤンデックス」で「ウクライナでの戦争」と検索してみたら…垣間見えるロシア人の今

ロシアの検索エンジンであるヤンデックスで「戦争」と打ち込むと、候補に「ウクライナでの戦争」と表示された

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く今も、インターネット上では両国の政府やメディア、人々のSNS(交流サイト)などから、さまざまな情報が発信されている。当事国の人々は何を信じ、戦争をどう受け止めているのか。両国に精通する通訳者の知識と手を借り、ロシア最大級の検索エンジン「ヤンデックス」や各種SNSなどから、一般ロシア人の今を垣間見たい。

### ■ロシアの検索エンジンとは

 協力してくれたのは、「スラブ世界研究所」(東京)主任研究員の河津雅人さん(36)=兵庫県丹波市。ロシア語、ウクライナ語の通訳として、日本メディアの取材コーディネートやファクトチェックの手助け、ウクライナからの避難者の支援などを手がける。日本文化をロシアやウクライナに発信するユーチューバーでもある。

 まずは、グーグルを使って、ロシア語の発信を調べてみる。「война」(ヴァイナ=戦争)と打ち込むと、ウクライナ関連の記事が並ぶが、河津さんによると、これらは主にウクライナメディアや英BBC放送などのロシア語版のニュース記事だという。

 「ロシアではグーグルは日本ほど使われていない」と河津さん。日本ではあまり知られていないが、ロシア国内でよく使われる検索エンジンがヤンデックスだ。オンライン決済やタクシーの配車、宅配なども展開しており、ロシアの生活に深く浸透しているという。 ### ■ロシアは「特別軍事作戦」

 河津さんにロシア語版ヤンデックスで「война」と打ち込んでもらうと、検索候補に「ウクライナでの戦争」というロシア語が表示された。そのまま検索した。

 ロシアは侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、戦争という言葉を使っていない。そのためか、検索結果の上位には、ロシア政府や国営メディアのページはほとんど表示されなかった。

 ページをスクロールしてみて、ようやく政府系メディアの「リア・ノーボスチ」のサイトを発見。しかしヒットした記事も、バイデン米大統領の言葉を報じているだけ。ほかにロシア側とみられる記事もあったが、大手メディアではなかった。

 むしろ目立ったのはウクライナ側から発信されるニュース。検索結果の上位には、グーグルと似て「ウニアン」というウクライナ主要メディアや、BBCなどがロシア語で書いた記事が並ぶ。ヤンデックスでも、政府による強烈な検閲はかかっていないのかもしれない。

 ウニアンのサイトを覗くと、3月9日付の記事で「ウクライナ参謀本部は、ロシアから1日110回の突撃があったが、成功していないと明かした」と伝えていた。その日の各都市の被害状況や警戒情報を分刻みのドキュメント形式でリポートする記事もあった。

 「プロパガンダを流すロシアに対し、ウクライナ側もロシア語で情報を発信し、対抗しているのではないか」と河津さん。「日本からアクセスしており、ロシア国内で同じような検索結果になるかは分からない」とも付け加えた。 ### ■ロシアの主要な報道

 検索でロシアの主要な報道が見当たらなかったため、リア・ノーボスチと、知名度の高いロシア国営通信「タス通信」のサイトに直接アクセスした。

 タス通信にはウクライナの戦況に関する特集コーナーがあった。記事では、ウニアンが伝えたのと同じ9日のウクライナの状況について「リビウで爆発があった」「各地で爆発が相次いでいるとウクライナメディアが伝えている」などと報道していた。

 記事中にロシア側が攻撃したことを示す表現は見当たらなかったものの、タス通信の記述は比較的、淡々としている。これが軍事ブログなどになると、ウクライナ東部での攻勢を「解放」と表現するなど、ロシア寄りの姿勢は鮮明になる。

 それでも同通信のサイトをざっと見て、河津さんが一言。「自国の被害のニュースがないですね」。ロシアはウクライナ東部で攻勢を強める半面、南部では打撃も受けているとされる。「来年の大統領選挙に向け、国内に社会的な不安を広げる訳にいかないのでしょう」と分析する。

 トップページにある国際女性デーの記事で、プーチン大統領が女性たちに笑顔を見せているのもその一環なのか。だが、もしヤンデックスが日本国内と同じように利用できるなら、ロシアの人にとっても、ウクライナや西側諸国の情報に接するのは容易なはずだ。

 河津さんは「ただ、積極的に『戦争』や西側の情報に触れようとするロシア人がどれだけいるか。私は戦争が始まった時、ロシアでは無関心な層が大半だったと思っています」と話す。 ### ■情報戦の主戦場はSNS動画

 主要メディアの記事以外で、両国の情報戦で主戦場になっているのがSNS。特に動画の投稿だ。若い世代ほど動画で情報を集める流れは、日本とロシアで大きく変わらないという。

 対ロシアで存在感があるのが、ロシアの反プーチン派がリトアニアで運営しているとみられるユーチューブチャンネル「ポピュラー・ポリティクス」。ロシア政府要人の息子にいたずら電話をしたり、ウクライナ政府要人を出演させたりしている。

 チャンネルの説明文で「プーチンによって引き起こされたウクライナの戦争の真実を話す」とあり、登録数は185万人。河津さんによると、「知人のロシア人は『国内でユーチューブの閲覧に規制がかかっているとは感じない』と言っている」という。

 日本でもなじみの「TikTok(ティックトック)」や「テレグラム」では、現場のロシア兵やウクライナ兵、市民らが投稿した動画が日々アップされる。ロシア兵が軍の支給品の貧しさに不満を漏らす動画など、日本のメディアでも度々引用された。

 ただし、ロシアに批判的な意見にアクセスできるとしても、ロシアの人々が実際に接しているかは別問題だ。SNSでは利用者の興味に沿って、お薦め投稿が表示される。ロシア寄りの軍事ブロガーやロシア関係者も当然、アカウントを保有し、情報を発信するし、フェイク動画が紛れていることもある。

 そもそも私的な交流目的でSNSを使っている人が政治的な情報を探したり、発信したりするのか。

 たとえば、ロシア版フェイスブックと言える「フコンタクチェ」。河津さんもアカウントを持っているが、さまざまな投稿を検索して回っても、日常的で個人的な内容やビジネスに関する投稿が多く、政治的なものはあまり見かけないそうだ。

 「状況は検索エンジンの問題と同じです。関心がない。仮にあったとしても、目にするのがウクライナを悪者にした動画ということがありうる」 ### ■動員で状況に変化

 河津さんの見解では、ロシア国内の状況に変化も生じている。きっかけは、昨年9月の部分動員令の発動。数十万人のロシア人が国外に脱出し、世論調査でも停戦交渉の支持率は高まった。

 「自分が戦場に駆り出されるかもしれない現実を突き付けられ、戦争という現実を意識したのではないか」

 河津さんの知り合いのあるロシア人女性は、夫が動員を恐れ、韓国へ出稼ぎに行った。女性自身も「海外で暮らしたい」と話しているが、英語ができるわけでもなく、特別な技能もない。仕事がなくても生活できる富裕層でもない。

 娘がいて目の前の生活がある中、仕事を捨てて国を出る決意をできるか。それとも、拘束される危険を冒して戦争反対の声を上げられるか…。「こういった葛藤に置かれているロシアの家族も、かなり多いのではないでしょうか」

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