フードデリバリーの事故「保険適応外」の理不尽も!? “泣き寝入り”しない配達員「保険契約」の最適解とは

コロナ禍に生活様式が変化したことも相まって、フードデリバリーの利用者が増加、それに伴い配達員のニーズも増えている。

こうして新たに需要が高まった仕事は、コロナ禍に職を失った人々の受け皿となり注目を集めている。また、副業推奨時代に手軽にはじめられる敷居の低さも魅力となり、本業のほかに配達員の仕事をする人も多いとされる。

バイク・自転車を利用したフードデリバリーの仕事では、配達員が自費で加入しない限り労災保険が適用にならないばかりか、バイク保険に加入していても業務中の交通事故が保険適応にならないケースもあるようだ。

このような情報を知らないまま気軽に業務をはじめたことで、事故後の対応がままならず泣き寝入りする配達員が多いのではないだろうか。

補償プログラムは「配達中」の事故しか補償されない?

フードデリバリー大手「Uber Eats (ウーバーイーツ)」には傷害補償プログラム(https://www.uber.com/jp/ja/drive/insurance/)があり、補償の対象となるのは対人・対物および「配達中」の配達員となる。「Uber Eats」においての「配達中」とは、“配達リクエストを受けてから配達が完了するまでの間”を意味する。

なお、配達員自身の傷害補償は、配達中および配達を終えてから15分以内に生じた事故が対象となる。よって通常の会社員の「通勤時間」にあたる、配達員が“配達したいエリアに向かうまでの時間”は、保険の適用外ということになる。こうしたことからも配達員は自転車・バイク問わず自身で追加の保険に加入することが必要といえるだろう。

配達員の労災加入の多くが「自費負担」のワケ

フードデリバリー配達員の増加も後押ししてか、令和3年9月1日から、バイク・自転車を使用して貨物運送事業を行う者の労災加入が実現した。しかし保険料は、配達員の雇用主が負担してくれるわけではなく、あくまでも自腹で支払わなければならない。労災保険の保険料を「雇用主」が支払う義務はないのだろうか。

自身もバイクが好きで、フードデリバリーの配達員の経験もある藤澤周平弁護士から話を聞いた。

「フードデリバリーの仕事をする場合、 ①従業員として雇用主に雇われて給料をもらう働き方 ②個人事業主としてフリーランスで報酬を得る働き方 があります。労災保険は、労働者が仕事または通勤によって被った災害を補償する制度ですので、①の場合は、当然加入対象となります。

一方で、『Uber Eats』等から個人事業主として業務を請け負う②は「労働者」には該当しません。したがって、労災給付を得るためには特別に労災に加入しなければならないのです。

②の場合、会社は労災や社会保険に支払う費用を削減できるため①よりも高い報酬を配達員に支払っています。個人事業主は高い報酬を受け取る代わりに、自らが費用を負担して労災加入しなければ、労災は適用されません」(藤澤弁護士)。

配達員の保険“最強タッグ”は?

さらに配達員の事故で特に見落とされがちなのは、通常のバイク保険の範囲ではカバーできないケースだ。自費で保険に加入するだけでなく、保険プランを通常の保険よりも高額な「業務用」にする必要がある。

バイク保険が『業務用』でないとフードデリバリーの配達員が保証を受けられない理由について藤澤弁護士は、「任意保険会社との契約(約款)のため」と説明する。

「業務用のバイクは、自家用のバイクと比べ走行距離が長くなりますし、頻繁に駐停車をするため事故が発生する確率が自家用より高くなります。したがって保険会社は高額な保険料を徴収しないと保険の仕組みを維持できないのです」(藤澤弁護士)

では、どういった保険に加入していれば配達員は安心して仕事をすることができるのだろうか。

藤澤弁護士は「『労災自費加入』と『バイク保険』の両方への加入をおすすめします。労災は、慰謝料が補償されない等の不利な点がある一方、被害者に過失があっても支払ってくれやすいというメリットがあります。一方で、バイク保険に加入すると、慰謝料も請求できる、保険会社に交渉を代行してもらえる、ドライバーの属性に合致した保険に加入できるというメリットがあります」と双方の利点を的確に教えてくれた。まさに備えあれば憂いなしだ。

事故が起きたら、まずは「逃げない」こと

もし事故に遭ってしまった場合の具体的な「初動」について、藤澤弁護士は「逃げないこと、事故現場、事故車両の写真は撮影しておく、書面へのサインはしない、安易に責任を認めない」と話す。

突然の事故にパニックになる人も多いが、この言葉を胸に冷静な対応をすることが求められる。今後も進化し続けるであろうフードデリバリー産業で配達員として働くためには、保険についての正しい知識を身に着けることが大切になってくるだろう。

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