世界初!五大陸にまたがるロボット望遠鏡網「BOOTES」が25年の歳月を経てようやく完成

【▲ ニュージーランドにある「BOOTES-3」(Credit: IAA-CSIC/NIWA)】

スペイン科学技術最高評議会(The State Agency Spanish Research Council、スペイン語の略記でCSICと称する)の研究機関であるアンダルシア天体物理学研究所(The Institute of Astrophysics of Andalucía、英語の略記でIAAと称する)は2月14日、ロボット望遠鏡のネットワーク「BOOTES(Burst Observer and Optical Transient Exploring System)」の配備が完了したと発表しました。BOOTESは世界で初めて五大陸すべてに観測ステーションが設置されたロボット望遠鏡ネットワークで、7基の観測ステーションがスペイン(2か所)、ニュージーランド、中国、メキシコ、南アフリカ、チリに配備された模様です。

7基の観測ステーションで天球上のイベントをカバー

うしかい座のラテン語表記と同じ名前をもつ「BOOTES」は、最初の観測ステーション(BOOTES-1)がスペインのウエルバで1998年に設置されて以来、BOOTES-7がチリのアタカマで2022年末に設置されるまで、25年の年月が経過しました。各観測ステーションに搭載されている装置は同じというわけではなく、たとえばBOOTES-1にある観測装置の1つ「BOOTES-1A」は50mmの広視野レンズや2つのCCDカメラを搭載しています。これら全ての観測装置はIAAが管理します。

BOOTESのような観測ステーションのネットワークを構築するメリットは、全天で起こる天体現象をカバーできる点にあるといいます。とくに、いつどこで発生するのか予測できない「ガンマ線バースト」の追観測に非常に効果的であるようです。

【▲BOOTESを構成する7基の観測ステーションと配置場所を示す図(Credit: IAA-CSIC/UMA/INTA)】

観測の自動化で素早い追観測が可能に

国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたロボットアームのように、天体観測の分野でも人間に代わってある程度自律的に行動できる機械に作業を任せる「自動化」の波が押し寄せているといい、20世紀半ば以降は命令の伝達やリモートコントロール、自家発電による電源供給などの作業を自動化することが検討されました。とくに、BOOTESの観測対象はガンマ線バーストの検出後に観測されるわずかな光(残光)であるため、素早い追観測が求められるといいます。BOOTESは世界各地に配置された観測装置からのデータ集約を自動化することで、21等級ほどの暗い天体や現象であっても3秒もあれば追観測が始められるようです。

【▲2022年7月に南アフリカで設置された「BOOTES-6」(Credit: bootesnetwork.com)】

BOOTESの目的であるガンマ線バーストの追観測

BOOTESの主目的は、宇宙で最もエネルギーの高い爆発現象であるガンマ線バーストの解明です。ガンマ線バーストでは数秒から数千秒という短い時間で高エネルギーの爆発現象が起こったのちに、X線から電波に渡る幅広い波長の電磁波が長時間放射され、次第に減衰します。比較的長時間継続するロングガンマ線バーストは大質量星の超新星爆発と結びついていると考えられているものの、短時間しか続かないショートガンマ線バーストについては未だに謎が残されているようです。

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BOOTESはこうしたガンマ線バーストの謎を解明するために、爆発後に発生する電磁波の追観測を行なう模様です。ガンマ線バーストの原因となっている天体が放つ光の観測と同時に、幅広い波長の電磁波でも検出を行なうといいます。

またBOOTESは、ニュートリノの発生源や重力波の発生源、彗星や小惑星、変光星や超新星といった天体の追跡・監視はもとより、スペースデブリ(宇宙ゴミ)など人工衛星と衝突する可能性のある物体の追跡も行なう模様です。

BOOTESは、テストフェイズでコンプトンガンマ線観測衛星(CGRO)が検出した5個のガンマ線バーストの追観測を実施して以来、これまでにもさまざまな天体現象の観測に成功しています。2017年には観測史上初となった重力波「GW170817」に伴うキロノバを、2020年には天の川銀河で発生した高速電波バースト「FRB 200428」を、2021年には中性子星が放つ巨大フレアに由来するとみられる「GRB 200415A」の追観測に成功しました。五大陸すべてに観測ステーションが配置されたことで、今後もBOOTESによるさらなる成果が期待されます。

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文/Misato Kadono

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