冤罪(えんざい)の疑いが大きくなったといえよう。
1966年に静岡県で一家4人が殺害された強盗殺人事件を巡り、死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さんの第2次再審請求の差し戻し審で、東京高裁は再審を認める決定をした。
2014年の静岡地裁に続き、最高裁の差し戻しを経て、再び裁判のやり直しが認められた。高裁決定は「到底犯人と認定できない」と言明した。
事件発生から57年近く、第2次再審請求はすでに約15年にも及ぶ。費やされた時間はあまりに長い。袴田さんは87歳、無実を信じ支えてきた姉ひで子さんは90歳と、いずれも高齢だ。
検察は最高裁へ特別抗告せず、速やかな再審開始を求めたい。
争点となったのは、確定判決が犯行着衣とした「5点の衣類」に残った血痕の変色状況だった。
衣類は事件から1年2カ月後、勤務先だったみそ工場のみそタンク内で従業員が見つけた。捜査資料では、血痕の色は「赤褐色」などとされていたが、最高裁は血痕がみそ漬けされた場合、どう変色するのか検討するように求めていた。
今回の決定は、「数カ月で黒色化し、1年以上では赤みは残らない」とした弁護側の主張を全面的に採用した。検察側も実験を行ったが、むしろ弁護側の主張を裏付ける結果が出たとして退けたことは重要である。
さらに「第三者が隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できない」とし、捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)の可能性が極めて高いと認定した。
もし事実であれば、重大な問題だ。違法捜査は1968年の一審静岡地裁の死刑判決の中でも指摘された。検察側は、重く受け止めなければならない。
高裁決定は、確定判決が有罪認定の根拠とした主要な証拠について、「犯人性を推認させる力がもともと限定的、または弱いものだった」と疑問視しており、確定判決の事実認定は足元からぐらついたと言える。
再審開始は、大阪高裁が先月、84年に滋賀県で起きた「日野町事件」でも出し、検察は特別抗告した。有罪を主張する証拠があるなら再審公判で堂々と争うべきだ。
警察や検察の不十分な証拠を見逃した裁判所の責任も重い。改めて「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則を肝に銘じてもらいたい。