信藤三雄がデザインしたCDジャケットは《90年代カルチャー》のポップアイコン!  ならではの遊び心溢れる作品と、店頭で一際目立つアート

信藤三雄の知名度を上げた渋谷系のデザイン

アートディレクター、信藤三雄さんが2月10日に亡くなりました。

手がけた作品は、松任谷由実、サザンオールスターズ、SMAP、Mr.Children、宇多田ヒカル、MISIAなどのジャケットデザインが有名ではありますが、信藤三雄さんといえば90年代に外資系CDショップを中心に発信され、レコードカルチャーとしても発展、様々な音楽形態を示した ”渋谷系” のデザインが印象的ですし、一気に信藤三雄さんの知名度を上げたのもこの頃のように思います。

日本の最先端の音楽とデザインを結び、変形のCDジャケットから特殊素材、蛍光インクによる印刷など、CDジャケットならではの遊び心溢れる作品と、店頭で一際目立つアートとして確立した ”信藤作品”。

レコードからCDに切り替わり、LPサイズだからこその迫力あるジャケットが日本の市場から姿を消して、当時の音楽ファンが嘆いていた所、逆手に取って新しい表現の場所としてCDジャケットを提示してくれました。

90年代ポップカルチャーのアイコン

ここで信藤作品の中で、特に印象に残ったCDジャケットをいくつかピックアップしたいと思います。

■ フリッパーズギター / カメラトーク

筆者が最初に信藤三雄デザインを意識した作品。まるで洋楽のCDみたいだし、フランス映画のチラシのようで最初日本のアーティストだと思わなかったことを記憶しています。

鮮やかなオレンジに筆記体で描かれた文字、今までの日本の音楽シーンに無かったデザインセンスに溜息が出るし、透明バックイントレー仕様の、見える裏ジャケ、歌詞カードや帯にいたる細部まで拘り抜いた、フリッパーズギターという存在と完全にリンクしたデザインでした。

■ コーネリアス / 69/96

ヴィニール素材のジャケットに蛍光インクで印刷されたデザインは、とにかくCDショップで目立つ作品でした。

この頃の小山田圭吾(コーネリアス)はファッション誌にもモデルとして数多く露出し、時代を象徴するサブカルヒーローだったので、悪趣味とハイセンスをクロスオーバーするその勢いと遊び心がデザインにも反映された作品となりました。

■ Mr.Children / 深海

このダークなジャケットは当時のメンバーの心境だったのかもしれません。ブレイクを収めた直後にリリースされた作品だけに、この暗いアートワークとアルバムタイトルには衝撃を受けました。

深い海の底に佇む椅子、そこに座っていたのか? それともこの深海で待ち受けているのか? コンセプトアルバムであるだけに、リスナーへの問いかけが見え隠れします。天災や凶悪事件、不況の実感も人々に広がり始めた時期の作品だけにこのようなアートワークの訴えかけてくるメッセージは、ミリオンセラーを連発していたミスチルにとっては大胆な采配に感じました。

■ ピチカート・ファイブ / ボサ・ノヴァ2001

信藤三雄といえば “ピチカート・ファイヴ”。初回限定盤はビニールケースに入っており、店頭に陳列されている光景は圧巻でした。

前出のコーネリアス『69/96』でも感じましたが「驚かせてやろう」という確信的なデザインはとても刺激的で、収録されている先行シングルの「SWEET SOUL REVUE」がカネボウ化粧品CMタイアップという事もあってか、まるでコスメのサンプルのよう。音楽とのリンクもさることながら、懐古的でありながら未来的なピチカート・ファイヴにピッタリのアートワークです。

■ SMAP / SMAP007〜Gold Singer〜

国民的トップアイドルグループに昇り詰める一歩手前に発売された、7枚目のアルバム。その突出した存在のアートワークも信藤三雄氏によるもの。演奏には海外のジャズ・フュージョン界隈の凄腕ミュージシャンを揃え、90年代の閉塞する時代感を捉えた、ある種のグランジ感ある、どこか気だるい自堕落な歌も収録された、正に黄金のアルバムです。

「アイドルのCDジャケットとして限界まで攻めた」と語られているように、ジャケットにはメンバーの姿は無く、着ぐるみのリスのアップ写真でグループ名もあえて目立たなく処理されている。このデザインを採用したことからも彼らを取り巻くスタッフの尖がったセンスに魅了された人も多いはず。

ちなみにこれは都市伝説レベルの噂ですが、このCD、あまりにもジャズ・フュージョン界隈の豪華メンバーによる演奏が収録されている為「JAZZ・フュージョン」のコーナーに陳列されていたCDショップもあるとか…。

この他にも愛着のあるデザインの音源は沢山あるのですが、特に印象的だったものを選びました。このように “90年代ポップカルチャーのアイコン” と、呼んでも過言ではないほどの作品量とクオリティ、独創的なアイディアに溢れています。信藤三雄さんは当時のデザイン系専門学生からは憧れの存在として君臨していました。

デザインと音楽が強く結びついた信藤作品

信藤三雄さんの作品はCDの主役であるアーティストのまるでメンバーのひとりのような存在でした。

レコーディングに参加こそしていないものの、その作品に新しいスパイスを効かせる、そんな存在で、リバイバルが始まりつつあった60年代、70年代のアートワークからのサンプリング、再編集、再構築の絶妙なバランスもこの時代ならではのモノだったように思いますし、演奏の編集であるミキシング作業と同等にデザインでその作品の方向性を提示していました。

現在、CDはメディアとしての役割を終えつつあるのか、サブスクへと音源の楽しみ方は移行しています。そして近年はレコードブームもあり、数々の作品が再発、発掘、未アナログリリースだった作品がリリースされています。ですが、やはり音源と同じくらいジャケットや盤、封入されているライナー、歌詞カードのデザインを手に取ってこそ、最大限にその音源を楽しめる、そう教えてくれたのは信藤三雄さんだったように思います。

購入する時もドキドキとワクワクがあり、印刷物を眺めながらその音源をCDデッキへと導くのも大きな楽しみのひとつでした。

これからも信藤三雄さんの作品を眺めながら音楽を楽しむのと同時に、デザインと音楽が強く結びついた作品に出会いたいと思うのです。

改めて故人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

カタリベ: タカダスマイル

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