「手引き」作成し、動き出した薬剤師確保対策/日本病院薬剤師会 武田泰生会長インタビュー

【2023.03.15配信】日本病院薬剤師会(武田泰生会長)はこのほど「病院薬剤師確保の取り組みの手引き」をまとめた。また、厚労省令和5年度事業として、都道府県における薬剤師確保のためのモデル事業の募集が始まる。対象は病院薬剤師に限らないが、武田日病薬会長は「国も都道府県に働きかけてくれている。それぞれの都道府県病院薬剤師会には(自治体に)しっかりとアプローチをかけてもらいたい。手引きを作成したタイミングで予算事業を組んでくれたことは、非常にありがたい」とし、薬剤師確保に向け目に見える形で情勢が動き出したとの認識を明らかにした。武田会長に薬剤師確保に向けた取り組み状況についてうかがった。(勇治郎)

基金に基づく事業は関係者・機関との綿密な意思疎通が重要/「薬剤師を助けてください!」では、自治体は動かない

ーー先の日本病院薬剤師会(以下、日病薬)臨時総会で、「病院薬剤師確保の取り組みの手引き」がドラフトの形で公表されました。改めてその意図、今後のスケジュール感、さらに都道府県病院薬剤師会への期待について教えていただけますか。

武田 日病薬では薬剤師の確保、偏在解消に向けて地域医療介護総合確保基金(基金)の活用を重要なポイントとして、昨年7月に金沢大学病院の崔吉道理事を委員長とする「病院薬剤師確保に関する特別検討委員会」を設置し、先の総会で「手引き」についてドラフトを報告いただきました。

この取り組みを進める上で、最も重要な点は各関係者が共通の認識を持つことです。各自治体や住民を巻き込む大きなプロジェクトであり、長い期間にわたって行われることが想定されますので、その間の関係者間の綿密な意思疎通がとても大事です。「薬剤師を助けてください。」ということでは自治体は動きません。第8次医療計画にも薬剤師確保が書き込まれることになりますが、各都道府県の医療の存続、医療構想、医療計画を円滑に実施していくためには薬剤師が欠かせない存在であるということをしっかりと自治体関係者に理解、認識してもらうということがとても重要なポイントになります。

限られた医療人材、財政のなかで、直近の2025年問題、次いで2040年問題に対応していかなければなりません。そのためには薬剤師が欠かせないという順番で理解することが非常に重要です。総会の中でも崔委員長が報告しましたが、第8次医療計画が動き出すこともあり、現時点での最短スケジュールを手引きの中で示しています。都道府県により事情は異なると思いますが、厚労省は「令和5年度薬剤師確保ための調査・検討事業」として、都道府県における薬剤師確保のためのモデル事業(予算事業)により後押ししてくれていることはありがたいと思っています。国としても都道府県に対して働きかけてくれていますので、地域の実情に応じ、この薬剤師確保モデルを参考に、しっかりと各自治体にアプローチしていただきたいと思っています。

モデル事業では、対象は病院薬剤師だけでなく、薬局・薬剤師の偏在も一緒に考えていく必要があります。地域包括ケアシステムのなかで薬剤師会と連携し、シームレスに患者視点で薬物治療管理を考えていくことが大事です。

薬剤師出向元として“地域薬剤師会”等は“あり”

ーー手引きでは薬剤師確保モデルとして資金による分類で4タイプのモデル、出向形式による分類で3タイプのモデルが示されています。中でも出向元医療機関と出向先医療機関との間で調整するマンツーマン型がシンプルに分かりやすいと思いますが、既に実態があるものでしょうか。

武田 出向の形式としても一番医局制度に近いように思っています。出向先から人件費等の負担金を支払うタイプです。例えば薬剤師数が比較的多い国立大学病院、国立病院機構(NHO:National Hospital Organization)から出向する。あるいは都道府県の公的病院から他の公的病院に送ることは可能ではないかと思います。

私の所属する鹿児島大学病院や九州地区では他に大分大学病院でも取り組んではいますが、週に数回派遣する程度で、今回のモデルで示したような常勤の形では、未だできていないというのが現状です。

ーー出向元として、薬局は考えられますか。

武田 日病薬としては、病院施設間での薬剤師確保を前提として、手引きを作成しましたが、地域薬剤師会と病院とが連携する取り組みがあると聞いています。個人的は、出向元として公的機関や組織、あるいは行政から派遣するなど、公的な機関が絡むのであればいいのではないかと思います。

日本病院団体協議会の協力のもと、短期・中長期的対策検討へ

ーー病院薬剤師確保については、日本病院団体協議会(日病協)の代表者会議が、2022年10月に日病薬と一緒に薬剤師を確保していくとの方針を示しました。その後、武田会長をはじめとして日病薬の先生方を含むワーキンググループ(WG)が開催され、具体的に対応策が検討されているとうかがっています。

武田 日病協は多様な15の病院団体なのですが、病院薬剤師の確保を訴えていただいたことはありがたく、実はJCHOの理事長であり、日病協の副議長であられる山本修一先生からご連絡いただき、WGには私を含め4人の病院薬剤師が参加しています。第1回は今年1月に開かれ、私から病院薬剤師の不足と偏在の現状、並びに日病薬の取り組み状況について説明させていただきました。会議では短期的、中長期的な対応策を考えていく必要性が確認されました。

第2回WGは2月22日に開かれ、日病薬が検討している次期診療報酬改定に対する要望事項、特に重点要望事項を説明し、議論いただきました。次回のWGでは、これを絞り込むことになりますが、今後、急性期医療において退院までの期間を短くするためには、転所先の回復期リハ病棟(病院)がとても大事であり、そのための連携については診療報酬上の支援がされれば、回復期リハ病棟での病棟業務が充実し、結果として施設間連携も充実すると思っています。

また、第2回WGでは、診療報酬の問題とともに卒後研修も焦点になりました。おそらく病院の先生方は、卒後研修も薬剤師確保につながるというイメージを持っておられると思います。ただ、卒後研修は中長期的な視点になります。我々日病薬としては、今後も定期的な会合が開かれることを希望しています。

卒後臨床研修制度 まずはジェネラリスト養成が重要

ーー卒後研修については、厚労省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を通じて改めて、制度化に関心が高まっています。医師の卒後研修制度のように一定期間病院で研修する。あるいは専門薬剤師を目指して一定期間の研修をするなど多様だと思いますが、薬剤師の卒後研修についてはどう捉えておられますか。

武田 日病薬では既に厚労省の委託事業として、モデル事業など調査検討を行ってきました。関係者は皆、薬剤師の資質向上のために卒後臨床研修を行うという方向性は、概ね賛成しているのですが、経済面も含め、如何に効果的なものにしていくかも重要です。ただ、現時点で本当に卒後研修制度を実施できるのかというと、疑問はあります。

卒後臨床研修の本来の趣旨はジェネラリストの養成です。アメリカでは1年間、ジェネラリスト研修、2年目からスペシャリストの課程で、それぞれ専門性を高めるというプロセスを踏みます。日本でもまずはジェネラリスト養成が重要だと思います。

スペシャリスト養成については、今のレジデント制度を生かしていくという考え方もあります。私自身はいろいろなパターンがあっていいと思っています。薬局に就職を考えている人でも病院研修が必要だと考えれば、むしろ地域医療連携がとれている施設での研修を受けたいと思う人もいるでしょう。様々な経験をするという意味では、研修施設のグループ化もあると思います。次年度の事業は1年間の予定で募集をしていますが、研修項目の順番変更や薬局も研修施設に組み入れるなど、研修内容に応じたプログラムを設定いただくことで多様性を期待しています。

また、医師のように卒後臨床研修を薬剤師資格の何らかの要件に設定するとの考え方もありますが、もし、希望者だけを受け入れるとなった場合、マッチングを掛ける必要があり、また、ゆくゆくはこういう資格につながっていくなど、ある程度、新卒者に対して分かりやすい形で示していく必要はあると思っています。

ーー「病院薬剤師確保の取り組みの手引き」とともに、基金による修学支援に関しても手引きの作成が待たれています。

武田 会内の組織強化推進部が担当して検討を進めています。既に病院薬剤師確保の手引きがまとまりましたので、これを参考に作成されると思いますが、5月以降になるのではないかと思います。この奨学金の貸与も薬剤師派遣にしても、最終的には基金を大きな原資とした手引きです。この両輪を有機的に活用・連携し、薬剤師確保を図っていくことが大切です。

編集部MEMO:担当者に対する講習会「薬剤師確保策に向けた取り組み」(Web会議)を開催

日本病院薬剤師会は2月開催の臨時総会で「病院薬剤師確保の取り組みの手引き(ドラフト)」を取りまとめたが、都道府県病院薬剤師会への周知徹底と各自治体担当部局等への早急、かつ積極的なアプローチを促すべく3月19日に、担当者に対する講習会「薬剤師確保策に向けた取り組み」(Web会議)を開催する。当日は、地域医療介護総合確保基金の活用を含めた薬剤師確保モデルや取り組みスケジュールなど、「手引き」について日病薬病院薬剤師確保に関する特別委員会委員長・崔吉道理事(金沢大学病院)が紹介する。また、「令和5年度薬剤師確保ための調査・検討事業」のことを踏まえ、厚生労働省(医薬・生活衛生局/医政局)からも、これらに関わる行政動向などが紹介される。

© 株式会社ドラビズon-line