カイソットインパクト – 広島ドラゴンフライズはどこまで強くなるか

3月8日に沖縄アリーナで行われた琉球ゴールデンキングス対広島ドラゴンフライズ戦は、フィリピンからやってきた両チームの若手スター、カール・タマヨ(琉球)とカイソット(広島)がB1デビューを飾ると予想された注目の一戦だった。結果的にタマヨに出番はなく、ソットの方はスターターで登場して10得点、2リバウンド、1スティール、3ブロックを記録した。

B1デビューを果たしたカイソットは来日初ダンクも炸裂させた(写真/©B.LEAGUE)

86-78のスコアで試合に勝ったのは琉球だったが、身長220cmのソットが感じさせたポテンシャルはやはり桁外れだった。数字だけを見ればさほど爆発的には思えないかもしれないが、来日からまだ2週間程度しかたっておらず、この試合が広島の一員としての「お披露目の場」に過ぎないことは認識しておくべきだろう。屈強なアレン・ダーラムのドライビング・レイアップをたたき落としたブロックショットなど、世界中どこのリーグでもあまり見ることができないような迫力だった。

琉球のキャプテン田代直希の率直な感想は「エゲえっす…!」。えげつなくすごい。そういう意味で理解した。縦に細長い体格から軽いのではないかという印象もあるかもしれないが、それが「ちゃんと重たい」のだという。

しかも走れる。余裕でぶち込むスラムダンクあり、トランジションからの得点あり。NBA Gリーグイグナイトに呼ばれ、NBAドラフト候補に名が上がるのもよくわかる。極度に長身であるにもかかわらず秀でた運動能力と身体能力や判断力、さらにはメンタル面の落ち着きまで備わっているのだ。

即刻感じられたソット効果

チームスタッツを見ると、ブロックショットが琉球の1に対して広島が9本あったことは、ソット加入の効果の一つと思われる(ソット個人は3本ですべてを前半に記録)。なかなか体験することのない高さに対する状況判断自体もちろん難しい。またソットがいない時間帯、ソットがいない局面でゴールへの道をこじ開けられるといつもより積極的になりすぎる可能性もありそうだ。しかしその結果、ペイントに攻め込んだところでほかのディフェンダーにつかまりやすくなる。そんな心理的な影響がありそうだ。

ブロックショットに関しては、実際に成功した場面のほかにそのアテンプトによってショットが外れた後のこぼれ球をつかんで、素早く攻撃に転じて得点というパターンも何度かあった。広島はファストブレークでの得点でも17-13と上回っており、この項目でも今後優位を作りやすいのではないだろうか。

また、リバウンドを課題としていた広島が、リバウンドの強い琉球にこの項目で36-35と互角以上の数字を残したことも注目すべき事柄の一つだ。ソット自身のリバウンドは2本だけだが、ソット対策でゾーンディフェンスを敷く時間が長くなると、マンツーマンのときのようにボックスアウトを徹底しづらい状況が長くなるということも影響していそうだ。

ソットは20歳の若者でまだまだ成長過程。この日1本だけ放ちミスに終わった3Pショットもこの先入ってくると思うと、対戦相手にとっては底知れない脅威になるだろうことが想像できる。

広島のカイル・ミリングHCも、B1デビューを果たしたソットの出来を、来たばかりの初戦にしては良かったと評価していた。ただ、18分56秒の出場時間はスターターとして決して長くない。また、勝負がかかった第4Qには、61-72と11点のビハインドを背負っていた残り4分50秒にソットをベンチに下げ、以降はコートに戻さなかった。

試合後ミリングHCにその意図を聞くと、「彼の最初の試合だったことは一つの理由ですね(It was his first game tonight. It's one of the reasons.)と答え、さらに「±が、これまでのスタイルでプレーしていたときの方がちょっと良かったんです。カイが慣れるまでは少し時間がかかるでしょうから(And the plus-minus tonight was a little better playing our normal style. So, it'll take some time for Kai to get used to it.)」とのことだった。

カイル・ミリングHCはソットの試運転をまずまずとみている様子だった(写真/©B.LEAGUE)

ソットがプレーしている時間帯に、琉球のゾーンディフェンスが有効だったようだ。

「リズムを崩されました。我々は走って速いペースでプレーしたかったのですが、ゾーンにやられましたね。ゾーンをされているときの±は-15から-16ぐらいだったと思いますが、マンツーマンのときには勝っていたので。プラスマイナスが明らかにプラスだったんです。カイが出て相手がゾーンをしてきている時間帯に向けた修正をしなければいけません」
”They broke our rhythm. Our game's running, playing faster…, fast-paced and the zone broke our rhythm. The plus-minus when they played zone, we probably were minus 15-16 and when they played man-to-man, we obviously won the man-to man. When they played man-to-man, we obviously won the man-to man, we were in a plus. So, we've gotta keep working when Kai is in the game and the other team plays the zone.”

\--{チームに慣れればカイジュウに!}--

チームに慣れればカイジュウに!ソット自身はどんな自己評価だったかと言えば、「最高のできではなかったです(I don’t think it was the best.)」とのことで、次戦以降での改善に向けた意欲を強調していた。ただ、B1デビューでチームメイトと初めて公式戦を体験できたことは大きなプラスととらえており、残りの試合日程を楽しみにしていることを語っていた。来日後初めての会見時にも、「スウィッシュ(ショットが成功したときのネットとボールがこすれる音)がたくさん聞こえた」とチーム力への好感触を感じたことを明かしていたが、その手応えを実戦で確かめられた様子だった。

数字的に伸びなかった理由としては、高さを生かすためにゴール近辺でプレーしようとしても、それを簡単にさせてもらえなかったことを挙げた。琉球の巧みなゾーンディフェンスがその一つの要因であり、また自身が加わってから日が浅いことも影響したという分析だ。

「琉球は後半少し調整してきて、ボールがハイポストに入ったときにゾーンからマンツーマン気味に守ってきました。それが僕らのビッグラインナップに効果を挙げたと思います」
”I think the Ryukyu made an adjustment in the second half on how…, based on this, they tried to play man-to-man when the ball gets to the high post and it worked when we played big lineup."

「まだお互いを知り合おうというところです。今日は僕が皆とプレーした最初の試合ですから、これからどんどんよくなるでしょう。ぼくの感覚をわかってもらえれば間違いなくもっと高い連係を見せられます。まだ試合があるのでたくさん学んで改善していけたらと思います」
” I believe my teammates are still trying to…, you know like, feel each other out. It's my first game with them. So, I believe it's only get better once we get to know how I really play and what we…, like bring together, gel together 100%. Me with the team, we're all gonna be good. We're gonna do great. We've got a lot more games and we've got a lot more to learn. I'm really looking forward to next game and I believe we're gonna do better.”

#11 カイソット(Kai Sotto) 220cm/105kg C
2002 年 5 月 11 日生まれ(フィリピン出身)
(写真/©Hiroshima Dragonflies)

まだしばらく、ソットが全開状態となるまでには時間がかかるのだろうが、そこまでの過程は広島がチャンピオンシップで勝ち上がれるだけのチーム力をつける過程そのものなのかもしれない。3月15日に広島サンプラザホールで行われる京都ハンナリーズとの対戦は、ソット加入後初のホームゲームであると同時に、知将ロイ・ラナHCがぶつけてくる戦術に広島とソットがどう対抗するか非常に興味深い。祖国フィリピンにいた頃からカイジュウ(怪獣)のニックネームを持つソットだが、来日2試合目にして初のホームゲームでモンスターゲームを披露できるだろうか。

3月14日時点で広島は28勝11敗(勝率.718)で西地区3位。16勝23敗(勝率.410)の京都は西地区7位のチームだが、直近の2試合は大阪エヴェッサ(18勝21敗、勝率.462、西地区6位)と名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(21勝12敗、勝率.692、西地区4位)に連勝して勢いづいてきいている。非常に面白い試合になりそうだ。

ミドルレンジからゴールを狙うカイソット(写真/©B.LEAGUE)

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