主演 寛一郎×演出 ウィル・タケット『カスパー』クロストーク

ノーベル文学賞受賞作家でもあるペーター・ハントケによる衝撃作『カスパー』。初舞台となる寛一郎が主演にて今年3月に東京芸術劇場シアターイースト、4月に松下IMPホールにて上演される。
本作が初舞台初主演となる俳優の寛一郎を支えるキャストに、バレエやコンテンポラリーダンサーとしての華々しいキャリアを持ちながら、俳優活動でも注目の首藤康之が、カスパーをことばの世界へと誘い、調教する3人の謎の男“プロンプター”の一人を演じる。
昨年『ピサロ』でウィル・タケットとも組み、大いに信頼されている下総源太朗、そして文学座若手俳優の萩原亮介がプロンプター役として参加。さらにカスパーの分身役として、小野寺修二作品の常連俳優でもある王下貴司、麿赤児率いる舞踏集団の大駱駝艦から、高桑晶子、小田直哉、坂詰健太、荒井啓汰といった精鋭艦員が出演。
この刺激的な作品、主演の寛一郎さんと演出のウィル・タケットさんのトークが実現した。

――この作品は構造も内容も非常にユニークで刺激的だと思います。作品を読んだ印象をお願いします。また、読み進めて気づいたことはございましたか?

寛一郎:読んでいくごとに気づきはあります。それは今日生きる僕と、カスパーの公共性のようなもの。とはいえ、最初からこの作品に惚れて「やりたい」と思ったので、読み進めてからも印象は変わっていないです。

――では、キャストの印象はいかがでしょうか。

ウィル:プロデューサーの毛利美咲さんを含めて何人かの方とは一緒に仕事はしたことがあります。出演者についてですが、皆さんとお会いするのをすごく楽しみにしております。すごくひねりのある内容でわかりやすくはない作品で、抽象的な部分もあり、人によって台本を読んで「やりたいか、やりたくないか」、この2つに分かれるでしょう。なので「この劇をやる」と100パーセント決めた人たちと一緒にお仕事をすることになりますから、とても楽しみにしています。

――台本を拝見いたしましたが、セリフの量がすごいですし、ト書の量もすごい。これはすべて「演る」のでしょうか。

ウィル:端的にいうと「No」です(笑)。最初に書かれたときと書き直されたときと、その間にト書の部分で曖昧になっていた部分もありまして…例えば普通に下手から入ってくるだとか、ト書きがストーリーの助けになるようなこともありますが、『カスパー』はそういうものではない。すごく概念的な部分がある。ト書を外すことで言葉と辻褄が合わなくなったり、逆に言葉を外すことでト書と辻褄と整合性がつかなくなったりする。それの匙加減がとても難しいですが、そういった部分は一緒に寛一郎さんと探っていきたいと思っています。あと、ディレクターとティーチャー、すなわち演出家のことを先生、と日本では呼ばれることがありますが、僕は「学校の先生」とは思っていません。演出家は教育する立場ではありません。一緒に話し合って、お互いに何かを見つけあって、いい部分を出していきたい。例えば一着の洋服を作り上げていくように、編込みしていく作業を一緒にやっていきたいなと…みなさんがおっしゃる「ト書がめちゃくちゃ多い」その意見には賛同しますよ(笑)。

――一方、寛一郎さんはこのボリュームについてはどう思いましたか?

寛一郎:たしかに、すごく多いですよね。覚えられる気がしません(笑)。ウィルさんが先ほどおっしゃっていた通り、本を読むのとは違う。これをどうエンターテイメントに昇華していくのか、ト書もセリフもどのように調節していくのか、割愛したり足したりもすることもあると思いますし、もっと観念的で、抽象的にしてもいい部分もあるし、ある程度説明をしないといけない部分もある。そこはこれから話し合って、ディスカッションして皆さんとつくりあげることができれば、と思います。

――いつもセリフを覚えは良いほうですか?

寛一郎:良い方なんですよ、これが。でもこんな長い台本を覚えたことがない。長期的な集中力がどれだけ僕にあるのか、続いてくれることを願います(笑)。

ウィル:実際に舞台上で動くことで、セリフはスッと入ってくると思います。逆にページだけとにらめっこしているだけでは大変。実際に空間でやってみるといいのではないかと。お互いがんばりましょう(笑)。

――お二人が会った時の第一印象は?

寛一郎:今、初めて会ったんです(笑)。でも、目があった瞬間に「一緒にできそうだな」と思いました(笑)。

ウィル:信頼しているプロデューサーの毛利さんからは「見つけた!」と連絡がきて。絶対にいい人だって聞いていました。普段は演出家がプロデューサーを信頼することってあんまりないんですけれども、僕はすごく彼女のことを信頼してまして(笑)。そんな彼女が「すごく才能がある」と言っていらした役者さんなので、プラス、『カスパー』を読んで惚れ込んだ方であると。また寛一郎さん自身が身体的にもステップアップしたいというところを期待して、すごく楽しみにしております。

――カスパーは16歳から先に新たな人生、それまでとは違った人生を歩んでいきますが、お二人は16歳のときには何をしていらした?

寛一郎:ここでは言えないことばかりですねえ。遊んでばっかりでしたから(笑)。

ウィル:ロイヤルバレエ団で、あのぴったりしたタイツも穿いていました。17歳のときにはじめて日本に来たんですよ。すごく最近でしょう(笑)。

寛一郎:すごいなあ。僕はギリギリ日本語は喋れていたと思いますけど(笑)。本当に、何もわかってなかったところは、簡易的な言葉と、本能的な部分も含めて、そこはカスパーと一緒かもしれません。

――お二人それぞれ、人間が人間たる要因は何だとお考えでしょうか。

寛一郎:僕は理性があることだと思います。それが顕著にわかるものが、言語でしょうね。とはいえ、言葉を発することができなくともインプットはできます。それが人間。

ウィル:難しい質問ですね(笑)。言語が武器となるのは台本に書かれていることですけども。動物と人間の違いは、言葉の構造を想像することで、それが人の態度だったり動きだったり心理だったり。それが反映されることが動物と人間の違いなのではないかなと思います。逆に質問しますが、『カスパー』の映画はご存知でしょうか?

寛一郎:もちろん。

ウィル:以前、寛一郎さんの話を聞いて、ちょうどカスパー・ハウザーが社会から分離されていたとき、社会に戻ったこと自体を総合して「人間になった」というのを思い出しました。例えばイギリスと日本の文化の違いのなかで、イギリスでは普通だと思っていることがほかでは不思議に思われるなんてことは当たり前にあります。カスパー・ハウザーが人として思われていないのは「社会が決めつけた」ことでもある。そういった部分で、自分たちが慣れ親しんだものではないものが入ってきたときの違和感を人間は判断しているのかなと思います。たとえば人間的な部分、それはよいとしても、社会で通用するだろうかというところ。そこが『カスパー』と共通していて、葛藤みたいなものを感じられると思います。

――現時点の演出プランはどんな感じでしょうか。

ウィル:デザインはすでに決まっています。先日、美術デザイナー、照明デザイナーの方々と打ち合わせもして、すごくよいミーティングができました。とはいえ、デザインが決まるまではすごく時間がかかりました。いかにシンプルにするかということに焦点をあてました。それはなぜかというと、カスパーとの関係性を空間で、例えば、ほかのカスパーやプロンプターが出てきますが、それをいかにシンプルに見せるかが課題でした。これはお客様にとってすごく難しい戯曲。ストーリーもわかりやすくはないので、観ることが逆にストレスになってしまわないように、カスパーの成長、物語が進行していくというところを見せていきたい。だから、空間で人間関係を表現するようにしました。皆さんにすごくわかりやすいものにしたいと考えてのことですね。

――このカスパーがいろんな言葉を学んでいき、秩序や倫理が言葉に乗っていきますが、それっていいことなのか、悪いことなのか。

寛一郎:うーん……言い切れないですね。やはり、社会性という言葉が先程出てきたように、ルールがある。今、自分が従っているルールではないところに、自分にとって確かなものがあればなんとか保てると思いますが、その確かなものを見つけるには時間がかかりますし……。カスパーは秩序や倫理、ほかの誰かを通さずに、それらを見つけることができるのかという点がポイントではありますよね。それは、今日を生きる僕らにとってもたぶん必要なことでしょう。

ウィル:ハントケは偏見のない書き方、劇作家としては珍しいことです。劇作家は自分の思想が強く、お客様に自分の考えに近いものを持ってほしいという想いを通常は求めがちなんです。ハントケの作品、正直全部がそういうわけではないのですが、読んだものは割とオープンでした。『カスパー』も普通の戯曲とは違うと感じさせるものがありました。私たち、ステージをつくる人、演じる人は、そういった劇のエネルギーやテンションに対して、劇作家が求めているものはなにかという狭間にいますが、ハントケの作品に関して言えばいい塩梅といえるでしょう。社会での話に移りますが、社会での溶け込み方、私の場合は東京ではなくロンドンでの話になるわけですが、政府がいまデモをすることに対して、法的に違反であると言っているんですね。つまり、デモ自体がいろんな人に迷惑をかけたりだとか、炎上しやすいものだったりすれば違反、という法律を立てていて…そこは『カスパー』に通ずるものがあり、ルールに合っているか合っていないかというのも、それが圧力になるのか、制圧であるのか。この質問をされていることそのものが、『カスパー』がお客様に投げかけることなのではないかと。だから答えはイエスでもあるし、ノーでもあるでしょう。それが今日で生きる「社会」。解答が分からないことがいいのかなとも思えるし。『カスパー』のテーマが詰まった良い質問ですね。

――ありがとうございます。では、ここで軽い質問を。寛一郎さんはロンドンが拠点のウイルさんを、日本だったらどこに連れていきたい?

寛一郎:京都。行ったことあります?

ウィル:もちろん。素晴らしい場所ですよね。じゃあ、東京だったらどこがいい?

寛一郎:うーん、僕の家ですかね(笑)。家、大好きなんで。ウィルさんは日本に詳しいようなので、僕が敢えて連れていくというよりも、来てほしいかなあ(笑)。

――それなら、ロンドンで、ウィルさんが寛一郎さんを連れていきたいところは?

寛一郎:ロンドン、行ってみたいですね。

ウィル:おや、来たことがないですか?

寛一郎:そうなんです。

ウィル:それなら博物館があります。サー・ジョン・ソーンズ美術館がよいと思います。18世紀の古い建物で、誰かがそこに住んでいたような場所。テムズ川のところにあるんですよ。川を一緒に船で渡ってみるのもいいですね。いろんなパブで飲んだりして、僕の家にも招きたいと思っています。

――ところで、これまでいちばん影響を受けた作品はなんですか?

ウィル:一つだけ?それは厳しい(笑)。日本のものでよいでしょうか?それなら『The Woman in the Dunes』、『砂の女』(※)という作品ですね。観たことあります?素晴らしいですよ。

寛一郎:いや、もうありすぎてわからなくなってきちゃった。敢えてあげるならカフカの『変身』。でも『カスパー』と通ずるものがありますよね。そういう作品のひとつかと。

――それでは、最後にメッセージを。

寛一郎:この生きにくい世の中で、僕らが再定義しなくてはならないことの一つでもあると思います。とりあえず、僕にとっては最初で最後の舞台です(笑)。

ウィル:今まで観たことのない演劇になっていると思います。本当にショッキングな場面もあるでしょうし、面白い場面もあるでしょう。「自分はなんなのか」という疑問に問いかける作品です。「楽しかった!」という感想は抱かないかもしれませんが、「よい体験になった」と思える、頭の中が爆発するような作品ですので、ぜひ観に来てくださいね。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

(※)安部公房の代表的作品、現代日本文学を代表する傑作の一つにとどまらず、海外でも高い評価を得ている作品。海辺の砂丘に昆虫採集に訪れた男が、女が一人住む砂穴の家に閉じ込められ、様々な手段で脱出を試みる物語。

概要
公演名 『カスパー』
作 ペーター・ハントケ
翻訳 池田信雄
演出 ウィル・タケット
美術 久保田悠人
衣裳 林道雄
照明 佐藤啓
音響 井上正弘
ヘアメイク 山本絵里子
舞台監督 深瀬元喜
プロデューサー 毛利美咲
出演:
カスパー・ハウザー 寛一郎
プロンプター 首藤康之
下総源太朗
萩原亮介
カスパーの分身たち 王下貴司
高桑晶子(大駱駝艦)
小田直哉(大駱駝艦)
坂詰健太(大駱駝艦)
荒井啓汰(大駱駝艦)
東京:2023年3月19日(日)〜3月31日(金) 東京芸術劇場シアターイースト
東京芸術劇場ボックスオフィス https://www.geigeki.jp/t/
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/kaspar-2023/
企画製作 TSP
チケット問合:live_info@pia.co.jp
制作問合:contact@tspnet.co.jp
大阪:2023年4月9日(日)14時 松下IMPホール
主催:サンライズプロモーション大阪
問合:0570-200-888[11:00~18:00/日祝休業]
公式サイト:https://tspnet.co.jp/kaspar-2023/

取材:高浩美
撮影:金丸雅代
構成協力:佐藤たかし

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