仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」~ 親・保護者が孤立することなく子育てができる地域を目指して

もしも我が子が「学校に行きたくない」と言ったら、親・保護者はどうすればいいでしょうか。

体調が悪くないのであれば、学校に行くよう促すかもしれません。

行きたくない理由を尋ねたり、ひとまずは欠席してようすを見たりするかもしれません。

それでも「学校に行きたくない」状況が続いたとしたら、多くの親・保護者は戸惑いを感じるのではないでしょうか。

仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」代表・北村康代きたむら やすよ)さんは、当時小学2年生のお子さんが「学校に行きたくない」と言いはじめたときには、たとえ数日休んだとしても、すぐに学校に行けるのではないかと考えていたそうです。

というのも、北村さんのお子さんは、夏休みには友達に会えないことをさみしがり、学校に行くことを楽しみにしていたからです。

職場の理解はありましたが、北村さんは子どもとの時間を充実させることを選択し、いろいろな相談支援を受けます。

そんななか、とある経験をきっかけに、孤立しがちな不登校の親のために、仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」を立ち上げました。

会の活動内容とともに、立ち上げの経緯や活動への思い、今後の展望などについて紹介します。

仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」とは

仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」(以下、ふわさぽ倉敷)とは、不登校や登校渋りの子どもの親があつまって、おしゃべりをする場所です。

具体的な活動内容は、大きく分けて3つあります。

活動内容

  • 座談会
  • 情報共有・情報提供活動
  • イベント企画

活動内容1:座談会

おもな活動のひとつが、月に2度の座談会くらしき健康福祉プラザで開催されています。

誰も参加者を否定しない、ありのままの自分でいられる居場所づくりが、ふわさぽ倉敷が目指す場所。

学校に行けないことで、つらい思いをしているのは子どもですが、親・保護者も不安や心配を感じています。

倉敷市内に限らず、ひとりでも多く必要なかたに来てもらえるよう、ときには場所や時間帯を変えた出張座談会をおこなうなどの工夫がされています。

▼2022(令和4)年度 出張座談会

写真提供 : 仲間のいる不登校の親の会 「ふわさぽ倉敷」

活動内容2:情報共有・情報提供活動

座談会では話をするだけでなく、さまざまな情報が提供されています。

これまでにも、専門家が参加して子どもへの対応を共有したり、高校教諭や民間の支援者が具体的な支援情報を提供したりしました。

他の支援団体のパンフレットや冊子がいつでも手に取れるよう用意されているほか、ふわさぽBOOKSと称して、書籍の貸し出しもおこなわれています。

活動内容3:イベント企画

ときには、座談会から飛び出して、親子で楽しめるイベントが企画されることもあります。

▼2022(令和4)年度 イベント活動記録

写真提供 : 仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」クリスマスキャンドルワークショップ / 場所 : キャンドルフェアリー

ふわさぽ倉敷としての活動以外にも、他の支援団体と積極的につながり、活動の輪を広げています。

増え続ける不登校といわれる子どもたちの数

2012(平成24)年から9年間で、不登校児童・生徒数は増加しています。

不登校とは

不登校とは

年度内に30日以上欠席しているもののうち、何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあるもの(ただし、「病気」や「経済的理由」、「新型コロナウイルス感染回避」によるものを除く)

2022(令和4)年10月に文部科学省から「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」が発表されました。

調査結果によると、全国の国公私立小・中学校の不登校児童・生徒数は244,940人

令和2年度同調査結果の196,127人から48,813人増え、2020(令和2)年度から2021(令和3)年度への増加人数14,855人を遥かに上回りました。

令和3年度調査結果から、倉敷市教育委員会が倉敷市議会で報告した倉敷市立小・中学校の不登校児童数は700人

令和2年度調査結果の同数は581人で、全国と同様に増えています。

不登校に関する支援団体

倉敷市では、支援団体を紹介するための冊子、メンタルほっとラインを作成しています。

表紙は支援団体の一覧表になっており、「親の会」や「子どもの居場所・通う場所」など各団体の支援内容が一目でわかるよう工夫されています。

市内の支援団体がまとめられた冊子-メンタルほっとライン

不登校に関する支援団体のひとつ、仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」を立ち上げた、北村康代(きたむら やすよ)さんにお話を聞きました。

仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」代表・北村康代さんにインタビュー

不登校の子どもの親を対象に、支援団体を立ち上げた北村さん。

立ち上げの経緯や活動への思いを紹介します。

仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」ができるまで

──ふわさぽ倉敷をはじめたきっかけを教えてください。

北村(敬称略)──

私の娘が、小学2年生のときに不登校になりました。

すぐに学校に行けるようになるかと思いましたが、そうはならなくて。

いろいろと相談に行くなかで、「お母さんは笑顔じゃないといけない」と言われたことがあったんです。

そのときに、「お母さんだってしんどい思いをしているから、泣いたっていいと思うのに、会に参加したときも笑顔でいないといけない、お母さんが頑張るように投げかけられてしまったら、もっと行き場がなくなるような気がする」と思ったんです。

そこで、泣いたってなんだっていいよという、ありのままを受け入れるような場があったらいいな、という思いで立ち上げました。

仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」代表・北村康代さん

──座談会で大事にされていることを教えてください。

北村──

否定をしないことです。

お母さんが泣くことがあっても、それでいいよという場であり、お母さんの思いも含めて丸ごと受け止めることを大事にしています。

子どもが不登校になった最初のころは、お母さんはどうしていいかわからず、気持ちも浮き沈みします。

ただ、少しずつ心を開いて年月が経つと、どのお母さんも葛藤がありながらも、このままでもいいのかな、この子の意思を尊重していけばいいのかなという思いが出てきます。

そうなったときに、次はお母さん自身が何をやりたいのか、お母さん自身の得意をいかせる活動ができればいいなと思っています。

座談会にはお父さんが来られることもあります。

お父さんだけだったり、ご夫婦だったりで来られることもあるのですが、お父さんの中にも子どものことを受け止めているかたもいれば、どうしたらいいかわからないという理由で来られるかたもいます

外でお仕事をするお父さんに比べると、お母さんが子どもと一緒にいる時間のほうがどうしても長くなることも多いと思います。

そんなときは、お父さんは、お母さんが一人で抱え込まないように味方でいてほしいですし、お母さんや子どもへの対応もいつも通りでいてほしいなと思います。

──座談会を重ねるなかで、今思うことはありますか。

北村──

学校に行けないことで、お母さんが責められるかもしれないと思いながら相談するのは、やっぱりちょっとしんどいと思います。

同じ親同士でつながれて、「私もそうだったよ」という共感がほしいし、誰かに認めてほしい気持ちがきっとあると思っていて。

私自身の経験で、何がいちばん良かったかというと、同じ境遇について話ができたことや、「私はこうだったよ」という少し先を行く先輩と出会えたことで安心感が得られたことでした。

私自身が感じたようなことを、みなさんにも感じてほしくて、そういう場をつくりたかったんだな、と思います。

なので、座談会に来られるかたがしっかり話をできたかどうか、というのは毎回気になります。

とくに新規のかたがたくさん来られたような回があると、座談会の工夫が必要だなと感じることも出てきました。

フォローとしては、LINEのチャット機能を使えるようにしています。

参加できないひとにも活動を届けたい

──LINEのお話が出ましたが、ほかにも公式ホームページやSNSでの情報発信に力を入れられているように感じました。

座談会ではたくさんのパンフレットが陳列されている

北村──

必要だけどまだ届いていないひとに、どう届けるのかを常に考えています

来られない、参加できないひとがいるなかで、どうやって参加内容を届けるのか。

会に来られないひとは、ひたすら子どもと向きあってしんどい思いをしているかもしれないという思いがあって、そういうひとたちに少しでも届けばいいなと。

出張座談会では、早島だから来られました、玉島だから来られましたと言ってくれた参加者もいました。

会に来たひとたちに、有益な情報を持ち帰ってもらいたいと思っていますし、SNSで発信したら、来られないひとたちにも同じように届くかもしれないと思っています。

Web上では不登校関連の情報もまとめて載せるようにもしています。

あちこちの団体の活動に行くのも、知りたいひとがいるかもしれないから、私が代わりに動いているという感じです。

──確かに、座談会開催以外に、代表自身がいろいろな別団体の活動に参加されていますね。

北村──

自分たちの団体の一番大きなビジョンとして、孤立のない子育てができる地域にしたいという思いがあります。

そのために自分たちが何ができるのかと考えたとき、まずはふわさぽ倉敷という団体があることを知ってもらうことが前提だと思いました。

子どもたちが学校に行けなくなったとき、お母さんたちは不安になります。学校で情報がもらいにくかったりすると、みんなはどうしているのかと思ったりもする。

座談会にハードルの高さを感じるひとや、不登校だから行く場所だと思うことでネガティブな印象を持つひともいます。

そこで、不登校であるかないかにかかわらず、知っておいてもらうことで、ハードルの低さにつながればいいなぁと。

不登校に限らず子育て支援をしている団体とコラボレーションをすることで、ふわさぽ倉敷を知ってもらい、お母さんにお守りのように思ってもらえたらと思っているんです。

予防ではないですが、不登校になってから知るのではなく、なる前から知っておくというか。

孤立のない子育てを目指して

──孤立のない子育てについて教えてください。

写真提供 : 仲間のいる不登校の親の会「ふわさぽ倉敷」

北村──

自分の子育てを振り返ってみたときに、すごく頑張っていて、だれにも相談できなかったという思いがありました。

産前から、みんなに助けられて子育てができたお母さんは、何かあったとしても助けを求められると思うんです。

一方、お母さんだけで頑張っているひと、まじめなひとはなおさらなかなか相談できなくて、自分で抱え、孤立してしまう

自分の体験から合わせて考えると、やっぱり産前から自然に相談できたほうが、何かあってからよりはいいと思ったんです。

座談会をしているなかでも、まじめなお母さんほどひたすら頑張って、やっとしゃべられましたというかたがいます。

まわりに相談ができるかたがいらっしゃらなかったのかな、という疑問もあって、産前産後を支援する団体とつながりながら、まずはふわさぽ倉敷を知ってもらうことをはじめました。

──就学時に限らず、もっと最初からみんなで子育てができる地域にということでしょうか。

北村──

そうですね。

反対に不登校に限っていうなら、不登校になった親子の理解者を増やしたいと思っています。

学校に行くことが当たり前かもしれないけれど、それ以外の選択をする子もいるよっていうことを、受け止められる風土にしないと、お母さんたちはひたすら抱え、孤立を深めてしまいます

お母さんがひたすら自分で何とかしなければと頑張ることで、親子関係が悪化することもあります。

若い人からお年寄りまで、学校に行かなくてもそういう生き方もある、と認め合える優しい世の中になればいいなと思います。

今は、学校に行っていないだけ。学校に限らなくても、いろいろなところがあるといい。

──今後の活動について教えてください。

北村──

来年度(令和5年度)からは、座談会の時間延長からはじめて、それぞれの得意なことを得意な人が中心になって進めるサークル活動のようなものができればと思っています。

何もなくても話せるひともいますが、そうでないひともいます。

何か手を動かして作業をするうちに、「実はね」と本音が出ることもあります。

ひたすら手を動かすことに集中して、何も話さなくてもいい。

子どもと離れて自分の時間を楽しむ空間であってもいいと思うんです。

あとは不登校経験者が、自分の経験を話せる場所があってもいいんじゃないかとも思っています。

お母さんたちは、子どもにこうしてほしいという思いがあると思うんですが、実際は子どもがどう思っていたかを聞く機会はなかなかありません。

不登校経験者は、自分自身を表現することで自己覚知を深められ、お母さんは子どもの話を聞ける、どちらにとってもいいことになるのではないかと思います。

不定期に会でネイルケアを提供してくれるのは、不登校経験者のボランティアスタッフ

おわりに

北村さんのお話からは、一貫して、親・保護者がひとりで悩まないようにするために何ができるかという強い思いを感じました。

社会が多様化に向かおうとしている今、学校に行けないことをくくって、そこにフォーカスするのは違うのかなという気持ちはあります、と北村さんは言います。

それでも今は、不登校という旗をあげないと困っているひとたちが集まってこられない、それではどうしていいかわからなくなるので、ぶれることなく旗をあげ続けていこうと思います

そう、お話を締めくくっていたようすがとても印象的でした。

2017年に施行された教育機会確保法を受け、文部科学省が出した基本指針を見てみると、不登校というだけで問題行動であると受け取られないように配慮すること、という文言があります。

学校以外で学ぶ選択肢を広げようとする動きがある一方、親・保護者の世代は、学校に行くことが当たり前だと教えられたひとも多く、学校に行かないことで不安を感じたり、心配になったりするひとも多いように思います。

学校に行けないことでつらい思いをしている子どもと親・保護者にとっても、そうでないひとにとっても、いろいろな選択肢が受け入れられる社会になればいいと思いました。

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