旭川の老舗「水野染工場」伝統の技をデジタルで継承

空気に触れることで馴染みの藍色になる

今回紹介するのは、旭川の「水野染工場」。創業116年の老舗だ。大漁旗やお祝い事用の旗、半纏、はっぴ、のぼりなどの商品を手掛け、去年「藍染結の杜」という体験型の観光施設を美瑛町にオープンした。職人の世界はどの業界でも高齢化や担い手不足が問題となっているが、なぜ成長を続けられているのだろうか。

【藍染め体験で観光客呼び込め】

美瑛町にある体験型観光施設「藍染結の杜」。去年7月にオープンした。ショップの横では誰でも作品づくりに挑戦できる。

今回は中村秋季乃アナウンサーが藍染めに挑戦した。さざ波のような模様ができる「つつまき絞り」と、「むらくも絞り」という2つの技法だ。

藍染めで最初に布につく色は、緑色。空気に触れたところで深い藍色になる。世界に一つだけの模様に、中村アナも満足したようだ。この体験、2歳からできるのだという。

空気に触れることで馴染みの藍色になる

体験で使う藍は、敷地内で育てたもの。夏場には藍の畑を眺めながら体験できる。

そしてこの施設、2階にはこんな場所も用意されている。藍の新芽で煎じたお茶を
楽しむことができるスペースだ。

藍のお茶は、藍色ではなくほぼ透明

水野染工場はこの美瑛の施設を藍の魅力を発信するテーマパークと位置付け、地域の観光振興につなげようと考えている。藍を育て製品を販売、ものづくりを体験しながら食も楽しむことができる6次化が目標だ。

【116年の歴史 伝統をデジタル技術で継承】

旭川にある水野染工場。綿の生地に絵柄や文字を染め付ける印染の老舗だ。

1907年に富山県から旭川に移って事業を始めた。

116年の歴史の中で受け継がれてきたのが、引染という技法。一点一点、丁寧に染めていく。旗や幕、のれんに使われる伝統的な染め方だ。

その引染でお祝い用の旗を作っていた、古川さん。入社しまだ1年目だ。

入社3年目の高木さんは、大きなへらを使って染める捺染という技法に取り組んでいる。

この2人のように、社内を見渡すと若い人たちがとても多い。社員39人の多くが20~30代。そして、その7割は女性だという。一人前の職人になるのに5~10年はかかると言われている染物業界。そんな中、こちらでは入社1年目から製品づくりに関わっているということなのだが、一体、どういうことなのか。

入社1年目から製品を作れる理由、それは職人技のマニュアル化だ。例えばこの、色の調合、3万パターン以上あるということなのだが、作り方が分かるレシピを用意し、誰でも同じ色を再現できるようにした。

このマニュアル化を始めたのが、4代目の水野社長。1997年に社長に就任。当時社員は3人しかおらず、自らは職人と社長業の二足の草鞋。多忙を極める中、業務を効率化しようと取り組んだのが、パソコン導入によるシステムのデジタル化だ。

手書きだった顧客の情報管理もデジタル化。業務効率が高まり、生産性は25%アップ。半纏は最短で14日、旗は7日で納品できるようになった。

さらに、デジタル化にあわせて始めたのが、当時はまだ珍しかったインターネットを活用した通信販売だ。初年度の売り上げは30万円だったが、2年目は300万円、3年目は1200万円と右肩上がりで成長。染め物を手掛ける会社が全国的に減り続ける中で、うまく受け皿となり需要を取り込んだ。

2004年には東京進出も果たした。2020年には日比谷店も出店。この効果で売上高は5億円となった。社長就任時に比べ、実に5倍増加した。

水野社長は「北海道で例えば半纏を1枚買うのに1万円なら高いと言われる。東京なら、1枚3万円でも安い」と話す。

【社員の満足度も重視 社員評価も最先端】

取材の日、何やらパーティーが行われていた。毎月開かれている社員の誕生会だ。社長と社員のコミュニケーションの場として始まり、ことしで10年目。女子会もあるのだという。

職人の世界は見て技を盗むという独特な環境が多いが、短期間で実力をつけてもらうためには教わる側が何でも気軽に聞けて教える側も働きやすい職場づくりに努める、そんな環境が必要だと考えた。

人事評価の面でも、上司が部下を評価するだけではなく、部下も上司を評価するという360度評価を取り入れている。

水野社長は「我々のような中小零細企業は一生同じ上司に仕えないといけない。部下も上司を評価できるように、また周りの人たちもその状況を評価できるような制度にしている」と話す。

【MC杉村太蔵さんの一言】

MCの杉村太蔵さんは「保守のためには革新が必要」と話した。代々受け継がれてきた伝統・技術を継承するためには、会社としての成長・挑戦がなければ難しい。次々と新しい挑戦を続ける老舗に、学ぶところは多そうだ。

(2023年3月18日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

© テレビ北海道