「国権の最高機関」である国会、しかも「良識の府」とされる参院で、なぜこんな事態が起きたのか。既成政党も含め、重く受け止めなくてはならない。
昨夏の参院比例代表で当選後、登院していない政治家女子48党(旧NHK党)のガーシー(本名・東谷義和)議員について、参院懲罰委員会が除名案を可決した。きょうの本会議で正式決定する。
憲法を根拠とする除名は懲罰で最も重く、議員の身分を奪う。1951年以来である。参院は先月に「議場での陳謝」を科すと決めたが、同氏はそのために開かれた今月8日の本会議も欠席した。
同氏は「国会に出ないと公言して当選した」「帰国すれば不当逮捕の恐れがある」などと身勝手な理由を繰り返すばかりだ。有権者から負託された議席は重いが、議員自ら職責をおとしめるのでは、厳しい処分はやむを得ない。
懲罰委では同党の浜田聡政調会長が本人の代理で弁明した。除名の懲罰は「人権侵害であり、民主主義の破壊だ」と述べたが、ルールを踏みにじっているのはほかならぬ自分たちだと自覚すべきだ。
擁立した旧N党の責任は厳しく問われる。立花孝志前党首は問題を受けて党首を辞任したが、除名後に繰り上げ当選となる議員も登院させないと発言している。
反省どころか脈絡なく党名を変え、これを機に注目を集めようとしているかに見える。芸能人のスキャンダルを暴露するなどと訴えた参院選の政見放送も含め、有権者を愚弄(ぐろう)する振る舞いは、いい加減にしてもらいたい。
多様な有権者の声を反映するために少数政党の役割は大事だ。小さな党でも公平に政治活動ができるよう政党助成金や歳費、政見放送などの制度がある。「不逮捕特権」もそうではないか。
ガーシー氏にはこれまでに、2千万円近くの歳費や手当が支払われているという。
そうした民主主義を守るための仕組みを、ことごとく悪用し、私物化しているのは罪深いと言わざるを得ない。
旧N党は政治に対する国民の不信感に訴えて一定の支持を得た面もある。一連の職責放棄は重大な背信にほかならない。有権者も言行をしっかり見極め、監視する必要があろう。
党利党略が目立つ選挙制度改革や、たなざらしの文書通信費見直しなど、既成政党側にも今回の事態を招く要因があったのではないか。ガーシー氏の除名で終わりではなく、問題意識を持つべきだ。