衝突リスクのあった小惑星「2011 AG5」の細長い形を「ゴールドストーン深宇宙通信施設」が観測

小惑星が地球に衝突する可能性およびその影響を表す指数の1つに「トリノスケール」というものがあります。トリノスケールでは、衝突する可能性の高さと、衝突によって引き起こされる災害の重大さによって、小惑星が0から10までの11段階で評価されます。大半の無害な小惑星は0に分類されていますが、1以上の数値が付けられる小惑星も年に数個ほど発見されています。ただ、トリノスケールで1以上の値が付けられた小惑星は、その大半が発見後の追加観測の結果を受けて0に再評価されています。この記事の執筆時点では「2023 DW」という小惑星がトリノスケール1と評価されており、0より大きな数値が付けられた唯一の小惑星となっています。

小惑星のトリノスケールが再評価されて小さくなるのは、最初の評価が発見直後の数少ない観測記録に基づく小惑星の軌道予測をもとに行われており、それだけ不確実性が高いからです。その後の追加観測でより詳細な軌道が算出されると、小惑星の評価は “地球に衝突するかもしれない” から “地球に衝突しない” に変わり、トリノスケールが0に引き下げられるのです。例えば、直近では「2023 AJ1」という小惑星が2023年1月14日から1月29日までの観測記録に基づいてトリノスケール1と評価されていましたが、2月8日には0に引き下げられています (※1) 。このような例は珍しくありません。

※1…正確には、数値の更新なしにJPL(ジェット推進研究所)が運営するリスクのある小惑星のリスト「Sentry Table」から削除されています。0への再評価は珍しくないため、情報を更新せずに削除されることはよくあります。

この点で、367789番小惑星「2011 AG5」は珍しい事例でした。直径約140mのやや細長い形状を持つと推定された2011 AG5は、2011年1月8日に発見された後、300日以上に渡る213回の観測記録が積み重ねられた後もトリノスケールが1のままで、この時点では2040年2月5日に0.2%の確率で衝突すると評価されていました。もしも地球に衝突した場合、衝突時に放出されるエネルギーは約100メガトン(旧ソ連が実験を行った史上最大の核兵器「ツァーリ・ボンバ」の2倍に相当するエネルギー)と見積もられています。

ただし、2012年10月に2011 AG5が地球の近くを通過した際の追加観測で、この評価は見直されることになりました。2040年の接近時には地球へ衝突しないことが確実になったためです。この再評価によって、2011 AG5は2012年12月21日にトリノスケール0となりました(※1)。2011 AG5は発見から約2年という長い期間に渡ってトリノスケール1以上に評価され続けたという点で、珍しい事例です(※2)。

※2…1年以上トリノスケール1以上に評価されていた小惑星は、2011 AG5の他には「アポフィス(最高4)」「2004 VD17(最高2)」「1997 XR2(最高1)」「2007 VK184(最高1)」しかありません。

【▲ 図: 2023年2月4日に撮影された2011 AG5にのレーダー画像。細長い形状をしていることがわかる(Credit: Lance A. M. Benner/NASA/JPL-Caltech)】

2023年2月上旬、2011 AG5は地球から約180万kmの距離を通過しました。これは2011年の発見時や2012年の最接近よりもずっと短い距離です。この機会を狙って、天文学者は2011 AG5の詳細な観測を試みました。かつて、このような小惑星の接近時には「アレシボ天文台」の電波望遠鏡で観測が行われましたが、同望遠鏡は2020年に発生した致命的な破損を受けて廃止(その後崩壊)されたため、現在は使われていません。そのため、感度は劣るものの「ゴールドストーン深宇宙通信施設」の電波望遠鏡が代替として利用されました。

2023年1月29日から2月4日にかけて行われた今回の電波観測では、2011 AG5の正確な位置、形状、自転速度などが判明しました。例えば、直径約140mの細長い形状であるというかつての推定は、やや過小評価だったことが判明しました。実際には、長い部分で500m、短い部分でも150mと、以前の推定よりも大きく、かなり細長い形状であることがわかりました。縦横比10:3という比率は、レーダーによって観測された約1000個の地球近傍天体の中でも最も細長い小惑星の1つとなります。自転速度は9時間26分と、このサイズの小惑星としてはゆっくりとした自転速度であることも判明しました。また、レーダー画像では尾根やクレーターのように見える表面の形状も確認できます。

小惑星の接近遭遇は、正確な軌道を確定するのに役立つだけでなく、小惑星の形状などについても正確なデータを得る機会となります。このような観測データとノウハウの積み重ねは、将来本当に危険な小惑星が見つかった時に役立つでしょう。

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文/彩恵りり

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