「経営者」の発想で運営した大阪大サッカー部主将 スポンサー確保、小学生に勉強教えてファンを増やす

 シーズン最終戦で仲間に指示を出す大阪大サッカー部主将の北野祥太さん(中央)=2022年11月、大阪府吹田市

 大阪大サッカー部は4月に、地元の小学生を対象に塾と一体化したサッカーチームを設立する。利益の一部は大学に還元し、将来的には大学と協力して子どもの成長データを解析することで、効果的な指導方法を確立することも視野に入れている。大学の体育会系といえば、勝利至上主義や縦社会の人間関係などのイメージが思い浮かぶが、2022年度に阪大サッカー部主将を務めた北野祥太さんは「部員のみんなが豊かな大学生活を送れるように、愛し愛される組織になること」が目標と話す。強化費捻出に向けたスポンサー確保や地域貢献にも力を入れる。「経営者」の目線で部活を運営してきた北野さんの取り組みを取材した。(共同通信=浜谷栄彦)

 ▽「自分たちの意義はどこにあるのか」
 北野さんは2022年春、主将に就くと同時に「愛し愛される組織に」という理念を掲げた。大学スポーツ界において阪大サッカー部の注目度は高くない。観客もまばらな関西学生リーグ2部で戦う自分たちの存在意義はどこにあるのか。「サッカーをやるだけが僕たちの価値ではない」。北野さんは、私大と比較して大学から支給される活動費が少なく選手の才能にも恵まれない国公立大サッカー部の希望になろうと考えた。「環境を悲観するのではなく、変えられる範囲に全力を注ぐ」。資金の自力調達と自分たちの強みを生かした地域貢献に力点を置いた。

 大阪府寝屋川市の住宅リフォーム会社「住まいのイシハラ」と交渉し、年間60万円の協賛金を獲得した。以前からのスポンサーである大阪市の料亭と合わせると年間120万円になり、外部から招いた指導者への謝礼にした。

 同じ吹田市を本拠地とするJリーグ1部ガンバ大阪のジュニアユース(中学生)の選手に勉強を教える学習支援も始めた。

 筆者は2022年9月、阪大サッカー部員が定期的に実施している住まいのイシハラ経営者とのごみ拾いに同行した。午前8時から約30分、寝屋川市内を歩く。北野さんと後輩の部員は、石原一矢社長と世間話をしながら、たばこの吸い殻などを拾い集めた。

 北野さんは「ただお金をもらうだけだと持続性がない。僕たちに支援することで利益が生じる関係を築きたい。その先にお互いの発展がある」と話す。石原さんは「学生さんが関わってくれるとわれわれは元気が出る。彼らには、社会貢献の延長線上にあるのがビジネスだと伝えている。何かを学んでもらえたら」と話した。資金提供を決めたのは長男で常務の石原一真さんだ。「阪大への支援はうちのイメージアップにつながっている」と評価した。

 ごみを拾う北野祥太さん(中央)=2022年9月、大阪府寝屋川市

 ▽サッカーと勉強の両立
 新たな取り組みとして始めたのが、小学生を対象にしたサッカーチームだ。部員が主体となって小学生に勉強も教える。北野さんは後輩と近隣の小学校を回ってチラシを配り参加者を募集した。

 3月上旬、大阪府吹田市の阪大グラウンドで開いた体験会に100人を超える小学生が集まった。小学生は屈託なく部員と話し、緑鮮やかな人工芝の上でじゃれ合う。保護者を含めて、サッカー部に好印象を抱いた様子だった。

 プロジェクトの目的は収入の確保と地域貢献だ。活動は週3回。毎回、勉強とサッカーを各90分教えて月謝は3万円。1学年で最大20人の参加を想定する。一方的に知識を与えるような教え方はしない方針だ。子どもがなぜそう考えたのか、一緒に深掘りして、自分で課題を乗り越える思考力を持った人材を育てたいという。

 小学生を対象にしたサッカーチームの体験会で参加者と遊ぶ北野祥太さん=3月5日、大阪府吹田市

 工学部に在籍した北野さんの専攻は船舶海洋工学。海底資源の探索に使う道具が海流から受ける揺らぎを解析し、卒業論文にまとめた。「指導方法だって科学的に研究できるのが大学生の強み」と話す。

 小学生チームの運営は、施設の有効活用という点でも意味がある。阪大の体育会各部がグラウンドを使うのは授業が終わった夕方以降。空いていることが多い午後3~5時に使用する。グラウンドの稼働率を上げて収入を得られるようになれば、電気料金の高騰にあえぐ大学に利益の一部を還元できる。

 スポンサー探しや小学生チームの設立などの活動は、京都大サッカー部OBの赤倉一行さんがアドバイスしてきた。高校までJリーグクラブのユースチームでプレーし、大学卒業後、三菱商事に入った。現在は業務委託を受けて外資系生命保険会社の営業をしている。これまでの経験から「スポーツ、ビジネスを問わず、主体性を発揮している人は少ない。言われたことをやればお金がもらえると思っている。仕事は本来、自分が価値を提供し、お金を払ってくれる人がいるから成立する」と強調する。

 大阪大サッカー部の学生と話す赤倉一行さん(右端)=3月5日、大阪府吹田市

 ▽理念達成のために手段尽くす
 阪大サッカー部の2022年シーズンは関西学生リーグ2部で13校中5位に終わった。目標に掲げた1部昇格は果たせなかったが、北野さんは「観戦してくれる人を幸せにする」という願いはかなえたと感じている。

 筆者は約25年前、早稲田大山岳部の主将だった。年間120日を山の中で過ごすほど入れ込んだが、体験を通じて得たものを社会に提供する発想は皆無だった。部活動の原資は主に大学側からの支給金とOBの寄付金、あとは部員のアルバイト料などで活動を続けた。自分たちの価値を証明し対価を得ようなどとは夢にも思わなかった。

 阪大サッカー部の2023年度主将になった島岡諒さんは「文武両道の価値を地域に還元し、教育とスポーツを盛り上げたい」と爽やかな表情で語った。

 大阪大サッカー部のシーズン最終戦=2022年11月、大阪府吹田市

 東京大サッカー部も近年、スポンサー獲得に乗り出している。東大サッカー部の渉外担当の学生は「単なる資金集めではない。企業との関わりを通じて自分たちの価値を知り、社会課題の解決に向けて何ができるか考えるようになった」と答えた。京大サッカー部のスタッフとして運営を支える大学院生は「社会に開かれた存在でありたい」と気負いなく話す。

 ここまで読んでくれた人は何を思うだろうか。筆者は北野さんをはじめとする学生たちに頼もしさを感じた。難関国立大のサッカー部は、大学日本一を争うようなレベルではない。日ごろ報道される機会が少ないため、その実像が広く伝わっていないのではないだろうか。競技力とは別の尺度で目を向けると、発見の連続だった。

 4月から伊藤忠商事に入社する北野さんのように、学生たちの多くは卒業後、大手商社や金融機関などに就職したり、起業したりする。内にこもらず、社会のさまざまな立場の人と触れ合い目的を共有した経験はきっと役に立つ。

 最後は、北野さんの言葉で締めくくりたい。「練習をがむしゃらに頑張るだけでなく、理念達成のために必要な要素を分析し、全ての手段を尽くす過程は充実していた。それが僕にとっての経営だった」 

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