社説:春闘集中回答 継続的な賃上げ広げよ

 今年の春闘は、きのうの「集中回答日」で自動車、電機など主要企業の回答が出そろった。

 歴史的な物価高を受け、基本給を底上げするベースアップ(ベア)などで近年にない高水準の賃上げ回答が相次いだ。

 最大手のトヨタ自動車、ホンダなどは、集中回答日を待たずに労働組合の要求通りの「満額回答」をそろえた。トヨタの平均賃上げ額は過去20年で最高水準という。

 日立製作所、三菱電機など電機7社も、昨年から2倍超のベア月額7千円の要求に満額で応えた。春闘相場のけん引役として賃上げ拡大へ勢いをつけたといえる。

 ただ、直近の実質賃金は10カ月連続で目減りしており、物価上昇を補うには力不足との声も多い。エネルギー・原材料高が続き、経済の不透明感が拭えない。労働者の7割が働く中小企業をはじめ、力強い賃上げをどこまで、継続的に広げられるかが問われる。

 今春闘では、「生活防衛」を掲げて連合がベアと定期昇給分を合わせた賃上げ要求を5%程度と28年ぶりの高さにし、各組合は要求額を大幅に引き上げて臨んだ。

 経営側はこれまで雇用維持や競争力確保を理由に慎重だったが、賃上げによる経済の下支えが必要との認識が広がった。異例の「要求額超え」を含め高額回答が相次ぎ、地元企業も任天堂が10%増、日本電産や王将フードサービスが7%引き上げを公表した。

 新型コロナウイルス禍の影響緩和や円安に伴う業績回復に加え、人手不足も背景にある。従業員の生活維持に消極的では現場の士気低下を招き、人材獲得に支障が出かねないとの判断といえる。

 非正規労働者の待遇改善も重要テーマだ。流通大手イオンはグループ傘下約40万人のパート時給を平均7%引き上げるとした。幅広い賃金底上げに向け、労使交渉の正面に据えてもらいたい。

 今後の焦点となる中小企業の賃上げは一筋縄でいきそうにない。

 東京商工リサーチの2月調査で、ベア予定の中小企業割合は50%弱と大企業より7ポイント近く低い。運輸、サービスなどでコロナ禍の影響も残っている。賃上げしない企業の理由は「コスト増を十分に価格転嫁できない」が約6割で最も多く、足かせとなっている。

 岸田文雄政権は、業績回復した企業に3%超の賃上げを呼び掛けてきた。下請けの取引改善や適正な価格転嫁に向け国の監視・支援を強めるとともに、大企業が積極的に責任を果たすよう求めたい。

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