
今年の春から夏頃に海洋放出の方針が決まった福島第一原発の処理水。政府が漁業者と約束を交わした“関係者の理解”について検証します。(全4回②のうち②)
海外でも行われている「トリチウムの放出」
議論の焦点となるのが放射性物資「トリチウム」です。
2011年の福島第一原発の事故後、原子炉建屋では、原子炉を冷やすために注入した水や雨水などが溶け落ちた燃料に触れ、放射性物質で汚染された水「汚染水」が発生しています。
東京電力は、この汚染水を処理するため、アルプスと呼ばれる設備を使い汚染水を浄化していますが、トリチウムは取り除くことができず、これまで「処理水」として原発港内のタンクに保管してきました。
「トリチウム」は、自然界に存在する放射性物質で「水素の仲間」に位置づけられています。トリチウムはベータ線を放出しますが、人体への影響は小さいとされています。
そして、政府の計画では、このトリチウムを含む処理水を年間22兆ベクレル下回る量を海へ流す予定です。
問題となっているトリチウムの放出ですが、実は国内をはじめ海外でも行われています。経済産業省によりますと、世界各国の原子力発電所では、この「トリチウム」を液体廃棄物として海や川へ流しているほか、大気にも放出しています。
国内と隣国をみてみますと、2019年は国内の原発で175兆ベクレル、韓国では205兆ベクレル、そして中国では907兆ベクレルのトリチウムが放出されているということです。
政府と東京電力は、処理水の安全性を訴えていますが、漁業関係者は海洋放出計画に強く反対しています。
ヒラメ・アワビを処理水で飼育
奥秋直人キャスター「この中にはたくさんの機械がありますが、こちらはどんな施設ですか?」
東京電力 山中和夫さん「こちらが管理区域の中で、ヒラメ、アワビ、海洋生物を飼育している施設になります」
試験では、「ヒラメ」と「アワビ」それぞれ800匹ほどを海に放出する際と同じ濃度に薄めた処理水で飼育し、通常の海水で育てたものとトリチウムの濃度を比較します。
山中さん「こちらは普通の海水にアルプス処理水を混ぜてトリチウムの濃度を約1300ベクレルに調整している」
奥秋「現状はどうですか?海水とトリチウム水と比べて」
山中さん「全く違いはありません」
これまでのところ、ヒラメとアワビの体内でトリチウムの濃縮は確認されておらず、異常はないということです。
山中さん「実際にトリチウムを含んだ海水で飼育をすることで、魚、貝が通常海水と同じように元気に育っているという姿を目で見て分かっていただくというのが一番重要だと思っている」
専門家「影響は科学的には考えられない」
さらに、処理水の海洋放出について専門家は、人体への影響はないと話します。
茨城大学大学院理工学研究科・田内広教授「私達の体の中の水にも1Lあたり0.5から1ベクレル、トリチウムがある」
こう話すのは、茨城大学で放射性物質を研究する田内広教授です。
トリチウムは、自然界に存在する放射性物質で、水道水や雨水、食べ物にも含まれているといいます。
田内教授「食べ物はみんな水分を持っているから、基本的に食べるもの、飲むもの全部(トリチウムが)入っていると考えていただいた方がいい」
田内教授によりますと、仮にトリチウムを含んだ水を体内に取り入れた場合、10日ほどで半分程度が尿などで排泄され、体内に溜まり続けることはないということです。
田内教授「実際には放出されればもっと薄まりますから、影響は基本的に科学的には考えられないレベルになっている」
示されない、関係者の「理解の基準」
それでも、海洋放出に強い反対を示す福島県内の漁業者。
県漁連の野崎哲会長は、その背景に「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」とする政府の約束があると話します。
県漁連・野崎哲会長「決定のあり方については、我々にその関係者の合意なしには海洋放出をしないという約束を入れたうえでの決定については反対するという立ち位置です」
2月、いわき市で行われた西村経済産業大臣と地元漁業者との意見交換では、政府への不信感を口にする漁業者がいました。
県内の漁業関係者「処理水は漁業者の理解無くして放出はしないということになっているが、我々漁業者が理解を示していないにもかかわらず、春から夏にかけて放出という報道がなされるのはなぜか」
西村経済産業大臣「以前から申し上げている通り、関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないという方針で臨んでいる。これからもしっかり丁寧に説明していきたい」
この「関係者の理解」の基準について、西村大臣は・・・。
西村経済産業大臣「何か特定の指標や数値によって一律に判断すべきものではないと思う」
このように話し、明確な判断基準について回答を避けました。
漁業者との約束を反故にし、海洋放出を実行するのではという報道陣の質問に対しては・・・。
記者「仮に県漁連、漁業者からの理解を得られないままの海洋放出も十分あり得るという風に考えてよろしいでしょうか」
西村大臣「皆さんのご懸念を払拭して、理解が深まるように全力を挙げて取り組んでいきたいと。」
「理解が深まるように取り組む」とくり返すに留まりました。
東京電力は、関係者の理解の基準についてどう思っているのでしょうか?
奥秋キャスター「先日も西村大臣が「関係者の理解なしにはいかなる処分もしないという方針はそのままである」という話をしたが、東京電力としてもそういうことでいいのか」
東京電力 福島第一廃炉推進カンパニー・小野明プレジデント「理解ということは、各々の方々の受け止め方だと思う。そうなると、なかなか1つに定義することも難しいですし、何か1つ指標を作って判断するということも私は難しいと思っています」
東京電力も“理解の基準”について明言を避けました。
海洋放出が迫るなか、政府、東電と漁業者との議論は平行線を辿っています。