ど派手な〝不良漫画〟のような新成人たち、その素顔をのぞいてみたら…実はまじめだった

ど派手な衣装で「二十歳の記念式典」に参加した(左から)小野幸佳さん、諸岡麗也さん、栄鉄奨さん=1月8日、北九州市小倉北区

 巨大なリーゼントに金銀の刺しゅうを施した羽織はかま、名前が入ったのぼり旗…。福岡県北九州市の成人式の光景だ。1月8日、北九州メディアドームで新成人を祝う「二十歳の記念式典」が開かれ、約3100人が集った。毎年、驚くほど派手な衣装や髪形で全国の注目を集めている。門出を祝う会場で出会った彼らのいでたちは、ひと言で表現するとまるで「不良漫画」の世界。一見すると近寄りがたい。
 ただ、彼ら彼女らが式典を荒らしたり、騒ぎを起こしたりすることはない。独創的な格好をそれぞれが満喫しているだけのようだ。眺めているうちに、彼らはどんな思いでこういう格好を選んだのだろうか、どんな素顔を持つ青年なのだろうかと興味を持ち、声を掛けてみた。すると、意外にも社会人として一歩を踏み出そうとする真面目な姿が浮かび上がってきた。(共同通信=小向英孝)

建設業に就く諸岡麗也さん。成人式を終え、短髪にした=1月22日、北九州市八幡東区

 ▽高校時代は生徒会長
 北九州市八幡東区の諸岡麗也さん(20)の姿はひときわ目を引いた。赤や緑に染まるカラフルな髪と巨大な羽織はかま姿で、はかまはピンク色の生地に花柄の模様があしらわれている。「頭をリーゼントにしているので、悪くなりすぎないように、女の子っぽさを出した」。ピンク色が好きな友人と同系統の衣装をそろえ、統一感も狙ったという。リーゼントは地毛だ。前日夜から始めた髪のセットは明け方までかかったという。
 「それなりの格好がしたい」と考え、前年の式で目にした姿を参考に、貸衣装店と打ち合わせを繰り返した。襟に取り付けるファーや袖下の長さの調整にこだわり、最終的な費用は34万円。ためた給料で支払った。
 高校を卒業した2021年、親からプレゼントされた車で横転事故を起こした。一命は取り留めたが、腕に重傷を負い入院。ベッドのそばで泣く母の姿が、今も頭から離れないという。「感謝も含めて、いろいろな思いがつまった成人式」
 高校時代は生徒会長として、周囲が楽しめるイベントを提案したこともある。建設業に就く現在は「未来をつくる楽しさがある仕事。北九州を笑顔にする人生にしたい」と意気込む。目標は起業して独立。半年伸ばした髪は、式を終えたその日のうちに散髪した。

障がいを持つ人の就職をサポートする事業所で働く小野幸佳さん=2月9日、北九州市八幡西区

 ▽「派手じゃないと成人式じゃない」
 友人らとおそろいの格好で参加する人が多い一方、「人と一緒は嫌」という女性もいた。
 小野幸佳さん(20)は、帯のあたりまで伸ばした長いポニーテール、高下駄に真紅の番傘。花魁や極道風など、「定番」とされる衣装をあえて避けたという。
 振り袖は20着ほどを試着して決めた。髪の色は式典の1週間前まで染め直し続け、ヘアエクステンション(付け毛)も数十本購入した。一緒に参加予定の友人にも、当日まで秘密にした。「派手じゃないと成人式じゃない」と感じるという。
 7人きょうだいの末っ子。今年、姉が代表を務める、障がいを持つ人の就職をサポートする事業所で働き始めた。仕事を選んだ理由を尋ねると、こんな意気込みを明かしてくれた。「働きたくても働けない人がたくさんいる。困っている人を無視できない」

会場脇の広場に集う新成人。絵の具でデザインした服を着る男性(左)や「パパ頑張ります」とのぼりを手にした父親も=1月8日、北九州市小倉北区

 ▽「先輩より派手に」終わりなく
 土地柄のせいか、奇抜な衣装はやはり多い。「雷神」をイメージした衣装や、絵の具を使い、自分でデザインした服も…。北九州の成人式はいつからこれほど派手になったのだろうか。
 市内の衣装レンタル屋「みやび」店主の池田雅さんに尋ねると意外な答えが返ってきた。「前年の先輩よりも派手な格好を追求した結果」。池田さんによると、流行する服装の傾向は特にない。「(男性は)先輩より派手にするため、ファーを付け袖や丈を長くしていく。リクエストに応えるうちに、終わりなく派手になっていく」。女性も同じ。理想とする有名人のファッションに似せる傾向はあるが、「北九州だから派手にしなきゃ、という子も多い」

「二十歳の記念式典」に集まった新成人ら=1月8日、北九州市小倉北区

 「みやび」は元々、ブライダル関係の貸衣装店だった。当時は女性客が圧倒的に多かったが、2003年、成人式用に製作した全身金・銀の衣装が人気を博した。徐々に男性客の来店が増え、今年は男女合わせて1000人ほどの新成人向け衣装を製作した。
 池田さんは、衣装を依頼しにくる新成人の態度に好感を持っている。
 「彼らは『よろしくお願いします!』と90度くらいのおじぎをする。真面目に成人式と向き合っていますよ」
 彼らはデザインや縫製といったひとつひとつの完成度が高くなければ満足しない。だが、やりとり自体は丁寧で素直だ。高額なレンタル衣装代金を稼ぐために勤労意欲も強く、1年前から前金を持参する人もいるという。「(北九州は)やんちゃなイメージがあるけど、実際には人は温かいし、怖い目にもあったことはない」

自宅で過ごす栄鉄奨さん。中学時代はバスケ部だった=2月4日、北九州市八幡西区

 ▽悪さで目立つのは「ダサい」
 最後に目の前に立ったのは、顔面を白く塗りつけた男性。周囲からさかんに写真撮影を求められ、そのたびに黙々と応じている。
 栄鉄奨さん(20)。意図をこう語る。「みんな、はかまとか髪形で目立とうとするので、自分は顔で勝負」。父や兄と同じ港運関係の会社で働いている。「毎日(家に)帰ってきて楽しい。いい家族やなと思う」
 高校は勉強が苦手で中退した。それでも両親は励ましの言葉をかけ続けてくれた。自動車の運転免許証取得の筆記試験には50回近く挑戦した末、昨年合格。車での買い物や送り迎えで親孝行するつもりだ。
 成人式は前日の夜から恋人に手伝ってもらい、「ドーラン」と呼ばれる舞台用メーク道具で色を塗った。オレンジ色のはかまと合わせたのは、大好きなコメディアン、故・志村けんさんの「バカ殿様」がモチーフ。一緒に参加する友人には「恥ずかしいけん(から)」と止められたが、「人生一度きり」と自信を持って家を出た。
 成人式は、中学の頃から意識していた晴れ舞台だ。
「有名人になりたい。でも悪いことで目立ったら、ダサい」

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