社説:米ロ軍機衝突 偶発的事態防ぐ体制を

 一触即発の危険を改めて認識したい。

 米軍は、黒海上空の国際空域を飛行していた米無人偵察機が、ロシア軍の戦闘機に衝突され、墜落したと発表した。

 米の偵察活動を妨害しようとしたとみている。

 ロシアがウクライナに軍事侵攻して1年余り、現地周辺での米ロ両軍機の衝突は初めてという。一歩間違えば、両軍事大国の直接の交戦につながりかねない状況が明らかになった。

 不測のリスクを回避すべく、冷静な対応を求めたい。

 墜落した無人偵察機MQ9は全長約11メートル、主翼幅約20メートルに及び、遠隔操作で飛行する。米国防総省などによると、ルーマニアから離陸して飛行中、ロシア軍のスホイ27戦闘機2機のうち、1機目が燃料を浴びせ、2機目が機体後部のプロペラに衝突したため、やむなく海上に墜落させたという。

 これに対し、ロシア側は、領空に向けて米軍偵察機が飛来したため戦闘機を発進させたが、武器は使用せず接触もしていないと主張している。

 現場は、ロシアが一方的に併合したクリミア半島やロシア黒海艦隊の基地に近い。米ロ両国が情報収集で攻防を繰り広げている一端が浮かび上がった。

 昨年4月に黒海艦隊の旗艦モスクワがウクライナの攻撃で沈んだ際には、米が位置情報を伝えていたとされる。ロシアが米軍の情報収集に神経質になっているのは想像に難くない。

 今回の事態は、米ロの国防当局間の連絡が途絶えていたことも背景にあるのではないか。

 ウクライナ侵攻による緊張激化に伴い、ロシア軍と米欧州軍との間には通信ラインが設置された。だが、ポーランドなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国の空域周辺を念頭に置いているとみられ、国際空域が抜け落ちていないか懸念される。偶発的なトラブルの収拾や再発防止のために適宜、迅速に意思疎通できる体制を再構築してほしい。

 昨年11月にはポーランド東部にミサイルが着弾し、住民2人が死亡した。ウクライナによる迎撃失敗との見方が強いが、NATO加盟国に緊張が走った。

 ウクライナ危機が欧州全体を戦火に巻き込む悪夢と隣り合わせだといえる。ロシアによる理不尽な侵略が長期化する見通しの中、停戦への手だてを尽くすことが何より重要だ。

© 株式会社京都新聞社