目指すは琵琶湖の女性船長 「乗客守り、かわいい船を傷付けない」練習の日々

観光船の出航前、操舵室で計器をチェックする櫻井さん(彦根市・彦根港)

 竹生島や桜の海津大崎など琵琶湖を巡る観光船が発着する彦根港(滋賀県彦根市松原町)。櫻井麻衣さん(28)は、重そうなタラップを持ち上げて岸と船を結び、出航準備をてきぱきとこなす。日々、乗客からの「ありがとう」の一言が何よりうれしい。

 琵琶湖の広く開かれた景色に感動し、昨年4月、同船を運航する近江トラベルに入社。船員7人中唯一の女性で、翌月からエンジンを扱う責任者の機関長に。ベテラン船長の動きを観察しながら船の特性や湖の風、波などを体感。湖上の漁を妨げないよう、網の位置なども頭に入れる。

 最も難しいのは港への着船。船にブレーキはなく、前進中にバックの力で止める。思うように操作できず、風にも流される。「まずは乗客の安全を守り、かわいい船に傷を付けないように絶対に気を抜けない」。無人の船で練習を重ねている。

 大阪府藤井寺市出身。大学卒業後に公務員として3年間働いたが、幼少から抱く海への憧れが募り退職。国立清水海上技術短期大学校(静岡県)に入学し、四級海技士(航海・機関)の資格を取った。

 目標の船長に向けてスタートを切ったが、入社直後には北海道・知床半島沖で観光船が沈没する痛ましい事故が起きた。恐怖と同時に、同い年の甲板員が亡くなり、人ごとではないと気を引き締めた。

 当時、不安を感じる乗客たちに向かい合った。観光船の安全性や天候を見極めての出航判断、救命胴衣の設置場所など、安心感につながる情報を自信を持って伝えた。「その自信こそ、船長に求められる資質です」と毅然(きぜん)と話す。

 乗客にかけがえのない思い出と感動を届ける。「やりがいがある仕事で、大変なこともあるが、絶対に楽しさを見つけられる。こういう世界に多くの女性に飛び込んできてほしい」。女性船長として活躍する日は遠くない。

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