「恋は『目と目がくっついて離れない』ロマンチックでしょ」若き伝え手“消滅危機”アイヌ語を攻めて広める

2月24日、静岡理工科大学が地元の方言を調査した報告会の第二部として講演した関根摩耶さん(23)。冒頭1分の自己紹介はよどみないアイヌ語だ。「セキネマヤ」と名乗り、北海道の地名を言った気がした。あとはまったく意味が分からない。「パ行音」が多いと感じたその響きも、日本語とは明らかに異なる言葉だった。

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将来は「アイヌ語でこどもを育てる保育園を作りたい」と関根摩耶さん

2009年にユネスコから「消滅危機言語」のひとつと警鐘を鳴らされたアイヌ語。アイヌの中でも、この言語で会話ができる人は0.7%という調査もあり、未来にアイヌ語が残せるかは、極めて深刻だと言わざるを得ない。

「曾祖父母の世代はアイヌ語で話していた。祖父母の年代は、話せる人と話せない人がいて、母の歳だとアイヌ語を話せる人はほとんどいない」(関根さん)。しかし、言語資料として残されていた口伝えの物語や歌の録音を「父が車でも、家でも常に流すので」関根さん自身は、“母語”とも言えるほど、アイヌ語に幼い頃から触れていた。

2020年、北海道白老町に開館した、アイヌの文化を伝える国立の施設「ウポポイ」。その展示のアイヌ語解説文を、学生だった関根も手がけている。ネット動画でアイヌ語講座を配信するなど発信力があり、若くして、関根はアイヌ語伝承の旗手と言える存在だ。

近年、アイヌ語の未来に光が差すような動きも出てきた。関根の地元、北海道・平取(びらとり)町二風谷(にぶたに)では、20代の若者同士がアイヌ語限定の会話練習会を週2,3回開くようになった。アイヌ語だけで書き込むSNSのグループチャットルームもできたという。

「アイヌ語で『考える』は『自分で自分の魂を揺らす』という言い方をするし、『目と目がくっついて離れない』=『ウオシッコテ』と言って恋を意味します。ロマンチックでしょ(関根さん)」

元来、アイヌ語は基礎的な言葉を組み合わせて、抽象的なことを表すのが得意なのだ。そんな造語能力を生かして、昔から伝わるアイヌ語にはない事柄を言い表していきたいと関根さんは言う。

「例えば『花粉症』は、花・粉・くしゃみという言葉を並べて、『エプイコエシナ』としました。『互いに頭を比べ合う』=『ウサパウワンテ』で、テストです(関根)」と、楽しんでいる。

テストと言えば、「北海道内の公務員や公立高校の試験に、一部でもアイヌ語の問題が出るとなれば、大勢が学ぶ需要が出てきますよね」と、関根さんはアイヌ語を守って残すというより、どこまでも攻めて広める発想を持っている。将来の目標は、「アイヌ語で子供を育てる保育園」を北海道ではなく、関東地方に作ることだ。

(SBSアナウンサー 野路毅彦)

関根摩耶(せきね・まや)1999年生まれ。母方の祖父がアイヌ。住民の8割以上がアイヌにルーツを持つと言われる人口300人台の集落、北海道平取(びらとり)町二風谷(にぶたに)出身。慶応義塾大を2022年卒業。神奈川県在住。

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