「山で‟鮮魚”を売る」!? 山間部のスーパー「まきうち」が独自のルート開拓で見せる進化 【静岡発】

「山でまぐろ祭り」。なぜ山で“まぐろ”を?と思った人もいるのではないか。山間部のスーパーで新鮮な刺身を食べられるこのイベントの仕掛け人は、浜松市天竜区でスーパーを営む夫婦だ。独自の仕入れルートを開発し、総菜も充実させる夫婦二人三脚の挑戦を取材した。

「山でまぐろ祭り」の衝撃

まきうちを営むのは、牧内基さん(43)と真美さん(33)の夫婦。開催した「山でまぐろ祭り」では、新鮮な刺身盛りや海鮮丼を取りそろえたほか、まぐろの解体ショーも行い、町内外から多くの人が詰めかけた。

普段のまきうちでも鮮魚の取り扱いは豊富だ。お店には、北海道の漁師から取り寄せた産地直送品や、基さんが浜松の市場で厳選した魚たちが並んでいる。山間部のスーパーとは思えない充実度で「まきうち=魚」のイメージは水窪町内で定着している。

北海道から産地直送

市場を介さず、北海道から直送で魚を仕入れる独自のルートは、ひょんなことから開拓された。2022年の夏、北海道で競走馬を育成している真美さんの兄に夫婦で会いに行ったのがきっかけだ。

競争馬の育成は大変で、噛まれたり蹴られたりとケガをすることが多いという。
その様子を聞いた基さんと真美さんは「どんな仕事をしているのか心配。一度職場を見てみたい」と、北海道行きを決意。

そのときに出会った兄の友人が、日高地方でも特に質の高い昆布がとれる、「特上浜」と呼ばれる場所で昆布漁を行う漁師だった。

基さんの目利きも光る

魚の仕入れルートは北海道だけではない。基さん自身も浜松の市場で魚を仕入れている。

まきうち・牧内基さん:
マグロの場合、サンプルとして置かれた尻尾の断面を見たり触ったりすることで色目、身質、脂などを確認します

身がもっちりした触感のものを選ぶのが基さんのこだわりだ。

舞坂や御前崎など静岡県内で揚がったマグロも取り扱うが、基さんのイチオシは冷凍マグロ。なかでもインドマグロは脂感が良くオススメだそうだ。

まきうち・牧内基さん:
冷凍の技術が上がり、世界中から集まる多彩な種類のマグロを仕入れられます

お店での冷凍保存も気を抜かない。通常のスーパーではマグロを身だけにして冷凍するところ、まきうちでは皮付きのまま冷凍し、味と鮮度を保っている。保存する冷凍庫の中はマイナス60℃の極寒だ。

真美さんの“総菜改革”

魚へのこだわりで、長らく水窪町民の胃袋をつかんできたまきうちだが、近年は総菜部門にも力を入れている。

旗振り役は真美さん。かつて、まきうちの総菜は真美さん本人もあまり食べたくなかったという。「自分が食べたくないものを、お客さんも食べたいと思うはずがない」と改革に乗り出した。

最初の一手は、粉末だしからの脱却。店でだしをとるようにした。始める前は手間がかかるという懸念もあったが、今のまきうちでは当たり前になっている。

これからも水窪と共に歩む

まきうちの進化は留まるところを知らない。2023年1月には社長が基さんから真美さんへ交代。水窪出身の基さんではなく、町外で育った真美さんの新しい視点で店づくりを進めていく。

基さんは水窪の人口減少が進むなかで、一時は外に目を向けたこともあったそうだ。その時水窪でのスーパー存続を強く望んだのは真美さんだった。

「何も無いから良いんだよ」。水窪の当たり前の中に特別なものを見つけ、大切に思う真美さん。その一言にハッとさせられ、スーパーを続けることを決めた。

きょうも水窪では、まきうちの新鮮な魚や豊富な総菜が町民の生活を彩っている。「山でまぐろ祭り」にはじまる奇想天外な仕掛け。まきうちの進化から目が離せない。

文/山﨑洸一 テレビ静岡Wasabeeより

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