社説:組み換えメダカ 生態系を乱す流出避けよ

 鮮やかな赤い色を発光させる小さな魚が、水槽で優雅に泳ぐ様子は、「動く宝石」にも例えられよう。

 そんなメダカを育てたり、販売目的で運んだりした千葉県などの業者や愛好家ら5人が今月上旬、警視庁に逮捕された。また、東京都の元学生ら4人は書類送検された。

 生態系への影響がないよう、遺伝子組み換え生物の使用を規制するカルタヘナ法に、違反した疑いがあるからだ。

 メダカは遺伝子が組み換えられており、業者らは育成するのに必要な国の承認を受けていなかったとされる。

 同法は、2004年に施行された。違反者の逮捕は初めてである。この際、その順守を改めて周知してもらいたい。

 警視庁は昨年、都内の展示会で遺伝子組み換えが疑われるメダカが販売されているとの情報を受け、調べを進めていた。

 関係先から、該当するとみられるメダカ約1400匹を押収したところ、その一部は東京工業大で十数年前に飼育していたものと、遺伝情報が一致することが分かった。

 東工大によると、今回、書類送検された元学生が09年から約3年間、遺伝子組み換え淡水魚を使う研究室で飼育管理に当たり、卵を持ち出したという。

 適正な管理が、行われていなかったことになる。

 こうしたことから文部科学省は、東工大に再発防止を徹底するよう厳重注意した。

 さらに、全国の国公私立大や研究開発法人に対し、遺伝子組み換え生物の管理体制がきちんと整備されているかどうか、確認するよう求めた。

 東工大は、同法や生命倫理に関する教育が十分ではなかったとして、こうした生物の取り扱いを、学部生の必修科目とする方針だ。

 遺伝子の解析や医薬品開発では、「ノックアウト(遺伝子破壊)マウス」が用いられるが、最近は、より簡単で安価に「ノックアウトメダカ」を作ることができるそうだ。

 それだけに、関係する研究機関は、流出を避ける対策を、しっかりと立ててほしい。

 野生のメダカは、小川や田んぼに生息し、日本人にとって最も身近な魚とされてきた。

 ところが、農薬の使用と生活排水の影響などで減少し、1999年には環境省が「絶滅危惧Ⅱ類」に指定した。

 これ以降、各地で繁殖と、突然変異で色や形の異なる個体を掛け合わせる新種の開発が行われ、近年は飼育するのがブームとなっている。ネットオークションでは、1匹100万円の値が付くこともあるという。

 今回の事件でも容疑者の1人は、調べに対して「誰も持っていない、きれいなメダカだから飼ってしまった」と供述している。

 逮捕された5人は、展示会や個人間で売買しており、警視庁は愛好家ら約50人に広まったとみている。生態系への影響はなかったとされるが、一部のメダカは千葉県内の用水路に廃棄された疑いがある。

 業者や愛好家のマナーも、改善していくべきだろう。

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