iDeCoとの併用も可能になった企業型確定拠出年金、メリットと見落としがちなデメリット

iDeCoの兄貴分ともいえる企業型確定拠出年金(企業型DC)。加入者も多いのですが、意外に内容を理解した上で活用しているという方は少ないようです。企業拠出に加えて個人が掛金を上乗せできる仕組みも整ってきましたので、今一度制度を確認しましょう。


企業が掛金を拠出するスタイルは3種類

確定拠出年金には企業型と個人型の2種類があります。会社が掛金を拠出すると企業型、個人が掛金を拠出すると個人型となり、後者は近年iDeCoと呼ばれています。

iDeCoは任意の私的年金なので、運営管理機関を自分で選べるという自由度が高く、その分手続きを自分でしなければいけないので面倒かも知れませんが、仕組みはいたってシンプルです。会社員でれば、自分の手取りの収入から掛金を拠出し、年末調整で手続きをすることで、そこにかかる税金の還付を受けることができます。

一方、企業型の場合、会社の退職金制度の一種、あるいは企業年金の一種という位置づけなので、その制度設計は会社により多岐にわたります。それでも基本的な掛金の拠出パターンは3種類ですので、ひとつひとつ解説します。

基本型:会社が掛金を拠出する

給与とは別に、会社が確定拠出年金の掛金を拠出します。拠出の方法は定額、あるいは定率の2種類があります。前者は一定ルールにのっとり定額です。例えば勤続年数や役職など同じ条件であれば同じ金額が拠出されます。後者は、基本給の何%といった率で決められます。

この掛金は給与と異なり、所得税の対象ともならず、社会保険料の算定対象ともなりません。従って、なにも引かれずに100%加入者の老後の資金として積立に回ります。会社としても、給与として同じ金額を従業員に拠出すると、法定福利費(社会保険料)の算定対象となりますが、確定拠出年金の掛金とすると、社会保険料の支払が不要になります。同じ経費勘定ですが法定福利費は約15%ですから、その分効率的に従業員へ渡すことができます。

多くの場合、確定拠出年金の掛金は退職金の前払いといった意味合いで拠出されることが多いようです。あるいは、人事評価として拠出されることもあります。

給与としても受け取れる前払い退職金との選択

確定拠出年金は、老後の資産形成としては非常に優れた制度ですが、60歳まで何があっても引き出せないという点をデメリットと感じる方もいます。特に会社の制度の場合、転職もあったりすると、長くその制度のメリットを享受できないことをデメリットとし加入を希望しない方もいたりします。

そういう場合に配慮したのが、前払い退職金と呼ばれる形です。前払い退職金とは、従来の給与と同じ扱いで掛金を受け取るという意味なので、掛金に対しては税金も引かれ、社会保険料も差し引かれます。税率は所得により変動しますが、社会保険料はおよそ15%なので、少なくとも2割程度は源泉され、残りを「前払い退職金」として受け取ることになります。

前払い退職金を選ばなければ、掛金は全額確定拠出年金の掛金として受け取ります。こちらは前述の基本形と同様ですから、掛金から税金も社会保険料も引かれることなく、全額が老後資金として積立に回せます。

会社によっては、前払い退職金か確定拠出年金の掛金の二者選択とするところもありますが、同時にどちらも選び、割合を選択できるところもあります。例えば、前払い退職金と確定拠出年金を3:1のような形です。

また年に1回は選択を見直しできるとする会社が多く、その場合でもいったん選んだ確定拠出年金の掛金をゼロとして、前払い退職金を選ぶことはできないと制約を設けている会社が普通です。逆に前払い退職金を選んでいたけれど、それをゼロとして全額確定拠出年金の掛金とすることは自由にできるとしているのが一般的です。

前払い退職金も、その必要性を感じる方であれば、選択肢としてそれなりに価値があるものと考えますが、残念ながらそこまで特徴を理解して選んでいる方ばかりではないようです。ただなんとなく今使えるお金として掛金を受け取ってしまった方がいいと、安易に考えて選んでいるのであれば、今一度精査した方がよいでしょう。老後資金作りは多くの方にとって必須であるため、その場合は確定拠出年金の掛金を選択した方が、メリットは大きくなります。

自主性を重んじる給与減額方式での選択制

企業型とはいえ、必ずしも会社が掛金を拠出するばかりとは限りません。なかには従業員が自らの給与から財形貯蓄のように掛金を拠出する「給与減額方式による選択制」を採用している会社もあります。一般的には、法律上定められた企業型確定拠出年金の掛金拠出上限である月55,000円までを給与から出すことができるので、より積極的に運用をしたい方にとってはメリットがあります。

自由度が高く、自主性が重んじられるという点では評価が高い仕組みですが、一方で給与から切り離された掛金は税金だけでなく、社会保険料の算定からも外れるという点では社会保険関係者などから批判も受けています。

例えば、本来の給与が30万円の方が、自分の給与から掛金を5万円拠出すると課税対象となる給与は25万円、社会保険料の算定対象となる給与も25万円となります。すると社会保険料は給与額の約15%ですから、社会保険料の負担でいえば5万円の拠出はすなわち7,500円の社会保険料削減につながります(正しくは標準報酬月額によります)。これは会社から見ても同様です。

支払うべき社会保険料が減るということは、給付も減るということになります。特に注意が必要なのが、健康保険の傷病手当金です。病気やけがで働けなくなった際に給与の約3分の2が最大1年半にわたり保障されるのですが、掛金を拠出することにより、この手当が減額されるのです。

計算式としては月5万円の掛金を30で割り、2/3となりますから、1日あたり掛金を拠出しない場合と比較すると1,111円給付が減ります。最大548日の給付ですから、最大損失額は60万円を超えてしまいます。

同じような減少が出産手当金、育児休業給付金、老齢厚生年金や遺族厚生年金、失業手当などにも及ぶので、やはりここもしっかりと理解した上で掛金をどうするか決めるべきでしょう。

一般的には月55,000円を「枠」として設定し、1,000円刻みで給与から切り出し掛金とするというルールを設けている会社が多いようです。年に1回の変更を認めるのが一般的ですが、その場合でもいったん確定拠出年金の掛金拠出を選んだら、その掛金をゼロにすることは認めないと定めている会社が多いようです。

なお、会社が拠出する掛金の上限は上記どのパターンでも月55,000円が法律上定められた上限です。ただし会社が確定給付企業年金(DB)を導入している場合は、月27,500円と上限が減額されます。

個人が掛金を上乗せ拠出する3パターン

企業型確定拠出年金は、会社が通常の給与とは別に掛金を拠出してくれる点がありがたいところなのですが、なかなか法律上の上限まで従業員に掛金を拠出してくれる会社ばかりではありません。あるデータだと、会社からの掛金は5,000円までが25%、5,001円から10,000円までが25%とあり、10,000円あればありがたい金額と言えそうです。

これは前述した3つのパターンのうち、企業が掛金を拠出する、前払い退職金を選ぶ場合の例です。給与減額方式の選択制の場合は、自分の給与からの切り出しなので、上限いっぱいまで掛金を拠出できるとしている会社が多いようです。

しかし資産運用に対する関心が高まるにつれ、企業掛金の他にもっと個人でも掛金を拠出したいという要望も増えてきました。そこで出てきたのがマッチング拠出とiDeCo併用です。

マッチング拠出は、会社が開設してくれた確定拠出年金の口座に個人の掛金を拠出する仕組みです。掛金は会社の掛金を上回らず、かつ合計55,000円までとなっています。会社の仕組みを利用して上乗せするので、もっとも簡単な上乗せ制度となります。

しかしマッチングは会社が拠出する掛金額を個人の掛金が上回ってはいけないので、人によっては窮屈に思われるようになりました。そこで2022年10月に解禁されたのが、iDeCoの併用です。

こちらは自分でiDeCoを別途開設しなければならず、少し手間はかかるのですが、会社の掛金とあわせ55,000円以下かつ20,000円以下と掛金が選べるので、会社の掛金が少なくマッチングにメリットを感じない方などは特にiDeCo併用を選ぶ傾向にあるようです。なお、DBが併設されている場合は、12,000円がiDeCoの上限です。

マッチングとiDeCo併用は、どちらか一方を選びます。

例えば、給与減額方式の選択制の場合でも、社会保険給付の減少が好ましくない方、自分で投資をしたい商品を扱っている運営管理機関でiDeCoをやりたい方などは、iDeCo併用を活用することができます。その際、自分の給与から掛金を拠出している部分は、区分では「事業主掛金」となるので、ここを35,000円までとし、iDeCoを20,000円上限で掛金を拠出できます。

iDeCo併用分は、税金のメリットはありますが、社会保険料を支払った後での掛金拠出になるので、給付の減額が行われることはありません。

広がった選択肢、上手に活用を

近年確定拠出年金も制度の拡大が行われ、選択肢が広がりました。投資先も広がってきており、企業型においても投資信託のラインナップを見直し、より低コストのファンドに入れ替えを進める会社も増えてきました。

会社の制度はやはり多くの方にとってはメリットが大きいものですから、ぜひ理解を深めて最大限活用していきましょう。

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