【現役生への最後のメッセージ】4年生5人が登壇~後輩へ思いをつなぐ~

3月17日、日吉キャンパスの桜も徐々に咲き始めた中、来往舎にて体育会本部主催の「体育会卒業生から現役生への最後のメッセージ」が開催された。選手・マネージャーとして体育会の第一線で活躍してきた4年生5人による講演会が行われ、現役体育会生をはじめとする慶大の未来を担う選手・マネージャー・学生が参加した。

司会は体育会本部前主幹の菊池龍志(水泳部水球部門=環4・慶應)さん。「4年間の様々な経験を伝え、来てくださった皆様の心に留まるものがあれば、そしてこれからの体育会生活をより良くしていただければ」という思いから企画し、3か月前から準備していた。登壇者は部活内での役職など様々なことを踏まえると同時に、決めていた講演のテーマと掛け合わせる形で、最適な人に声を掛けたという。

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♢登壇者♢

名前	部活	プロフィール
佐藤翔馬さん	水泳部競泳部門	東京五輪出場
秋野啓一郎さん	ハンドボール部	医学部に通いながら体育会ハンドボール部で主将を務める
服部昂祐さん	野球部	野球部主務
山本真菜美さん	ラクロス部女子	U19日本代表、W杯出場
久保領雄音さん	端艇部カヌー部門	全国2連覇(個人)
司会・菊池龍志さん	水泳部水球部門	体育会本部前主幹
佐藤翔馬さん「体育会×プロ転向」

2021年の東京五輪にも出場、全日本学生選手権大会では4連覇を果たし、平泳ぎの日本記録・アジア記録を持っている佐藤さんは、個人スポーツで団体戦に挑むこと、目標の立て方、卒業後の現役続行についてという3つのテーマで講演を行った。

競泳という個人スポーツでもチームで一丸となって戦うことが求められる場面がある。自らの経験を踏まえ、「自分の悩みをチームメイトにしっかりと話して、その解決方法を探る」と、周りに頼ることも大切だと述べた。相談や情報の共有が自分自身の成長につながったこともあったという。そして、視野を広く持つ重要性についても語った。

目標の立て方については、「目標を自分の結果に合わせて変えない」ということを意識してきたという。佐藤さんはパリ五輪・ロサンジェルス五輪で金メダルを獲得するという最終目標から逆算して目標を設定している。

五輪にも出場した佐藤さん

最後に卒業後の現役続行について、「覚悟を持って決断してほしい」と述べた。大学での部活では過程が重視されることも多いが企業から支援してもらうということは結果が全て。それを理解したうえで競技を続行する佐藤さんは、厳しい世界で挑戦を続けるという強い意志を持っていた。

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秋野啓一郎さん「体育会×勉強の両立」

医学部に通いながらハンドボール部の主将を務めた秋野さん。体育会への入部は「限界に挑戦したかったから」。医学部を目指した理由も同じだという。

秋野さんからはまず「意識を内側に、自分と向き合う」ということについてお話があった。日々の練習への姿勢や組織を良くするための提案・行動など、プロセスを振り返った時に自身の成長を感じたという。「プロセスあっての結果」。プロセスを踏んだ上での勝利は自信に、敗戦は経験になると自身の4年間を振り返るように述べた。そして自分に向き合うため、俯瞰して見るためにも数行でも良いので日記を毎日つけることを強く勧めている。

主将として大切にしていたことは流れが悪い時こそ「心に余裕を持つこと」だという。簡単なことではないが、自分自身に言い聞かせていたのは「人間万事塞翁が馬」ということわざ。「悪いことがあった時に努力をやめてしまうと次に来るはずの良いことがなくなってしまう」。つらい時でも継続して努力してきた秋野さんを支えてきた言葉だ。

最後に秋野さんはこう締めくくった。「体育会生活では思うようにいかない時期もあるが、自分と向き合うことでアスリートとして、人間として成長することが大切だと思います。どんな時でも努力を大切にしてほしいと思います」。

主将としてチームをけん引

♢コメント♢

他のメンバーが日本代表など華々しいキャリアの中で、自分はそういうキャリアではないにもかかわらず呼んでいただいたので、気負わずに後輩たちに最後の伝えたいことを伝えることを意識してお話させていただきました。(後輩に向けて)体育会に限らずサークルに入る人、勉強をする人などたくさんいると思いますが、4年間何か一つのことに打ち込んで4年間が終わるときに「やってきて良かった」と思えると、自信を持って社会に出て行けると思うので、体育会に限らず何か一つにことに一生懸命打ち込むことが大切だと思います。

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服部昂祐さん「体育会×マネージャー」

服部さんは野球部に所属し、マネージャーとして全日本大学選手権大会優勝を経験すると、4年次には大学日本代表の主務も務めた。

服部さんは選手として苦労の上野球部に入部を許可されたというが、1年の6月に同期からマネージャーに選出された。2年次、後輩が入ってきて「強い慶應を残していきたい」という思いがあったが、仕事も少なく、自分が部活に所属しているアイデンティティを失って苦しかった時期もあったという。3年生になると、大きな仕事を任されるようになり、1年がかりで下田寮の食事改善にも取り組んだ。4年生になり主務に就任すると、監督秘書を務めつつマネージャーをまとめ、部外の人とも連絡を取り合うなど多忙な日々を過ごした。

大学代表としてオランダへ(写真右)

そんな服部さんが思うマネージャーとして一番大切なことは「目に見えない世界の充実」。自分の仕事ばかりを意識して間にある「スキマ」を意識できてないことが多いと感じていたという。そこで大切になるのが、相手が求めていること以上のことをやることや中間報告を怠らないことだ。いくつか具体例を挙げながら説明すると、会場にいる人たちは熱心に聞き入っていた。

いい組織、強いチームにはそれを支える人たちが必ずいる。みんなが気が付かないような小さな隙間を埋め、「目に見えない世界」を充実させている人々へ目を向けることも大切である。

♢コメント♢

体育会本部の菊池くんが昨年の年末から企画してくれて、普段体育会の後輩全体に向けたメッセージを発する機会がなかったので、せっかくならという思いで今回参加しました。今日こういう場で直接話すことができて、とても有意義な時間になったと思うし、他のメンバーのお話も自分自身にとってもためになる内容だったと思います。後輩に向けては、今日来てくれた方には一つでも自分の身になることがあったら良いと思いますし、それぞれの部活でマネージャー、選手という立場にかかわらずベストな結果が出ることを祈っています。

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山本真菜美さん「体育会×怪我」

山本さんは1年次にU19日本代表に選ばれるなど華々しい活躍を見せ、将来を期待されていた中、前十字靭帯損傷という全治8か月のけがに襲われる。しかしそれを乗り越え4年次には副将を務めチームを学生王者に導くと、全日本選手権大会では優秀選手賞にも輝いた。けがを乗り越えた山本さんは「視点を転換して逆境を跳ね返す」方法について自身の経験をもとに話した。

絶好調な時にけがをしてしまって、当初は1年間何もできないのかと落胆したというが、山本さんは視点を切り替えることができた。けがをしていたらみんなと同じような練習はできない。しかし、例えば一対一だったらクロスワークは上半身だけでできる、フェイントも足を置く位置や顔の使い方など一つ一つを切り取ることはできる。それを極めれば最後に合わせた時に上達するのではないかと考えたという。日々の練習ではおろそかにしてしまう一つ一つの細かい技術の精度を極めることができたのだ。同時にコーチと話す機会も増え戦術理解が進むなど、その時の自分ができることを見つけて取り組んできた。

山本さんは、けがをしてしまった時に「何もできない」と考えるのではなく、「一つ一つを極めよう」とポジティブに転換していた。「何事も肯定的に受け止めることができるポジティブさ」。すべての側面には絶対にプラスの側面があるという視点の持ち方は、今後逆境に立ち向かっていく時に必要になる能力になるに違いにない。何より山本さんがそれを証明している。

復活を遂げ、4年次には主力として活躍

♢コメント♢

話したのは一部ですが、この機会に4年間をいろいろ振り返ることができて良かったと思います。自分の後輩を見ていても壁にぶち当たりながらも、周りが何も言わなくてもどんどん成長していっていると思います。私自身もそうだったのかなと思うので、全力で学生生活を送ってほしいと思います。

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久保領雄音さん「体育会×競技集大成」

最後の登壇者は久保さん。17年間カヌーを続け、大学時代はK-1で全日本学生選手権2連覇を果たすなど輝かしい成績を残した。今後就活などを控える3年生以下に伝えたいことは「早まるな!」。カヌーを続ける、カヌーとビジネスを両立する、カヌーをやめビジネスをするという選択肢の中、引退から少し時間をおいて考え、久保さんはビジネス一本に絞った。

久保さんは高校時代、カヌー強豪国のドイツに留学し、日本との差を実感。大学ではカヌーを続けない予定だった。しかし、9割が初心者の慶大カヌー部門にいざ入部してみると、「カヌーに乗りたい」という同期の思いや熱心に練習する姿を間のあたりにし、カヌーの原点に立ち戻れたという。その時久保さんは、「自分が頑張りたいというよりも、このチームを全国で勝たせたい」と思った。そのためには自分の全国優勝が必須だと感じ競技に取り組んできた。その結果自身も全国優勝を果たし、4年次には4人乗りの種目で40年ぶりに全国準優勝を掴み取った。仲間を勝たせたい、そのために自分が勝つという信念を持って過ごした4年間は、久保さんにとってかけがえのない時間で、満足できるものだったのだ。

周りから競技を続けるべきという声もあったが、カヌーを「やり切った感」があった。17年間で築き上げてきたものを捨ててゼロからビジネスの世界で自分のポジションを築くという道を選んだ。「自分の気持ちに正直になって納得のいく選択をしてもらいたい」と後輩たちにエールを送った。

「熱量を持って実際に行動して、周囲に影響を与えていくような取り組みができると面白い体育会生活を送れますし、卒業後社会に出ても活用することができると思います」。久保さんは慶大カヌー部での4年間、そして自分の思いを最後まで伝え切った。

カヌー競技をやり切った久保さん(撮影=UNIVAS、体育会本部提供)

♢コメント♢

部活動においては競技面でのアドバイスや目標達成、そこに対してどうアプローチしていくのかというところがメインで、自分の進路やどうチームを強くしていきたいかという内面的な部分を見せていませんでしたが、今回はそれを話す機会となりました。後輩たちも来てくれるということだったので、競技の向上だけでなく、チームをどう強くしていくかということや、そこに対して向上心を持って取り組んでもらえたらうれしいなと思います。

カヌー部門練習の様子はこちら→突撃!慶應体育会2022 vol.5 端艇部カヌー部門(前編)

後輩へ、「最後のメッセージ」

最後に、菊池さんは水泳部水球部門や体育会本部に所属し、主幹も務めた経験から、「人と人とのつながりを大切に、自分が正しいと思う道を突き進んでほしい」と語った。菊池さんを含めた6人の卒業生の思いは確かに後輩たちへ受け継がれていく。

司会を務めた菊池さん

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♢菊池さんのコメント♢

三田体育会副会長のお二人をはじめ、体育会副理事、塾生代表など現役体育会生にとどまらず、多くの方にご来場頂いた上で、無事企画を終えることができ本当に安心しております。

登壇した6人だけではなく、運営に携わってくれた後輩など全員で企画を作ることができて率直にうれしかったです。5人の話を通じて、聴講者の方に何か一つでも「心に留まるもの」、「活用してみよう」と思うことがあればうれしいです。

(取材:長沢美伸)

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