チャットGPTがわが家のドラえもんになる…かも? AIに詳しい国立情報学研究所教授の近未来予想

チャットGPTの専用ホームページの画面

 話題の対話型人工知能(AI)「チャットGPT」について、国立情報学研究所の宇野毅明教授がインタビューに応じた。宇野教授は、婚活のマッチングシステムにビッグデータを活用し自分好みの相手を自動的に探し出す手法を10年近く前に開発するなど、AIに詳しい研究者。
 チャットGPTは米新興企業「オープンAI」が昨年11月にインターネット上に公開した。3月14日には最新版「GPT―4」が発表された。投げかけた質問に対して自然な文章で答えを返す。宇野教授は、ネット検索のように使うのが当たり前になる時代が来ると見通す。利用が進み、バリエーションが豊富になり、家族に愛されるドラえもんのようなAIが出てくる可能性もあるという。チャットGPTが生み出した文章があふれた世界はどうなるのか―。ありえる未来を予想してもらった。(共同通信=村川実由紀)

 ▽〝お化け〟のようなシステムへの入り口ができた

 文章の要約や翻訳などさまざまなことがチャットGPTでできるようになりました。個々の技術は実は既にある程度開発されていました。チャットGPTはこれらの技術を使いつつ、日本語などの人の言葉、会話で操作できるようにしたところが革新的です。さまざまなAI機能を搭載した〝お化け〟のようなシステムへの入り口ができたのだと捉えています。最新技術の利用が全ての業種や一般の人に広がっていくでしょう。
 グーグルなどのインターネットの検索システムができた時と似た変化が起きるだろうと思っています。検索システムができる前もネット上に情報はあり、アクセスすることはできました。検索システムができてキーワードで探せるようになり、情報が得られやすくなりました。今や検索はできるのが当たり前となっています。ディープラーニング(深層学習)という技術が登場して画像認識の精度が一気に上がりました。当時は騒ぎになりましたが、その前から学習するデータの量を増やせば精度が上がることは知られていたので、ある程度こうなることは予測されていました。チャットGPTなどの対話型のAIも3年ぐらいたつと、あるのが当たり前の技術となるのではないでしょうか。ある種のゲームチェンジが起こったのだろうとみています。
 できることが増えてさまざまな作業が楽になると思います。例えば事務書類のフォーマットを整える、簡単なプログラムを組む、間違いを修正する、文章を丁寧な表現に修正するといった作業です。簡単なテスト問題を解いたり、問題自体も作ったりすることもできます。

国立情報学研究所の宇野毅明教授=3月1日、東京都千代田区

 ▽職業消失の懸念より、仕事の質向上に期待

 AIの進化でさまざまな職業が消えるといわれていますが、私は新しい職業ができるようになることや仕事が効率化され、質が向上することを考える方が良いと思います。インターネットの検索システムができた時も恩恵の方があったとみています。チャットGPTが人材不足を解消し、人が必要な仕事に取り組める状況を作ってくれるかもしれません。
 チャットGPTの登場によって社会にひずみは生じると思います。一つ一つ解決していく必要があります。単純に利用を制限すれば良いわけではありません。例えばリポートの問題をチャットGPTで解いてしまうのではないかということが心配されています。今後、AIを使うことが当たり前になるといかにこの技術を生かせるのかということも重要な能力の一つとなります。評価の仕方なども変わっていくのではないでしょうか。
 こういう新しい技術は、思いも寄らない使い方をする人が出てくると思うので、影響を正確に予測するのは難しいです。ただ可能性を論じておくことは将来に向けて大切なことです。あくまで想像ですが、「ありそうな未来」を考えてみたいと思います。

対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の返答の一部

 ▽コントロールされた回答

 チャットGPTに自分の名前を入力して、この人について教えてほしいと指示を出すと、いいかげんな回答が表示されることが多くあります。ひどいことを言わないように、回答の内容はコントロールされているようです。悪口を言わない、中立的な立場を取る。倫理的に問題がある回答はしない。AIが好みなどを出さないよう、開発者は苦労をしているようです。AIによって価値観が全く含まれないような文章が世にあふれたときに、何が起こるでしょうか。
 ちょっと極端な見方ではありますが、「チャットGPTの回答と違う」という理由で攻撃をする人が出てくるかもしれません。チャットGPTのような受け答えをすることが社会マナーとなってしまう恐れも―。好き嫌いや楽しいとかおもしろいということ自体に言及することを嫌がる人が出てくる可能性があります。逆に好き嫌いをいうことこそが人の特権だと、気持ちを強く出すような人も増えるかもしれません。

パソコンを触る宇野教授=3月1日、東京都千代田区

 ▽AIの失敗、どこまで許せる?

 チャットGPTを用いて会話の練習ができるようになりました。教育分野などさまざまなところで活用できると思います。ゲームの対戦相手にコンピューターが加わったように、一部の対話も壁打ちのように1人で練習したり、楽しんだりできるようになりました。人間関係を築くための会話と、楽しむための対話という行為を切り離して考えることができるようになるかもしれません。
 個性を持ったAIが出回れば、特定の対話型のAIに愛着を持つ人も出てくるでしょう。例えばわが家のことを、人も歴史も学習したドラえもんのようなものがいてくれれば、他のAIとは違うAIとして愛されるのではないでしょうか。質問と評価を繰り返したり、パラメーターを調整したりして、育成ゲームのように育てることで自分だけのAIを作れるようになるかもしれません。
 一方で個性を持ったAIの回答が誰かを傷つけてしまうようなことがあるかもしれません。ドラえもんも失敗することがあります。AIの失敗を社会はどこまで許せるでしょうか。AIをどうコントロールすれば良いのか、今後考えていかなければなりません。

チャットGPTについて語る宇野教授=3月1日、東京都千代田区

© 一般社団法人共同通信社