熊楠賞に東大大学院の塚谷教授 植物学で功績

塚谷裕一氏(和歌山県田辺市提供)

 世界的な博物学者、南方熊楠(1867~1941)にちなみ、博物学や民俗学の優れた研究者に贈る第33回「南方熊楠賞」に、東京大学大学院教授で植物学者の塚谷裕一氏(58)が決まった。熱帯林でのフィールドワークや分子レベルの先端的研究、執筆活動によって、現代の植物学と生物多様性の科学に大きく貢献していることが評価された。

 主催する和歌山県田辺市と南方熊楠顕彰会(会長=真砂充敏市長)が22日、発表した。

 塚谷氏は、東南アジアの熱帯林をはじめとする国内外でのフィールドワークを通じて、キノコなどの菌類から栄養を取り込む「菌従属栄養植物」を含む多くの新種植物を発見、命名してきた。分子レベルの植物学研究においても、葉の形態形成の遺伝子経路を解明し、世界をリードする成果を挙げている。

 さらに、その研究成果や植物誌を広く一般に普及させようと、精力的に執筆活動に取り組む姿勢が、熊楠に通じると評価された。

 塚谷氏は「南方熊楠の名を知ったのは高校生の頃。分野に縛られることなく、知的好奇心の赴くまま英国の知の集積の中を存分に探索し、新アイデアを得ては次々と論文に発表したり、故郷に帰っては民俗学的追求を深め、あるいは新種の生物を次々と見つけたりした熊楠の活動に、深く憧れた。残念にも教育の場では文理の乖離(かいり)が進められているが、熊楠の名を冠した賞を頂いた者の責務として、後進の若者たちがより広い視点と守備範囲を保てるよう支援していきたい」とコメントした。

 南方熊楠賞は、後半生を田辺市で過ごした熊楠にちなみ、1990年に制定した。例年、人文部門と自然科学部門から交互に選考している。

 授賞式は5月6日に紀南文化会館(田辺市新屋敷町)であり、塚谷氏が「植物学とエッセイと…興の赴くまま」と題して記念講演する。 ◇ 【塚谷裕一(つかや・ひろかず)氏】 1964年、神奈川県生まれ。93年、東大大学院理学系研究科博士課程修了。日本植物学会学術賞、日本植物形態学会賞など受賞。21年に紫綬褒章。主な著書に「漱石の白百合、三島の松」(中央公論新社)などがある。

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