社説:貨客混載 暮らし支える手段として

 タクシーや貸し切りバスが宅配便や日用品を運び、トラック事業者が貨物用ワゴン車で乗客を送り届ける。人と荷物の有料運送を掛け持ちする「貨客混載」の動きが広がりそうだ。

 国土交通省は6月から全国で実施できるよう、通達を改正する。現在は過疎地を抱える人口3万人未満の市町村での実施に限っている規制を緩和する。

 高齢化や人口減少が進む中、住民の足を確保し、ドライバー不足に対応する狙いがある。

 地域の事業者が連携し、互いの弱点を補って効率化を図ることで、暮らしを支える仕組みの確保につなげたい。

 タクシーやトラック事業者らによる貨客混載は、過疎地で2017年9月に解禁となった。

 事業者は「貨物自動車運送事業」「旅客自動車運送事業」の両方の許可取得が条件となる。貨物車で人を運ぶ場合、運転手は「第2種運転免許」が要る。安全対策は大前提だ。

 実施に際しては、国交省が関係自治体や旅客、貨物事業者、荷主などの協議が調っているかどうか確認するとしている。

 先行事例では、高齢者を病院や駅に送ったタクシーが、帰りは野菜を積み込み、直売所へ運んでいる。他にも、タクシーや貸し切りバスを使った宅配商品や医薬品の輸送、貨物用ワゴン車による通院などが想定されている。

 運送業界ではトラック運転手の負担を軽減する。来年4月には労働基準法の残業規制強化が適用される。人手不足で現在のように荷物が運べなくなると予想される「2024年問題」への対策の一つにもなろう。

 タクシーやバス会社にとっては収益改善につながる期待がある。その上で、住民が利便性を実感できることが重要だろう。

 ただ、貨客混載によるサービスの利用者が少なく、事業継続に苦戦している地域もあるようだ。普及を目指すのなら、そうした課題も広く共有し、参入検討の一助としたい。

 混載により、宅配はトラックだけで運ぶより時間がかかるデメリットも生じ、配達の時間指定も難しくなるかもしれない。利用者側の意識改革や余裕をもった活用が欠かせない。

 乗り合いバスについてはすでに、地域や重量に関係なく貨物を運送できる。京都府では昨年4月から、宮津市北部地域と伊根町を対象に、丹後海陸交通の路線バスがヤマト運輸の荷物を運んでいる。

 鉄道でも特産品や宅配用荷物を混載する事例が増えている。トラックに比べて温室効果ガス排出量が少なく、一度に大量の荷物が運べるのが強みだ。

 国交省の有識者検討会は昨年7月の中間取りまとめで、新幹線に貨物専用車両の導入を検討することを盛り込んだ。実現すれば、物流を大きく変える可能性もある。一方、無駄な新幹線網拡大の口実としてはなるまい。

 この先、人口減少で働き手が減ることを見据えると、現在の生活サービスを維持するのが困難になるのは目に見えている。今ある交通インフラや配送ルートを有効に活用していく知恵がますます求められている。

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