【ライヴアルバム傑作選 Vol.3】『東京スカパラダイスオーケストラ ライブ』はスカパラらしい姿勢を感じさせるライブカバー集

『東京スカパラダイスオーケストラ ライブ』('91)/東京スカパラダイスオーケストラ

先週3月15日、ミニアルバム『JUNK or GEM』がリリースされたとあって、今週はその東京スカパラダイスオーケストラのライブ盤をご紹介。ライブバンドなだけあってスカパラのライブ盤は比較的多く、ライブ盤というと映像作品が主流となってからも、2016年の『THE LAST -LIVE-』、2019年の『2018 Tour 「SKANKIN JAPAN」 “スカフェス in 大阪城ホール”』などの他、直近でも2020年の配信限定の『TOKYO SKA 30 無観客ライブ ~僕ら、いつだってワイヤレスで繋がっている』などがあるが、今回はメジャーデビュー間もなき頃に発表された『東京スカパラダイスオーケストラ ライブ』をピックアップする。

スカパラはいつも話題に事欠かない

サメやマグロは止まると死ぬらしい。自分ではエラを動かすことができないので、泳ぐことで海水を取り込み、エラから酸素を吸収するのだという。寝る時も決して止まることはなく、泳ぎながら睡眠をとるのだとか。で、スカパラである。このバンドも、サメやマグロじゃないけれど、“いつ休んでいるんだろう?”と思ってしまうくらい、ずっと何かしている印象がある。止まったことがあるように思えないのだ。そりゃあ、どんなアーティストも常に何かしらしているだろう。ただ、スカパラの場合、その“何かしら”が我々の傍らにあるように思うし、自分の側じゃなくとも(例えば、ライブがそうだが)いつも誰かしらの側に居るように感じられる。そのやってる“何かしら”がよく聞こえきたり、目にすることも多いのである。

ここ1年間くらいを振り返ってもホントそうで、2022年7月にリリースされたシングル「Free Free Free feat.幾田りら」がYouTubePremium2022年の夏のキャンペーンCMソングに起用されていて、メンバーも出演していたCMをよく観かけた記憶がある。あと、2022年10月に日本テレビ系『スッキリ』の新テーマソングに「紋白蝶-8 a.m. SKA-.」が決定した。個人的には平日の朝はほぼ毎日スカパラを耳にしている。さらには、2月よりTBSラジオ『JUNK』の新しいサウンドステッカーにもスカパラ楽曲が提供されている。3月15日にリリースされたミニアルバム『JUNK or GEM』のタイトルチューンがそれ。この他にも「北斗七星」が男子プロバレーボールクラブ“東京グレートベアーズ”のテーマソングになったり、「カルペ・ディエム~今日がその日さ」が昨シーズンに引き続いて“J SPORTS STADIUM2023 野球中継テーマソング”に決まったりと、ホント弛まなく、あらゆる層に向けて発信されているスカパラサウンドである。ここ半年間に限定しても、誰でもどこかしらで必ずスカパラ楽曲を耳にしているのではなかろうか。それほどの露出である。まさにその活動は止まることがないと言えよう。

タイアップが多いから露出も多い。それもあるだろう。だが、そもそも話題性に事欠かないのはスカパラの特徴でもあろう。とりわけ数々のアーティストのフィーチャリングはそれが発表される度に音楽シーンのトピックとなってきたし、こちらもそれらを聴く毎に新鮮さを味わってきた。2001年の所謂“歌モノ三部作”が最初だったように思うが、そこでは田島貴男、チバユウスケ、奥田民生の男性ヴォーカリストとコラボ。以降、コラボもしくはフィーチャーしたアーティストを順に列挙すると、ハナレグミ(永積タカシ)、CHARA、甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)、10-FEET、MONGOL800、ASIAN KUNG-FU GENERATION、尾崎世界観(クリープハイプ)、片平里菜、Ken Yokoyama、斎藤宏介 (UNISON SQUARE GARDEN)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、宮本浩次(エレファントカシマシ)、桜井和寿 (Mr.Children)、川上洋平 ([Alexandros])、そして、最新作での幾田りらといった面々。以上、シングル曲だけを取り上げたが、アルバム収録曲でも、TOSHI-LOW (BRAHMAN / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)や中納良恵(EGO-WRAPPIN')の他、歌い手以外では菊地成孔や上原ひろみらも参加しているし、話題になったと言えば、さかなクンがバスサックスを担当した『Paradise Has NO BORDER』を覚えている方も多いのではないだろうか。最新作『JUNK or GEM』では、長屋晴子(緑黄色社会)、原慎也(Saucy Dog)を迎えている。スカパラ作品でのコラボ、フィーチャリングは上記以外にもまだあるし、逆にスカパラを客演したアーティストを含めると、その数はまさに枚挙に暇がない(ちなみにスカパラをフィーチャリングしたのは椎名林檎、MAN WITH A MISSION、関ジャニ∞、大森靖子などなど)。常にどこかで誰かと一緒にパフォーマンスしていることが今なおトピックとなり続けているスカパラである。

先人へのオマージュあるカバー

もはやスカパラは邦楽シーン全体にとって欠かせない存在だと言っても過言ではなかろう。そんなスカパラが1990年5月にアルバム『スカパラ登場』でメジャーデビューしたのち、その翌年3月に発表したのが『東京スカパラダイスオーケストラ ライブ』である。2ndアルバム『ワールド フェイマス』が同年6月リリースで、2ndアルバムより早くライブ盤を出しているところに、スカパラにとってライブステージがどういう位置付けなのかがよく分かろうというもの。全7曲収録で総タイム23分弱とミニアルバムと言っていいスタイルではあるけれど、重要な一作であることは疑うまでもないのである。その収録曲にも注目したい。全てカバー曲。つまり、『スカパラ登場』や『ワールド フェイマス』の収録曲が1曲もないだけでなく、オリジナルはひとつもないのである。しかし、そこにもスカパラらしいスタンスがあるように思う。以下、その辺も含めて、収録曲を見ていこう。

1曲目は「SHOT IN THE DARK」。映画『A Shot In The Dark』(邦題:『暗闇でドッキリ』)のテーマ曲で、巨匠、Henry Manciniが作曲を手掛けたものだ。原曲では当然ブラスも使われているものの、テンポはゆったりとしていて、全体には優雅な印象。コメディーでありながらスリリングさもあって、古き良き時代の映画音楽という感じだ。ビッグバンドジャズ風という捉え方でもいいかもしれない。スカパラはそうした映画音楽の豊かさはそのままに、スカビートでダンサブルに仕上げている。テンポは原曲より若干アップめではあるものの・そこまでアッパーではなく、フロアーをじっくりと揺らす感じである。基本はメインのメロディーのループであり、そのメロディーも派手にポップではないし、案外シンプルな楽曲と言えばそうなのだが(中盤でソロ廻しがあるが)、だからこそ、何度も鳴らすホーンズのユニゾンの圧力が際立っているようで、独特な緊張感があるように思う。言い忘れたが、M1は歓声から始まるのもいい。演奏が始まってからオーディエンスのテンションが高まっていく様子も収録されていて、ライブ盤ならでは醍醐味も感じられる。

M2「LUCKY SEVEN」はジャマイカのスカバンド、The Skatalitesの明るくポップなナンバーのカバー。明らかに原曲よりもテンポが速い。誤解を恐れずに言えば、若干リズム隊がかかり気味な感じもするけれど、それもまだメジャーデビューして間もなかったバンドの勢いと好意的に受け止めたい。録音は1990年10月と1991年1月だ。“ん? 1曲で録音日が2日?”と思われたと思うが、別に間違っているわけではない。それぞれの日付に録った曲がつながっているのである。前半から後半にかけて転調したようにつながっている。前半は日比谷野外大音楽堂で、後半はインクスティック鈴江ファクトリーで録られたもので、それほど違和感なくつながっているのはお見事(よーく聴くと、野外とライブハウスの違いは分かるような気はするけど…)。途中途中で入る“ラッキーセブン”の声は原曲に近く、オマージュを感じさせるところだ。

M2は“若干リズム隊がかかり気味”とは言ったものの、全体のテンポはそこまで速くなかったのだが、続く、M3「FINGERTIPS」はギアが上がってノリはイケイケだ。アッパーで軽快、さらに勢いを増した感じである。M1ともM2とも収録した日付が異なるのだが、実際のライブさながらに曲順を考えて編集しているのだろう。とりわけ活きがいいのはオルガンとパーカッション。中盤でのサックスのソロも目立つが、この両パートの熱量の高さは多くの人が認めるところではなかろうか。速弾きと言っても差し支えないと思うほどの音符の細かさだ。ただ、原曲のLittle Stevie Wonder版を聴けばそれも納得。幼き日のStevieがパーカッション(ボンゴか)を叩き、ハーモニカを吹いているのだが、アドリブであろうそれらが速弾き調なのである。つまり、原曲へのオマージュなのであろう。単にカバーするのではなく、原曲にあるスピリッツもしっかりと自らの演奏に落とし込む。若かりし頃からスカパラメンバーが審美眼を持っていたことが分かるM3だ。また、M3では、ホーンセクションで語られることの多いスカパラだが、それ以外のパートも十分個性的で、欠かすことができない存在であることを示している。

柔軟かつ真摯に音楽へ向き合う姿勢

M4「BONGO TANGO ~挿入曲リンゴ追分~」はタイトル通り、途中で「リンゴ追分」のメロディーが入るという趣向。原曲ではジャマイカのサックス奏者、Roland Alphonsoが奏でる躍動感はありながらもどこか物悲しいメロディーラインを、シームレスに美空ひばりへとつなげていく様子は洒落ているし、両音楽家に対する尊敬があることは間違いない。老若男女、聴き手を選ばないバンドであることも示されているように思う。また、これはベースがいい。淡々とリズムを刻みながらも、確実に楽曲全体にグルーブ感を与えているのはベースラインだろう。

ビッグバンドジャズ風のスウィングを聴かせるM5「36-22-36 (THIRTY SIX TWENTY TWO THIRTY SIX)」も原曲へのオマージュを感じさせるカバー。ミドルテンポで、ピアノなど渋い演奏を見せる箇所も多く、メジャーデビュー間もない頃から、ホーンセクションがイケイケで迫る楽曲だけじゃなく、こういう落ち着いたナンバーもやれていたというのはスカパラの大きなアドバンテージだったように思う。聴きどころは間奏ではなかろうか。オリジナルを歌うBobby "Blue" Blandは独特の歌声で、何でも[痰を吐くような唱法は、彼のトレードマーク]だったとか([]はWikipediaからの引用)。このスカパラ版でも、ホーンズに先駆けて、かなりワイルドでフリーキーにシャウトしている。楽曲全体は比較的しっとりとしているので、静と動と言おうか、そのコントラストが面白い。

M6「SUMMERTIME」は古今東西、とりわけBillie HolidayやらMiles DavisやらJanis Joplinやらレジェンド級のアーティストがカバーしている超有名なナンバー。何となくゆったりとした歌唱のイメージを持たれている方も多いような気がするが、スカパラのメンバーもそう思ったのかどうかは知らないけれど、“らしい”カバーというか、スカビートで仕上げている。結構ポップだし、ダンサブルだ。今聴いても“こういう「SUMMERTIME」もあるのか!?”と新鮮に思われる方もいらっしゃるのではなかろうか。「SUMMERTIME」の原曲はGeorge Gershwinが[1935年のオペラ『ポーギーとベス』のために作曲したアリア]であり、ジャズのスタンダードナンバーである「セントルイス・ブルース」に起源があるという説もある([]はWikipediaからの引用)。諸説あるようで、それが真実とは限らないが、そう思って聴き比べると、このスカパラ版はLouis Armstrong版「セントルイス・ブルース」に似てなくもないこともない…くらいの雰囲気ではある。あるいは…という気もするが、果たして?

ラストはM7「妖怪人間ベム」。昭和のアニメ…と言おうと思ったら、平成に実写ドラマ化、映画化もされている。その実写版でもテーマソングをカバーしていたようで、インパクトの強い楽曲であることは間違いなかろう。ハニー・ナイツが歌った元歌はブラスセクションもリズム隊も冴えていて今聴いても実にカッコ良い代物だが、スカパラは比較的忠実に再現しているように思う。《おれたちゃ 妖怪人間なのさ》のあとで軽快に鳴るブラスであったり、滑らかに流れるジャジーな旋律であったりと、原曲の印象的な部分はもちろん、ド頭のドラム♪ドン、パッ〜から始まる辺りもちゃんとなぞっている。原曲はフルートでそこはさすがに再現できなかった模様だが(ホーンズで鳴らしている)、寄せた雰囲気は十二分に伝わってくる。アウトロもそう。原曲の雰囲気を壊すことなくスカパラ流アレンジが成されている。このテイクはデビュー記念のコンベンションライブで披露されたものだという。昭和のアニソンのカバーというと、その昔なら色物な見方もされたところだが、彼らが真剣に「妖怪人間ベム」に向き合ったことは、デビュー記念ライブで披露したことでも分かるし、何よりもこの音を聴けば適当にやっていないことはよく分かるだろう。スカパラはタイアップが多いと前述したけれども、それはM7のように、昭和のアニソンであっても、ある意味で柔軟に、そして真摯に楽曲と向き合えることをメジャーデビュー時に示した事実と無縁ではあるまい。こういうことができたからこそ、今もあらゆる人たちにスカパラは愛されているのだと思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『東京スカパラダイスオーケストラ ライブ』

1991年発表作品

<収録曲>
1.SHOT IN THE DARK
2.LUCKY SEVEN
3.FINGERTIPS
4.BONGO TANGO ~挿入曲リンゴ追分~
5.36-22-36 (THIRTY SIX TWENTY TWO THIRTY SIX)
6.SUMMERTIME
7.妖怪人間ベム

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