ニコラス・ケイジを100倍好きになる! 主演最新作『マッシブ・タレント』監督が明かす“リスペクト必至”の撮影秘話

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名優ニコラス・ケイジが自らの分身的な主人公ニック・ケイジを“メタメタ”に演じ、その輝かしいキャリアと改めて向き合ったアクションコメディ『マッシブ・タレント』が2023年3月24日(金)より全国公開。

冒頭から5秒に1度は笑わせてくれるうえに、しっかりスリリングなサスペンス展開もあり、最後には胸がじんわり暖かくなる本作。ケイジとペドロ・パスカルとの相性も抜群だが、決してキャストの知名度頼りではない傑作に仕上がっている。

監督・脚本を務めたのは、ザック・エフロン、マイルズ・テラー、マイケル・B・ジョーダン豪華共演のロマコメ『恋人まで1%』(2014年)ぶり、本作が2本目の長編となるトム・ゴーミカン。大事に温めてきた渾身の企画を憧れのスターと共に大成功に導いたゴーミカン監督が、爆笑必至の撮影秘話や知られざるケイジの素顔を語ってくれた。

「ペドロ・パスカルが『この役を僕にください!』って(笑)」

―落ち目の俳優が大富豪のパーティーに呼ばれて……という本作の物語を思いついた最初のきっかけは何だったんでしょうか? また、最初からニコラス・ケイジありきのアイデアだったのでしょうか。

コンセプトはニコラス・ケイジありきだった。ケイジが自分自身を助くために、かつて演じていた1990年代後半から2000年代初頭のヒーローに実際にならなければいけなくなる――というね。この映画は、あまり印象がよろしくない主人公ニックから始まり、徐々に良い人になっていくわけだけど、なにしろ本人に会ったこともなければ、もちろん彼も僕のことを知らなかったので、かなりチャレンジングな企画だったよ。

―そんな本作への出演オファーに対するケイジの反応は?

当時、ケイジとやり取りしていたプロデューサー経由でメッセージが届いたんだけど、脚本を読んだケイジの反応は「うーん、これはどちらにも転びうる作品だぞ」という感じだった(笑)。おそらく一番の懸念点は「自分を“からかう”ような作品なのでは?」という部分だったんだと思う。もちろん2時間もかけて誰かをおちょくるようなことはしたくないし、そこに意図があるわけじゃない。僕が考えていたのは、キャリアにおいても私生活においても自分の置かれている状況に納得できていない男を描く、ということだったんだ。

―ケイジとペドロ・パスカルの相性の良さにも驚きました。彼が演じるハビの存在は物語の原動力になっていますし、少し変わったバディ・ムービーとしても楽しめます。パスカルにオファーした理由と、彼が出演を決めた理由をご存知でしたら教えてください。

むしろペドロのほうからアプローチがあって、一緒にディナーをしたときに「この役を僕にください!」と懇願されたんだ(笑)。「僕は世界一のニコラス・ケイジのファンなんだ! 役者としても、すごく彼に影響を受けているし」なんて熱弁されたよ。

共同脚本のケヴィン(・エッテン)と話していたんだけど、ペドロが演じるハビという役は、彼自身がそのまま活かされているところが多々ある。ペドロはとても映画愛に溢れていて、スウィートで愛嬌のある人なんだ。

「キャリアの“頂点”をオマージュしたシーンで“どん底”を演じている」

―本作では『フェイス/オフ』(1997年)や『ザ・ロック』(1996年)などの直接的な引用以外に、たくさんのオマージュも隠されていますよね。プールのシーンは『リービング・ラスベガス』(1995年)を想起させますし、『アダプテーション』(2002年)は“もう一人の自分の存在”だけでなく、ストーリー自体にも似ている部分があると感じました。もちろん『マルコヴィッチの穴』を思い出す人もいるでしょう。引用する作品を選んだ基準は?

色んな要素を散りばめてはいるんだけれど、それらは諸刃の剣でもあるんだ。あまりニッチなところを突いてしまうと、観客は「何のことだろう?」となって離れてしまうから、そのへんのバランスをとるのが難しかった。当初はもっとケイジの出演作のオマージュを入れていたんだけど、最終的には調整しなきゃいけなくなって、削ったり差し込んだり色々と調整しながら進めたよ。

『リービング・ラスベガス』に関してはストーリー的にも欠かせない要素で、こだわったポイントでもある。劇中、ニックが人生のどん底を味わうシーンは、あえて珍しいタイミングに挿れてあるんだ。第一幕目の終盤に主人公のどん底を見せる映画なんて、あまりないよね。自身のキャリアの“頂点”であるオスカー受賞作をオマージュしたシーンで、その本人が“どん底”を演じている……という重なり具合は我ながら面白いなと思う。会話に出てくるオマージュはもちろん、あのプールのシーンなどビジュアル的にも色々なこだわりがあるんだ。

ひとつ面白いエピソードがあるよ。本作のプレミアをSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト:米テキサス州で開催されているエンタメ見本市)で行ったんだけど、観客がやたらと盛り上がることでおなじみのパラマウント・シアターで上映されたんだ。本作も大いに盛り上がったんだけど、その様子が劇中のあるシーンと完全にシンクロしていて、まさに映画が人生を模しているかのようだった。今回の映画製作を通じて一番楽しい瞬間だったよ(笑)。

「ケイジは突然アイデアが浮かんで『やってみたい』と言い出すんだ」

―ハビやCIAなど、主人公ニックを取り巻く人々のやり取りからは、これまでケイジがいかに幅広い世代の人々を楽しませてきたかが窺い知れますし、アクションからロマンス、コメディ、アニメ声優まで、彼の多彩なキャリアに改めて驚かされます。そして本作が単なるメタコメディになっていない大きな理由の一つは、ケイジ本人へのリスペクトなのではないかと思いました。

映画としては、ニコラス・ケイジのメタコメディというだけでなく、一つのストーリーが成立していなければならないよね。自分の過去に苛まれていて、それでも未来へと歩みを進めていかなければならないんだけど、なかなかうまくいかない。そんな“ある男”の物語を描きたかったんだ。

本作のニックは自分自身と対峙することで、より良い元夫、より良い父親、より良い役者になっていく。その真面目なストーリーと、面白おかしいメタコメディとのトーンを、いかに統一していくか? という部分が難しかった。でも最終的には心が揺り動かされる感動的な物語に仕上げたい、という意図もはっきりあったよ。その点に関しては、観客から「ニコラス・ケイジがテーマのコメディで感動させられるなんて、予想もしてなかった」といったコメントをもらえて嬉しかったね。

―劇中たびたび登場する“ヤング・ニッキー”の表情はとてもリアルですが、どのように作り上げたのですか?

当初ニッキーの登場シーンはもっと多かったんだけど、なにしろケイジがあまりにも熱演してくれたものだから、これは少し削ったほうがいいかな……となったんだ(笑)。とはいえ僕自身ボディダブルを使った演出をしたことがなかったし、技術的にもかなりチャレンジングだった。ケイジもカメラの左右で演技しなきゃいけなくて……もっとも彼は『アダプテーション』で既にそれをやっていて、しかもこの映画の中にそれを暗喩するシーンもあるという(笑)。

一番大変だったのが、ケイジは突然アイデアが思い浮かぶことがあって、急に「これをやってみたい」と言い出すから、現場はてんやわんやになるんだ。例えば“自分で自分に☓☓する”シーンがあるけど、あれは本人が「ここで俺が俺に☓☓したら面白いよね。ちょっとやってみようか」って言い出して。それを聞いた僕らは、モニター越しに「それはたしかに面白いアイデアだ……どうする? ……よし、やりましょう!」みたいな(笑)。

そのシーンではボディダブルを用意して、ケイジが相手の頭の後ろに手を回すという演出をつけたんだけど、彼は「おいおい、それはやりすぎだろう。僕を利用するのか? 勘弁してくれよ~」なんて冗談を言いながら反対するんだ(笑)。でも結局はやってくれて、「今のどうだった?」と言いながらモニターに駆け寄ってきてチェックして、「うん、悪くないね。もう一回やってみようか」なんて言ったりしてね(笑)。

「これほどまでの役者だとは。監督として夢のような体験だった」

―実際にニコラス・ケイジとお会いして、会う前と印象は変わりましたか?

印象はだいぶ変わった。一定の世代のアクションスターには“演出するのが大変で監督は地獄を見る”みたいな印象がついて回るものだと思うけれど、当初は彼もそういう人なのかなと思っていたんだ。でも実際に一緒に仕事してみたら全く違った。僕は過去に、あれほど徹底的に準備する人と組んだことはないよ。

この映画の台本は125ページあるんだけど、撮影開始1週間前に読み合わせが始まった時点で、彼は全てのセリフを完全に暗記してくれていたんだ。だから既に、台本が手元になくても読み合わせができるという状態だった。

あと、彼は毎朝ワークアウトをするんだけど、撮影中もクロストレーナーに乗りながら脚本に目を通してくれて、なにか意見があれば僕にメールをくれたんだ。逆に「こうやって頻繁に連絡してるけど、君は迷惑じゃない?」って聞いてくれるくらいで。ただ、最初は「いえいえとんでもない!」って言ってたんだけど、撮影終盤には「すみませんケイジさん、ちょっと対応できなくなってきました……」って僕のほうが音を上げる始末で(笑)。それくらいこだわりを持ってやってくれたよ。

彼は1分たりとも遅刻しないし、その日の撮影が終わるまで現場にいて、他のキャストとも細かくやり取りしてくれた。これほどまでの役者だとは知らなかったし、監督としては夢のような体験になったよ。

―本作には『グランド・ジョー』(2013年)を監督したデヴィッド・ゴードン・グリーンも出演していますが、最初にあの役をオファーしたのはデヴィッド・リンチだったというのは本当ですか?

本当だよ。でも最初はマーティン・スコセッシに声をかけたんだ(笑)。彼は「OK、やるよ」と言ってくれてたんだけど、コロナ禍で撮影が中断している間に別の撮影が決まってしまってね。それでリンチに声をかけたものの、やっぱりコロナ禍の真っ最中だったので高齢の彼にとってはリスキーだから厳しい、と。それで最終的にデヴィッド・ゴードン・グリーンが出演してくれることになった。身長の高いケイジが小柄なスコセッシに向かって怒鳴るっていう凸凹なシーンは、残念ながら実現しなかったよ(笑)。

―ケイジは近年も『PIG/ピッグ』(2020年)などで素晴らしい演技を披露していますが、監督のフェイバリット作品TOP3を挙げるとしたら?

TOP3か~! 難しいけど……まず『ザ・ロック』(1996年)が3位、『赤ちゃん泥棒』(1987年)が2位かな。そして僕のフェイバリットは『アダプテーション』(2002年)。もちろん『月の輝く夜に』(1987年)なんかも思い浮かんだけど、3作に絞るならそんな感じだね。

―では日本のニコラス・ケイジのファンに、同じくケイジのファンとしてメッセージをお願いします。

みなさんが思い描いているニコラス・ケイジ像を、正しく実現できていればと思っています。この映画は脚本を描いているときも、撮影しているときも、編集をしているときまで本当に楽しくて、アメリカの観客も大いに映画を楽しんでくれました。日本の皆さんにも同じように楽しんでもらえたら嬉しいです。

『マッシブ・タレント』は2023年3月24日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイント、グランドシネマサンシャイン池袋、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー

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