“アニメの力で地域振興を” ふるさと納税で制作費募る 長崎・南島原市

市特産品の島原手延べそうめんを紹介するシーン(「(c)ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキックX製作委員会」)

 長崎県南島原市がアニメを活用した地域の観光・経済振興に乗り出している。これまでも、ショートフィルムや観光PR動画を制作し、全国的な知名度アップを図ってきたが、「より若い世代に南島原の魅力を知ってもらう機会につながれば」(市担当者)と期待を寄せている。
 アニメの舞台となった地域や場所を訪れるファンを取り込んで観光地化を目指す動きが全国各地で活発になっている。こうした動きはファンの間で「聖地巡礼」と呼ばれている。
 魔界の悪魔・邪神ちゃんと彼女を召喚した女子大生・花園ゆりねの同居生活を描いたコメディー作品「邪神ちゃんドロップキックX」には、北海道の3市(帯広、釧路、富良野)と南島原市が名乗りを上げた。ふるさと納税で制作費を募り、1話ずつ「帯広編」「釧路編」「富良野編」「南島原編」のご当地アニメの制作・放映が実現した。

南島原市のふるさと納税でもらえる返礼品(アニメコラボ商品)

 南島原市は制作費を5千万円に設定。2020年10月~21年12月までに約6700万円と目標額を大きく上回った。昨夏放送された「南島原編」には、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一つ、原城跡(南有馬町)をはじめ、「鮎帰りの滝」(有家町)や「前浜海水浴場」(加津佐町)が主な舞台として描かれた。
 企画担当した市観光振興課の梶原和隆副参事(48)は「ふるさと納税を活用した取り組みは、市にとって(事業費に対する費用対効果など)リスクが少ない。ファンには納税で新作を見られる楽しみがあるし、アニメの制作委員会は費用を抑えられる。まさに“三方よし”」と笑顔で話す。
 放映後、ファンの交流サイトには「邪神ちゃんで南島原知って、すぐ行ってきた」「行くゾ南島原。絶対行くゾ」「北海道に負けじと南島原も頑張っている」などの好意的な投稿が数多く寄せられた。
 一方、「富良野編」を巡り、放送終了後、多額の借金を背負った主人公が「臓器を売って返済する」と決意した描写が問題視され、昨年11月、富良野市議会の決算審査特別委が制作委託料を不認定とした。本会議でも賛否が同数となったが、議長判断で最終的に認定された。
 他のアニメでは、ファンや旅行者のニーズを的確に捉えきれず、一過性に終わったり、商業主義が全面に出過ぎてファンに見透かされたケースもあった。
 梶原副参事は「(富良野編を踏まえ)製作委員会と協議を重ねた。リスクはゼロではない。それでも、全国のコアなファンが南島原に注目し、来訪してくれたほか、結婚式の引き出物に地元菓子店のレモンケーキを使ってくれるなど経済的な波及効果があった。南島原の聖地巡礼化を目指し、さらなる誘客を図る」と意気込む。


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