「ネット企業はみんな敵」逆境の中で始まった「GYAO!」が18年の歴史に幕 生みの親USEN―NEXT・宇野社長が打倒海外勢へ仕掛ける次の一手

 USEN―NEXT・HOLDINGSの宇野康秀社長=2023年3月、東京都品川区

 国内のインターネット動画配信サービスの草分け的な存在「GYAO!(ギャオ)」が3月末で幕を下ろした。「ガラケー」が全盛だった2005年、USEN(現USEN―NEXT・HOLDINGS)の宇野康秀社長が「家庭で映画やドラマを気軽に楽しめる時代が来る」と未来を先取りして始めた。国内で動画配信サービスを根付かせることに一役買ったが、ヤフーへの譲渡後は米ネットフリックスやアマゾン・コムなど海外勢の攻勢も受け、苦戦していた。宇野社長は3月2日の共同通信のインタビューで「残念だ」と悔しさをにじませたが、傘下企業が運営する動画配信と民放などが手がける「Paravi(パラビ)」の合併を決めるなど、次の一手を仕掛け、先行するネットフリックスの打倒に意欲を見せる。宇野社長の言葉などから、激動の時代を迎えた動画配信サービスの現在地を探った。(共同通信=仲嶋芳浩)

 ▽テレビ局抵抗で作品調達に壁
 有線音楽放送の会社を父から継いだ宇野社長は約20年前、楽天(現楽天グループ)と手を組んで有料制の動画配信サービスを始めたが、利用者はなかなか伸びなかった。今のようにスマートフォンは普及しておらず、ネット環境は脆弱だった。「市場に大きな刺激を与えなければ、動画配信の世界は前に進まない」。危機感に襲われる中、ひらめいたのが、テレビと同様に視聴を無料にして広告で稼ぐビジネスモデルだった。

 2005年4月にパソコン向けの動画配信サービスとしてギャオを開始。映画やドラマ、バラエティーなど幅広い動画作品をそろえることを目指したが、作品の調達ではテレビ局の抵抗が強く、壁にもぶつかった。当時は堀江貴文氏が率いるライブドアがフジサンケイグループの中核企業であるニッポン放送の株式を電撃的に取得し、楽天によるTBS株の取得も波紋を広げていた。ライブドアや楽天が本社を置いた複合施設「六本木ヒルズ」にちなみ、きらびやかなIT企業の経営者像を表した「ヒルズ族」との言葉も生まれた。「テレビ局にとって、自分たちを脅かす存在であるネット企業はみんな敵だった。ネット族はくそ生意気な、うざい存在以外の何ものでもない時代だった」と宇野社長は振り返る。

 サービスを始めた2005年当時の「GyaO(ギャオ)」の画面

 映画作品をネットで配信することへの理解もなかなか得られず、宇野社長自身が司会を務めるビジネス番組などオリジナルの作品も配信した。テレビの全国中継が少なかったプロ野球パ・リーグの試合を配信するなどして作品数をそろえた結果、視聴者からは想定以上の支持を集め、登録者数は約1年で1千万人を超えた。一方、現在と比べると携帯電話で動画を視聴する人は少なく「やることが早すぎる」と言われたことは数知れないという。

 広告主の獲得にも力を入れ、黒字化に近づいていた手応えもあったが、2008年のリーマン・ショックで状況は暗転する。USENの業績が悪化し、大幅な人員削減などリストラに踏み込まざるを得なくなり、ギャオを「泣く泣く手放した」(宇野社長)。2009年、運営会社の株式の過半をヤフーに譲渡した。

 ▽海外勢攻勢、強まった逆風
 ヤフーの傘下に入ったギャオは、サービスを刷新し、無料動画だけでなく、有料制の動画配信も始めた。後にヤフー社長となる川辺健太郎氏が再建を主導。フジテレビや日本テレビなど放送局からの出資も受け、テレビ番組の「見逃し配信」などで支持を広げた。現在は約20万本のコンテンツをそろえ、ヤフーは「国内最大級の無料動画配信サービス」とアピールする。

 だが、テレビ番組の見逃し配信は、テレビ各局が主導する「TVer(ティーバー)」とぶつかり、ネットフリックスなど海外勢の攻勢にもさらされるなど、足元では逆風が強まっていた。若年層には、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」のようなショート動画の人気が高まっている。

 競争環境が激化する中、ヤフーは今年1月にギャオのサービスを終了すると発表した。宇野社長は「時代の流れかなと思う」と受け止めるが「いまこうして日本にも動画配信が根付き、海外勢と互角に戦える環境があるのは、(約20年前の)暴走かもしれなかった早すぎた決心と、それをつないでいただいたヤフーの皆さんの心意気があったからだ」と感じる。

 米動画配信ネットフリックスのロゴ=(ロイター=共同)

 ▽集客力高め「ネットフリックスを抜く」
 動画配信市場では、サイバーエージェントグループのインターネットテレビ「ABEMA」が昨年のワールドカップ(W杯)カタール大会で全試合を無料中継し、注目を集めた。NTTドコモも「dTV」を刷新し、4月12日から作品数を拡充した新サービス「Lemino(レミノ)」に移行する。ドコモ幹部は「競争激化でdTVの存在感が落ち、改革が必要になった」と認めるなど、視聴者獲得に各社が死力を尽くす戦国時代となっている。

 調査会社のジェムパートナーズ(東京)によると、2022年の定額制サービスの国内シェアはネットフリックスが22・3%で首位を走る。U―NEXT(12・6%)は2位につけるが、アマゾンの「プライムビデオ」(11・8%)、「DAZN(ダゾーン)」(11・4%)とほぼ横一線の状況だ。

 国内勢首位のU―NEXTは、実はUSENが2007年に「ギャオネクスト」として始めた「ギャオ」の兄弟分だ。テレビ向けに有料制で動画を配信。宇野社長はUSENの業績が悪化する中でも、事業の将来性を信じ、2010年には個人で運営会社の株式を買い取ってまで事業を続けた。U―NEXTは「百貨店戦略」を掲げ、見たいものは必ずあるサービスを追及。月額料金は2千円超と割高ながら、285万人の有料会員を抱えるサービスに育った。

 USEN―NEXT・HOLDINGSの宇野康秀社長=2023年3月、東京都品川区

 宇野社長はU―NEXTとパラビの合併で集客力を高め「ネットフリックスを抜くのが方向感だ」と語る。合併後の有料会員は約370万人。会員数が500万人超とされるネットフリックスに対抗し、5年後をめどに一定の成果を目指す。パラビと合併することで「弱かった国内ドラマが加わり、作品のラインアップで最強になれる」と強調し、テレビ局との連携によって新しい作品の見せ方も検討する。

 「日本の中の大きなメディアが全部外資になってしまうのは、課題意識として持つべきだ」。宇野社長の言葉からは、海外勢が存在感を発揮する現状への危機感がにじむ。国内の他の運営企業にも、合併などの形態にこだわらず「いろいろな連携を模索したい」と呼びかけ、海外勢に対抗する存在として、さらなる飛躍に決意を示した。

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