社説:日ウ首脳会談 ならではの支援、深めよ

 岸田文雄首相がウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ロシアによる核兵器使用の威嚇を非難し、戦争犯罪の責任を追及するとの共同声明を発表した。

 ロシアの侵攻後、首相は先進7カ国(G7)の首脳で唯一、ウクライナを訪れていなかった。日本の首相が紛争地に入るのは異例だ。

 5月のG7広島サミットはウクライナ支援が最大の焦点となる。議長国として議論を主導するためにも、現地訪問は欠かせないと判断したのだろう。

 議長国の体面を保つことにとどまらず、揺らいだ国際秩序の再構築に向け具体的に何ができるのかが問われる。

 安全確保などに万全を期すためとして国会の事前承認を得なかった。野党の一部には疑問の声もある。訪問の経緯を含め、首相には帰国後に国会でしっかり報告してもらいたい。

 滞在は8時間余りだった。ウクライナ国民にも連帯の意思は伝わっただろうか。

 共同声明は、ロシアの核威嚇を「国際社会の平和と安全に対する深刻かつ容認できない脅威だ」とし、唯一の被爆国である日本の立場をアピールした。

 首相は2月に55億ドル(約7200億円)の財政支援を発表したが、新たにエネルギー分野などで4億7千万ドル(約620億円)の無償支援を表明した。北大西洋条約機構(NATO)の基金を通じた殺傷能力のない装備品3千万ドル相当の提供も伝達した。

 日本には武器輸出のルール「防衛装備移転三原則」があり、人道支援やインフラ復旧に重点を置くことになる。

 戦争は長期化も懸念されるが、他の先進国とは一線を画す支援の在り方は維持するべきだ。

 そうした事情はウクライナも十分認識しているだろう。首相の言う「日本ならではの形で、切れ目ない」支援の充実に努めたい。

 くしくも中国とロシアの首脳会談と重なった。国連安全保障理事会は両常任理事国の拒否権で機能不全に陥っている。今年から2年間、非常任理事国となった日本の役割は一層重要になっている。

 統一地方選と衆参5補欠選挙が迫るタイミングでの今訪問は、国内世論の関心を引きつけようとの思惑もうかがえる。

 今回の成果は、あくまで今後の姿勢と取り組みにかかっていることを忘れてはならない。

© 株式会社京都新聞社