野菜くずから化粧品…廃棄せず違う商品に 京都企業のアップサイクル、新しい再生とは

野菜の残渣から新たに開発した化粧品「至貴」

 色あせた古着を黒染めしてリメーク、野菜くずを化粧品に、金箔(きんぱく)屑をお箸の装飾に-。廃棄予定だったものに新たな命を吹き込んで付加価値が高い商品を生み出す「アップサイクル」が注目を浴びている。SDGs(持続可能な開発目標)の意識が高まる中、リサイクルなどの「3R」とは異なる新しい再生に挑む現場を訪れた。

 冬の味覚「千枚漬け」を製造する漬物会社大安(京都市左京区)の工場で、職人が聖護院かぶらの皮をむく。口当たりを追求するために厚くむいた皮や、穴が開いたものは商品には使えない。廃棄する残渣(ざんさ)は年間約193トンで、中でもカブラは約150トンに及ぶ。広報担当の田口幸子さん(56)は「素材は選び抜かれた京野菜。捨てるのはもったいないと悩んできた」と打ち明ける。

 そこで挑戦したのが化粧品開発だった。大安は化粧品製造販売のオーガニックマザーライフ(東京都)との共同開発に着手し、今年1月に野菜24種類の残渣を活用した野菜発酵化粧品が完成した。乳酸菌発酵させたり、植物溶剤で低温抽出させたりして原料化し、「野菜発酵水」と「野菜発酵油」の2種類に仕上げた。5月に発売する予定という。これまで聖護院かぶらの残渣を焼酎にしたり、市動物園に餌として持ち込んだりするなど有効活用策を模索してきた。大角安史社長は「化粧品に使うカブラは10キロほどで、全体からすればまだわずかだが、化粧品の販売が定着すれば大きな力になる」と期待を寄せる。

 下京区の河原町通にある京阪グループの複合商業施設「グッドネーチャーステーション」を運営するビオスタイル(下京区)は、カカオ豆の外殻部分で、大半が廃棄されるカカオハスクに着目した。19年に有機茶葉とブレンドしたカカオ煎茶や和紅茶などを発売した後もシリーズ化。カレーや調味料を展開したほか、昨年9月には京都の和菓子店「亀屋良長」と連携してカカオ煎餅も発売した。同社マーケット事業部の樹宏昌マネジャーは「『新しいおいしさ』を生み出すことでファンを獲得し、結果としてアップサイクルに貢献できるようになるのが理想」と話す。

 アップサイクルは2015年に国連でSDGsが採択されたことで注目されるようになった。京都でも黒染め加工の京都紋付(中京区)が13年から、着物を黒染めする伝統技法「京黒紋付染(きょうくろもんつきぞめ)」で汚れや傷が付いた古着を染め直す事業を始めた。服飾ブランドやリユース企業などと連携して衣服のアップサイクル事業を拡大し、染め直しを前提として2度楽しめる衣服のデザイン開発を服飾ブランドと計画している。荒川徹社長は「消費者が喜ぶスキームをつくることが重要」と話す。

 昨年8月には同社が中心となって、ファッション業界の課題となっている廃棄衣料の削減とアップサイクル文化の普及を目的とした一般社団法人「REWEAR(リウェア)」を設立した。破棄物の適正な回収方法の確立や、染め直しと再縫製の事業化を業界に呼び掛ける。代表理事の木村照夫京都工芸繊維大名誉教授によると、この2、3年でアップサイクルを掲げる企業や商品が多く出てきた一方、実態が伴わない案件も増えているといい、木村代表理事は「課題を抱える企業のマッチングと、アップサイクル商品のトレーサビリティー(流通履歴)管理を進めることが今後の普及の鍵を握る」と指摘する。

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