私は、自殺の名所と呼ばれている福井県・東尋坊の地で約19年間パトロールし自殺を考えて来る人たちに声掛けし、自殺を断念させる活動を続けています。生きる喜びを思い出してもらい、再起の道へ歩んでいった人は3月15日現在で788人を数えました。
先日発表された令和4年中の自殺者数の確定値を見ますと、20年前には年間3万人以上の人が自殺で亡くなっていましたが、今では2万人台にまで減りました。ただ最近はコロナ禍の影響か、児童・生徒の自殺者が増えており過去最高の500人以上になっています。私たちが昨年中に33人の自殺を防いできましたが、特に心が痛めたことは、奥さんと呼ばれている人6人と児童・生徒と呼ばれている未成年者が4人いた事です。
私たちと遭遇した人と悩み事の解決策を一緒に考えて家族へと引き渡すのですが、家族に連絡して迎えに来てもらい対面した時、辛くなって大声を上げて泣きじゃくる家族もいます。
その中で思い出されるのは本年2月下旬のことです。中国地方から来た40歳代女性を保護しました。彼女は結婚して15年が経過し、子供はいませんでした。悩んでいたのは10歳年上の夫からの言葉によるDVでした。「お前はアホか」「料理も出来ないなんて女じゃない。部屋の掃除をしろ」…。そして、ある日「出ていけ」の言葉に心の糸が切れ家出。離婚を決意して約一か月間、家に帰りませんでした。しかし資金が底をつき、東尋坊を訪れたのです。
家出して1カ月が経過しても彼女の夫からはまったく連絡がありませんでした。ところが東尋坊で保護した翌日に初めてメールが届きました。そこに書かれていた妻への怒りではなく、失ったことの悲しみの言葉が書かれていました。
「腎臓が悪くなり40キロと痩せてしまった。
今までお前が居たから働けたのにお前が待っていない家に帰るのも飽きた。
俺は、もう少しお前と過ごしたかった
俺がどんなにお前の事を強く思って心配してもお前に届くことは無いと知った。
この知らせを見ても帰って来る必要はない。
俺が死んだ知らせが届いたら後始末だけはしてくれ。
葬式はしなくても良い。
無縁仏で良い。
さようなら」
私の個人的な考えですが、家族の中で妻を亡くした人は約2年10カ月間苦しみ、夢遊病者のようになってしまいます。
この世で悲しい出来事が沢山ありますが、自殺で子どもさんを失った親御さんの苦しみは、それは大変です。子どもさんの部屋の後始末が出来ず、5年も10年も、何年もそのままにしている人が何人もいます。どんなことがあっても家族にそんな辛い思いをさせてほしくないのです。
私は彼らに言いたいのです。
「失敗に出会っても終わらなければ…、失敗は大きな成功への宝物です」。 何度失敗しても、後からその失敗が自分の血肉になって、昔話として語られることになると思うのです。自殺を考えている人に私が言っている言葉に「男はつらいよ」の寅さんの名セリフがあります。 「生きてさえいれば、必ず生きていて良かったと思う時が来るよ…!」 です。
誰も悩みを抱えた人を癒やしてあげられると思います。それは難しいことではなく悩み事に耳を傾けるだけで十分です。読者の皆様も地域の命のゲートキーパーになって下さることを願っています。
⇒東尋坊で活動する「心に響く文集・編集局」ってどんなグループ
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福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。
相談窓口の電話・FAX 0776-81-7835