<西九州新幹線 開業半年・中> 『日常利用』 新駅ビル、促進の切り札

新駅ビル(左)の建設が進むJR長崎駅周辺=長崎市尾上町

 西九州新幹線(武雄温泉-長崎)の乗車率を上げる上で、JR九州が交流人口拡大につながる観光利用と併せて二本目の柱として力を入れるのが、通勤通学や買い物などの日常利用だ。
 新幹線エクセルパス(定期券)の利用は2月末時点で計318人。開業直後9月末の221人から徐々に積み上げている。
 最も利用が多い区間は諫早-長崎の140人。開業直前8月末の在来線特急の定期券利用は144人だった。古宮洋二社長は「在来線より値段は高いが、速さと快適さを経験してもらえれば、新幹線の優位性は分かってもらえる」と“乗り換え”の加速に自信をのぞかせる。実際、昨年12月と今年1月の大雪では、他の公共交通機関の代替輸送手段として存在感を発揮した。
 同社は新大村・諫早-長崎の在来線定期券利用者向け特急料金回数券を、当初期間限定販売としていたが、4月から通年販売に切り替える。乗車7日前までの予約で最安利用できる切符「早特7」も販売期間を半年延長した。引き続き初回利用のハードルを下げて、浸透を図る狙いだ。
 ただ諫早駅の通勤客に聞くと、多くが新幹線の快適性や速達性を認めつつ、在来線特急からの“料金アップ”に不満をくすぶらせている。普段は在来線定期を使っているという50代会社員は「便利なのでたまに新幹線も使う。今後定期利用するかは家計と相談」と話す。
 人口が増加している大村市も通勤利用が期待されるが、新大村-長崎の定期利用は51人にとどまる。新駅周辺が開発途上なのが要因とみられ、市担当者は「2年後には商業施設やマンションが建ち、景色が変わってくる」。それを裏付けるように、周辺の地価は上昇が続いている。
 日常利用を促すJR九州の次の切り札が、今年秋に控える新長崎駅ビル開業。集客の鍵を握る商業エリアは、既存のアミュプラザ長崎と高架下施設「長崎街道かもめ市場」を合わせた現在の約2倍、計約8万4千平方メートルに広がる。さらに、計約9千平方メートルのオフィスエリアも備える。JR九州によると両エリアともテナント交渉は「順調」。同駅北部に来年秋開業予定の「長崎スタジアムシティプロジェクト」にもオフィスエリアが整備され、新たなビジネス街が生まれようとしている。
 昨年8月に同駅近くに竣工したオフィスビルはまだ入居が1社にとどまっており、オフィス需要はまだ弱い。県内の不動産鑑定士は「新駅ビル開業後、周辺は徐々にテナントが埋まるだろう。だが企業が長崎から事業所を引き上げる『ストロー効果』が進む恐れもある」と推移を注視する。


© 株式会社長崎新聞社