いきなり「できません」と伝えるのはNG!依頼を断るときのテクニック

同じ言葉でも、バックグラウンドが違えば異なる意味を持つこともあります。理解してもらえると思っていた発言に、否定的な反応を返されるということもあるかもしれません。

臨床心理学者・平木典子 氏の著書『言いにくいことが言えるようになる伝え方 自分も相手も大切にするアサーション』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・編集して依頼を断るコミュニケーションについて解説します。


断るときはいきなり「ノー」と言わない

やめてほしいことを伝えるのと同様に、できないことはできないと、誠意をもってきちんと伝えることも大切です。

残業をする時間がないことを伝えた例がありましたが、そんなときの注意点があります。

即座に「できません」「無理です」と突っぱねないこと。

意見を伝えることが大切とは言っても、いきなり「ノー」と言われたら、相手は驚き、立場をないがしろにされたと感じるおそれがあります。また、一方的で、攻撃的にも聞こえます。

互いの立場を守り、大切にするには、いきなり「ノー」と言わず、自分と相手の緊急度を見極めてから、伝えます。「それはできそうもない」ということが明確な場合は、状況や事態を忌憚なく伝え、丁寧に断る試みをしましょう。

もし、その場で判断できない場合は、「考えてみます」と返事をする。そう言われれば、相手は断られたときの心の準備ができ、あとで「できない」と言われても、いきなり「ノー」と言われるよりはるかにショックは少ないでしょう。

「依頼」を「断る」ときは、葛藤が生じます。

それを避けようとして「黙って引き受ける」あるいは「無理です」と突っぱねる。

これは非主張的なやり取りと攻撃的なやり取りの典型と言ってもいいでしょう。

怒りの前の「困っている」気持ちを伝える

「楽しい」「うれしい」など、ポジティブな感情を言葉で表現するのは、比較的容易かもしれません。誰しも快いことを感じるのは嫌いではないからです。

反対に「イライラする」「ムカつく」「腹立たしい」といったネガティブな感情は、体験したくないし、思い出したくもない。特に激しい怒りを感じたときは、気持ちがガーッと暴走し、感情を丁寧に感じる余裕などないかもしれません。

そこで、少し立ち止まって、怒りについて整理してみましょう。

あなたが怒りを感じたときを思い出して、その前に他の気持ちはなかったか、探ってみてください。

たとえば、

  • バスに乗り遅れそうで急いでほしいときに、パートナーがゆっくり身支度をしていると、「早くしてよ!」「何度言えばわかるのよ!」と怒る
  • 残業を頼んだ部下に、「無理です」と即答され、「上司の指示を断るなんて、なんと生意気な!」と怒りを感じる

など、怒っているとき、人はその直前に何か嫌なことや体験したくないことに出合っていて、怒る直前には、「困った」「参った」などの気持ちがあります。

  • 「急いでほしい」→「でもグズグズしている」→「バスに乗り遅れたら困る」→「困るようなこと私にしているあなたは許せない!」
  • 「残業してもらいたい」→「断られてしまって、困った……」→「言い方も気に食わない」→「上司にこんな思いをさせるなんて失礼だ!」

こうして怒りを爆発させているようです。

イライラするときや、ムカつくときなども同様です。

仕事が予定通りに進まずイライラするのは、思い通りにいかない状況に困っているから。

人の言葉でムカッとするのは、聞きたくないことを言われて困っているとき。

このように、怒りの手前に「困っている」気持ちがあるとわかると、そちらを伝えることができます。そうすると、相手は逃げたり、攻撃を返したりせず、困ったあなたに対応してくれる可能性が高くなるのではないでしょうか。

アサーションの研修で、参加者に「怒る前、どんな気持ちがありましたか?」と聞くと、「困っていた」「悲しかった」「悔しかった」「恥ずかしかった」などいろいろな気持ちがあることを教えてくれます。

怒りの手前には別の感情があって、その感情を起こさせた相手が悪いと怒っている。そうだとすると、自分が起こした感情を相手の責任にして怒っていることになります。

ネガティブな感情を覚えたときは、その気持ちを振り返って、裏にあるもうひとつの感情に気づくと、気持ちが整理されます。

ネガティブな感情(怒り)を感じる前には、「困った」「がっかり」などの感情があります。そして、そちらの方が相手に伝えやすいでしょう。

相手が怒っても、自分を責めない

考え方や意見の不一致はあり得ること、人は思い通りに動くとは限らない……と述べましたが、現実の場面では、自分の思い通りにいかない相手に腹を立てる人はいます。

アサーティブに伝えている場合でも、「反抗的だ」「生意気だ」と怒る人もいるでしょう。

そんなとき、とっさに「自分が相手を怒らせてしまった」とだけ思わないこと。

怒りの感情は誰かによって起こされるものではなく、何かをきっかけに本人が起こすものですから、怒ったことについては、その人自身に責任があります。

「相手が原因で怒ったのだから、相手に責任がある」と思いがちですが、同じ状況に出合っても、誰もが同じ反応や感情を表現しないことを考えれば、感情はその場で本人が起こしているということです。

ただ、怒った本人に責任があるとは言っても、双方のやり取りの中で感情が生まれるのも事実ですから、腹を立てている相手を冷たく突き放してもよいということではありません。

相手は怒りを感じているわけですから、原因は何であれ、相手の困っている状態をまず、受けとめましょう。

自分のせいだとおびえたり、相手の怒りを自分に伝染させて怒ったりせず、「相手に怒りが生じた」「何か危機を感じたのかも……」と受けとり、相手を思いやり、いたわる気持ちを持つことです。

ぶつかっても、相手を責めない、自分も責めない。不快な感じが生まれたときは、そこから自分ができることを試みて回復しようとすることもアサーションです。

嫉妬の前の「いいな」を正直に表現する

怒り以外にも、自他ともに対応が難しい感情があります。

そのひとつが「嫉妬 」です。

嫉妬は、元をたどれば「羨ましい」という気持ちから始まっています。

「いいなあ」「自分もそうなりたいなあ」という、実に人間的な気持ちです。

物事を素直に、シンプルに見る人はあまり嫉妬を感じません。

「よかったね」「素晴らしい」など称賛の一言で済んでしまいます。

ところが物事をあれこれ考えたり、周囲の状況に振り回されたりすると、嫉妬に発展しやすくなります。

  • 「いいなあ」→「でも、自分はそうなれそうもない」→「人気は得られない」→「相手に人気を取られるのは嫌だ」→「悔しい」「憎らしい」
  • 「羨ましい」→「でも、勝たないと人は注目してくれない」→「注目されない自分はダメだ」→「どうすればいいのか……」→「恨めしい」「腹立たしい」

このように気持ちや考えを膨らませ、「羨ましい」というシンプルな感情に悪意が絡み始めると、嫉妬というしんどい状態を作り出していきます。

そして、「羨ましい」と「嫉妬」を区別しないで、「嫉妬なんて見苦しい」と考えると、「羨ましい」がたまって「恨めしい」になります。

嫉妬で苦しまないためには、「自分より勝っている相手が羨ましい。いいな。自分もそうなりたいな」と、感じたことを正直に表現することです。自分がどうの、相手がどうの、周りがどうの、という懸念や思い込みは捨てましょう。

人間の感情には、良い・悪い、正しい・間違っているはありません。

競争社会の中で生きていると、「羨ましい」も許されない感情だと思うかもしれませんが、「羨望」だと考えて、「羨ましい、そうなりたい」と感情を表現すると、嫉妬まで発展させない段階でとめておくことができます。

それがアサーションへの第一歩でもあります。

言いにくいことが言えるようになる伝え方 自分も相手も大切にするアサーション

著者:平木典子
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