「見ている方には新鮮に刺さるのではないかと思います」――葵わかながスペシャルドラマ「キッチン革命」で伝えたい“働く人たち”へのメッセージとは

テレビ朝日系では3月25・26日に、2夜連続スペシャルドラマ「キッチン革命」を放送。戦前から戦後にかけて激動の時代に料理と台所、“食に関わる革命”を起こして日本を変えた2人の女性の姿を描く。

25日放送の第1夜では、計量カップ、計量スプーンを生み出し、現代でいうレシピ=“料理カード”を作り上げた女性医師をモデルとした女性が、さまざまな困難に立ち向かいながら未来を切り開いていく姿をドラマ化。26日放送の第2夜では、日本初の女性建築家をモデルとした女性が、長い間暗くて寒い北側に追いやられ、使い勝手の悪い設備の中にあった女性たちの働く場所であった“台所”の改革の裏側をエネルギッシュに描き出す。

明日放送の第1夜で、主人公・香美綾子を演じるのは葵わかなさん。逆境の中でも「誰でもおいしい食事が作れるように」と奮闘した女性を演じるが、その裏ではどんな思いを抱えていたのか。今回、制作発表記者会見後の葵さんを直撃し、話を伺った。林遣都さん、渡部篤郎さんとの再会に「あの空気感が戻ってきた感じがして、うれしかった」と懐かしみながら、撮影当時の葛藤や“時代にあらがう女性”に感じた思いを明かしてくれた。

――あらためて、本作のお話が来た時の率直な気持ちを教えてください。

「女性が主人公のドラマは珍しいなと思いました。スペシャルドラマで女性が切り開いていくようなお話を2夜連続でやるってすごく新しいというか。今でこそ男性と女性のあり方も変わってきている時代の中で、会見で(鈴木仙吉役の)北村一輝さんもおっしゃっていた“今っぽいテーマ”なのかなと思いました。その中で、自分が演じる香美綾子を見た時に、モデルになった香川綾さんのことについてお話を伺ったり、本を読ませていただいたりしたんですけど、基盤を作ってくださった方がいたから女性が活躍できている今があるんだなと感じていて。演じるのはすごく恐れ多いなと思っていたのですが、やりがいのある役だと思いました」

――実在した人をモデルにした役演じる機会はなかなかないと思いますが、役作りでこだわったところはありましたか?

「名前は変わってもモデルとなった綾さんの人生をリスペクトしながら、綾さんが書かれた本や、ご家族についてのお話が書かれている本も読ませていただきました。『こういうお父さまの元で育ったからこういう人になったんだな』と、台本には描ききれていない部分もたくさん拾えたので、すごく楽しかったです。史実を大切にしながらも、実在した人物をモデルとして演じることって難しいし怖いと思うんですけど、そこに恐れず、物語としてある程度のフィクション感というか、一つの表現として伝えることが自分の使命だなと思ったんです。綾さんをリスペクトしつつ、お芝居の中で『どうやってこの物語の中で綾子という人物が生き生きとしていることを見ている方に伝えられるか』という、そのバランス感はすごく難しかったです」

――第1夜では、綾子の長い人生が2時間に凝縮して描かれていますが、脚本を最初に読んだ時の印象を教えてください。

「もう展開が早すぎて(笑)。第2夜は時間の流れがゆっくりなのでそのギャップも面白いなと思ったんですけど、自分がいざやるとなると、綾子の人生を2時間で演じ切るというのはすごく挑戦だなと思いました」

――その中で「男尊女卑」が一つの壁として綾子の前に立ちはだかります。そういった時代背景についてはどのように感じましたか?

「その時代があって今があると思うので、『男性が強い社会』ということに対しての嫌なメッセージだけではなく、綾子のように飛び込んだ人がそこでどういう心情だったのかと考えさせられました。今こういう時代で生きているから『大変』と言えるけど、当時の環境が当たり前だった女性たちはどんな気持ちでそこに存在していたのかなと。どれぐらい男性が強かったというのも、今となってはイメージでしかないと思いますが、そこを批判するようなお芝居になるより、『そこで綾子さんはどう感じていたのか』というリアルさにフォーカスを当ててシーン作りができたらと思いながら、監督ともいろいろお話させていただきました」

――多くの男性が綾子のような女性を冷遇していた中で、林さん演じる香美昇一のような寛容的な男性が綾子にとっては大きな存在になっていきますね。

「昇一さんはもちろん、(渡部演じる)花園順三郎先生や(杉本哲太演じる)綾子のお父さん(横田茂雄)、要所要所で綾子を救ってくれたのもまた男性であったのが切っても切り離せないと思いました。同じ社会で生きていくためには、お互いに成長していかなければならないとすごく感じましたし、綾子自身、花園先生や昇一さんと出会えたことが本当にラッキーというか、人生の大きな財産だったのではないのかなと思います」

――昇一や花園の一言は綾子の人生のターニングポイントにもなっていきますが、演じられた林さん、渡部さんの印象を教えてください。

「林さんとは2回目の共演だったんですけど、こんなにがっつりお芝居をやらせていただくのは初めてで。林さんが持ってらっしゃる『スイッチがどこにあるんだろう…?』と思わせるような雰囲気は、すごく昇一さんに近しいものがあったのではないのかなと思っていたので、現場に入ってから『あ、昇一さんだ…!』と感じていました。ちょっとのシーンでも2人でコツコツシーンを重ねていくことが多かったので、一つ一つのシーンを重ねていくうちに、黙っていても隣にいられるような空気感ができたというか。お互いにそこまでたくさんしゃべる感じではなかったのですが、それはきっと綾子と昇一にも当てはまるようなところもあったのかなと思うんです。“常に仲良し”というより、“お互いに目指すところがあって、言葉じゃないどこかで手をつなぎ合っている関係性”がすごく2人らしいなと撮影の途中から思っていたので、言葉で言わなくてもどこか同じ空気感で生きている2人に見えたらいいなと思いながら演じていました。林さんも、そういう言葉にはない空気感を大切にしてくださっていたような気がしていたので、いい夫婦になれたのではないのかと思っています」

――だんだんと、目には見えない信頼が出来上がっていったような?

「そういうお話をしていないので、私が勝手に思っていただけかもしれないですけど(笑)、綾子も昇一さんも言葉が多い人ではなかったので、そういう空気感を私は感じていました!(笑)。私自身も、言葉で言いすぎるより『何を言うか、何を言わなかったか』がすごく大事だなと思っているので」

――渡部さんの印象はいかがでしたか?

「渡部さんとも2回目の共演で、以前は娘役をやらせていただいていたので、何年ぶりかにこうしてご一緒できるのはすごくうれしかったです。花園先生も綾子にとってすごくターニングポイントになるメッセージをくださる方なので、ヒリヒリした医療の世界で唯一信頼できるというか、ある意味“東京の父”のように思える相手だったのかなと思います。演じている時も、すごく温かさを感じながらやっていました」

――役としても演じている時も、身を委ねられる安心感があったんですね。

「そうですね。もう『この人に褒められたい!』みたいな(笑)、花園先生に『よくやった!』と言われたい部分もあったのだと思います。ナレーションでしか書かれていなかったですけど、花園先生が病院に招いてくれなかったらそもそも栄養学の研究はできなかったわけで。綾子の最初の道を切り開いてくださった方なので、すごく恩を感じていたと思えて、私自身も温かい気持ちでした」

――昇一や花園からの言葉で綾子の人生は大きく変わっていきますが、葵さんにとって“人生を変えた一言”を教えてください。

「いろいろ思い浮かぶのですが、(NHK連続テレビ小説)『わろてんか』でプロデューサーさんに『ヒロインは笑ってくれていたら大丈夫』と最初に言っていただいて。初めは違う意味で捉えてしまったのですが、撮影期間が終わる頃には全く違った意味で自分の中に染みる瞬間があったんです」

――どんなことがあったのでしょうか?

「初めて大きな主演をやらせていただくと、現場の方も、記者の方も、お客さまも、いろいろな方が注目して見てくださるんです。だから、『自分が現場でどういう状態か』と皆さんがすごく心配してくださっていることを感じたんです。自分が元気だとみんなも元気になってくれるから、『どんなにお芝居が下手でも、私自身の心が健康で笑顔でいられれば皆さんの役に少しでも立てる』と思うようになって。それを10カ月かけて私は学んだわけなのですが…(笑)。笑顔でいるのは簡単そうに見えてすごく難しい。『大変な時こそ笑顔でいることで幸せが集まってくる』というドラマでもあったので、今でもそれは大切に心の中に留めている言葉です。緊張する場面だからこそ、初対面の人だからこそ、つらい時だからこそ、笑顔で受け入れられる人になりたいなと今は思っています」

――今回も主演という立場でしたが、現場では“笑顔でいること”を意識することは多かったのでしょうか?

「できればどこでもそうでありたいなと思っていますが(笑)、今回は逆に綾子という人物を意識したというか。一生懸命な人物だったので、『自分がこの現場で一番、一生懸命な人でありたい』と思いながら臨んでいました」

――最後に、葵さんが考える「キッチン革命」のメッセージ性について教えてください。

「今、生きている私たちが知らない時代の中でものすごく頑張っていた人がいて、その方たちが今では当たり前に使っているダイニングキッチン、レシピ、軽量スプーンを開発してくれた事実に、よく考えたら『確かに江戸時代のあの台所からどうやって変わったんだろう』って私も驚いたんです。考えてもいなかったことだと思うので、見ている方にはそれが新鮮に刺さるのではないかなと思います。そこに歴史も感じつつ、当時、逆境の中でも『頑張ろう!』と言っていた女性たちの意思と、今を生きる私たちの志は普遍的なものがあるのかなと思っています。4月から新生活の方も多いと思いますし、そういう方の背中を押してくれるような作品になっていると思います」

【プロフィール】

葵わかな(あおい わかな)
1998年6月30日生まれ。神奈川県出身。2009年に女優デビュー。17年には、NHK連続テレビ小説「わろてんか」にてヒロインを務めた。近年の出演作に「三千円の使いかた」(フジテレビ系)、「ホリデイ〜江戸の休日〜」(テレビ東京系)など多くの作品に出演。4月22日より出演するドラマ「Dr.チョコレート」(日本テレビ系)がスタート、9月より木下晴香と共にダブル主演を務めるミュージカル「アナスタシア」が上演予定。

【番組情報】

「2夜連続スペシャルドラマ キッチン革命」
テレビ朝日系
第1夜 3月25日(土) 午後9:00〜11:05
第2夜 3月26日(日) 午後9:00〜10:55
※放送終了後、TVer、GYAO!での見逃し配信あり

取材・文/平川秋胡(テレビ朝日担当)

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