著名誌掲載論文に捏造113カ所 岡山大不正認定 実験データや画像

会見で陳謝する那須副学長(右から2人目)ら

 岡山大は24日、学術研究院医歯薬学域の神谷厚範教授(56)=細胞生理学=が2019年に英科学誌に掲載したがんの増殖に関する論文に、実験データや画像などの捏造(ねつぞう)が計113カ所あったと発表した。神谷教授に論文の撤回を勧告しており、処分する方針。

 論文は、自律神経ががんの増殖や転移に関与していることを動物実験で突き止めたとする内容。19年7月、国際的に著名な科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」電子版で発表し、山陽新聞など複数のメディアが報道した。

 同大によると、論文ではマウス914匹、ラット368匹を実験に用いたとしたが、神谷教授が購入するなどし実際に使用できたとみられるのはそれぞれ72匹、35匹しかいなかった。こうした動物の使用数に関する捏造が108カ所に上ったとしており「論文の実験は不可能」と結論付けた。

 他にも実験結果を示す画像5カ所の捏造を認定。自律神経の操作でマウスのがんの増殖が抑制されたとした実験では「0日目」と「60日目」の画像がいずれも16年4月25日に撮影されていた。露光時間を変えることで見かけ上、がんの大きさを調整したとみられる。

 20年9月に匿名の告発があり、同大が調査委員会を設置。神谷教授は調査委に対し「18年に地震でハードディスクが故障した」として実験データを提供しなかった。捏造の指摘についても「マウスは再利用していた」「画像の取り違えがあった」などと説明し、不正を認めていないという。

 神谷教授は国立循環器病研究センター(大阪府)を経て、18年6月から現職。実験は同センター在籍中の16~18年に行われたとされることから同センターも調査委を発足し、不正を認定した。

 同大は24日に記者会見し、調査委員長を務めた那須保友副学長らが陳謝。槇野博史学長は「到底容認されるものではない。厳粛に受け止め、研究活動における不正行為防止に向けた取り組みを構築したい」とのコメントを出した。

 岡山大は同日、民法が専門の吉岡伸一・元大学院社会文化科学研究科教授(69)が「岡山大学法学会雑誌」に寄稿した論文2本で計11カ所の盗用があったことも発表した。在職中の14、18年、相続や不動産に関する論文で、最高裁調査官が専門誌に書いた文書をほぼ原文通り記載しながら参考文献として明示しなかったという。

科学の信頼損なう

 研究不正に詳しい中村征樹大阪大教授(科学技術社会論)の話 がんの増殖に関する論文は信頼性が高い科学誌に載り、引用された数も100回超と多いため、社会的な影響が大きい。内容の根幹に関わるデータで故意による捏造が認められており、全国で確認された研究不正の中でもより深刻といえる。科学に対する市民の信頼を損ないかねない。

論文に掲載されたマウスの画像の一部。実験開始から「0日目」(左端)と「60日目」(右端)の画像が同じ日に撮影されていた(岡山大の発表資料から)

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