<南風>こだわりが強い、ある男性

 第一印象は「難しそうな人」だった。初めてのあいさつに対し目も合わさず会釈するだけだったその男性は、いつも身なりに気を遣い、アクセサリーひとつにも自身のこだわりポイントが詰まっていた。トンカツをオーダーしてソースがかかって出てくると、どこか残念そう。食べる前にソースが染み込むとサクサク感がなくなるから別添えにしてほしいと男性は言った。

 ワンプレートディッシュの時も、ソースやタレが他の料理に触れることは必死に避けようとする。物を買う時には、たくさんの商品を徹底的に調べ上げ、自分のニーズが一番満たされる物を購入し、スマホケースひとつ、なぜいかにこれが優れているかを語った。

 その男性のこだわりに触れる度に、私はそういった生活に対するこだわりが少ないことに気付かされた。リュックは黒がいい。文字が書かれている洋服はあまり着ない。思いつくこだわりポイントはごくわずか。もしオーダーした料理と提供されたメニューが違ったとしても、交換せず目の前に出されたものを食べるし、物を買う時も費用対効果に納得できそうなものであれば、特に他の商品などと比較することなく目の前の物を購入してしまう。一日のルーティンへのこだわりも特にない。

 私の意思決定の方法を見て、こだわりが強い男性は「こだわりなさすぎ」「どうでもよすぎ」と言う。

 その言葉に実はあった強いこだわりに気付くことができた。それは「こだわらないことへのこだわり」だ。これを包容と呼ぶのか適応と呼ぶのか、目の前の物事へは不満を漏らさずポジティブに向き合いたい。その思いが「こだわらない」という強いこだわりになっていたのだ。そんなことを気付かせてくれた男性と夫婦になり3年目。今日もこだわりが強い私たちの一日は、きっと楽しい。

(岩倉千花、empty共同代表)

© 株式会社琉球新報社