金融システム不安が急浮上、為替相場は米ドル高から米ドル安に転換していくのか?

シリコンバレー銀行(SVB)という名前は、私も今回初めて知ったのですが、そんな大手とはいえない銀行であるSVBの経営破綻をきっかけに、金融システム不安が急拡大するところとなりました。

為替相場はこれまで、インフレ対策で米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)はどこまで金利を上げるのか、そんな米金利上昇に連れて米ドル高がいつまで続くのかがメインテーマとなっていました。しかし、金融システム不安の急浮上により、FRBは今後、金融不安への対応として金利を下げる必要に迫られる可能性があり、それなら「米金利低下=米ドル安」リスクを考える必要があるのかもしれないといった具合に、米ドル高から米ドル安へ見通しが180度転換しかねなくなりました。

金融不安がテーマになった時の為替相場の動きとは、どのように考えたらいいのかと困ったら、まずは「歴史に学ぶ」ことから始めるのが一つかもしれません。


類似例1998年の「歴史に学ぶ」

今回のように、ある金融機関の突然の経営破綻をきっかけに、米国の金融政策の転換が注目された例として1998年のケースについて紹介してみたいと思います。

この頃の日本経済は、1997年から大手証券会社の経営破綻などが相次ぐなど厳しい状況が続いていました。また、金融史としては、アジア通貨危機が起こったのもまさにこの頃だったのです。

ところが、それらと一線を画して、米経済は好調が続いていたのです。こういった状況に対して、当時FRB議長だったアラン・グリーンスパン氏は、「米国だけがいつまでも繁栄のオアシスでいられるのだろうか?」と発言しました。そして、そんな不安が的中したように、1998年夏から、米経済も不穏の渦に巻き込まれるようになっていったのです。

そのきっかけが、ある金融機関の経営危機でした。LTCMという大手のヘッジファンドの危機が8月過ぎから表面化すると、好調な米経済に暗い影が差し込み、米国株は大きく下落に向かい始めたのです。NYダウは、7月半ばから8月末にかけての1ヵ月半で約2割もの大幅下落となったのでした(図表1参照)。

こうした中でFRBは、金融政策をそれまでの引き締めスタンスから緩和へ転換し、9月から3ヵ月連続で利下げに動きました。このFRBによる電光石火の早業を、有力な経済専門紙の英フィナンシャルタイムズ(FT)は、世界的な宅配便の名前を文字って「FEDエクスプレス」と表現したのですが、それが奏功したように金融危機は終息に向かうところとなったのです。

それにしても、この1998年のケース、ある金融機関の突然の破綻をきっかけに金融システムへの懸念が急拡大したことから、FRBの金融政策の転換に注目が高まったという流れは、最近のSVBショック以降の流れと基本的な構図は似ていると感じます。

だから、突然金融システム不安が為替相場においても注目テーマに浮上したことからその影響を考える場合には、過去における似たケースを探すといった具合に、「歴史に学ぶ」対応が一つの基本になります。その上で次に考えるのは、「歴史が全く同じく繰り返すわけではない」ということで、過去の似たケースと今回の違いを確認することが必要になるでしょう。

「歴史は繰り返さない」、違いを確認する

1998年は、突然の金融機関の破綻をきっかけに、FRBは緊急利下げへ急転換に動きました。では今回もFRBは、これまでのインフレ対策の利上げから、金融システム不安への対応として利下げへ転換に向かうところとなるのでしょうか?

1998年は、ある大手のヘッジファンドの経営不安が表面化すると、NYダウも約1ヵ月半で2割もの大幅下落に向かいました。株価は、基本的には景気を先取りすると位置付けられます。その意味では、先行きの景気急悪化を回避することが、当時FRBが緊急利下げへ急転換した理由だったのではないでしょうか。

そういう観点からすると、SVBショック以降の米国株の下落は、これまでのところでは限定的でした。NYダウの2月の高値からの最大下落率は、3月半ばの段階では8%程度にとどまっています(図表2参照)。株価の下落が、1998年のように2割程度まで拡大しなければ、金融システム不安の急拡大でも、FRBの対応は1998年とは異なる可能性があるのではないでしょうか。

金融システム不安の急浮上を受けて、1998年にFRBが緊急利下げに急転換したことは、金融危機を比較的短期間で終息させたと評価された一方で、正反対の批判もありました。それは、ITバブルの株高を後押しした可能性があったということでした。

2000年初めにかけての米ナスダック指数を始めとした世界的な株価の一段高は、その後ITバブルと呼ばれましたが、結果的には1998年のFRB緊急利下げから始まりました。

そんな1998年との最大の違いは、今は歴史的なインフレとの格闘が続いているということでしょう。それを考えると、1998年にバブルの株高を後押ししたような金融緩和への積極的な転換には、極めて慎重になる可能性があるのではないでしょうか。

なお、今までの連載でも述べてきたように、米ドル/円は、基本的には米金利と連動するので、その米金利の動きを「歴史に学ぶ」という姿勢で考えたら、大きく「間違う」ことはないと思っています(図表3参照)。

ということで、急に為替相場のテーマが変わって困ったときには、過去の似たような局面を手掛かりにする、「歴史に学ぶ」ことから始める。ただし、「歴史は繰り返さない」ので、違いを確認した上で、今回の影響を吟味する必要があることを認識すれば、「間違い」を減らす一助になるのではないでしょうか。

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