【コラム】自衛隊法に要人の高リスク地訪問時の警護規定を

 岸田文雄総理が戦時下のウクライナのゼレンスキー大統領を訪ねた意義は、G7広島サミットを控え、G7サミットの議長国としてリードする立場からも、世界へのメッセージとしても評価されよう。

 ただ一国の総理が戦時下にある国を訪ねるなら、極秘、安全に、つまり完全な情報管理と安全確保の警護体制が敷かれていなければならない。今回、岸田総理がポーランドで列車に乗り込む様子がライブでTV報道されたこと。ニュースの価値はわかるが、危機管理がどうなのか、大きな課題を提起した。

 岸田総理は23日の参院予算委員会で安全確保のための警備について「国際社会において領域内に所在する外国人の保護、安全確保は一義的には領域国の警察当局等の機関が行うものというのが基本的な考え方だと思う」と答えた。

 そのうえで「ウクライナ政府等と慎重に検討を重ねたうえで、秘密保全、安全対策、危機管理等において遺漏のないよう最善の方法を総合的に検討した。安全管理、危機管理、情報対策に万全を期しており、今回の対応に特段、問題があったとは考えていない」と述べた。

 無事に目的を果たし、無事に帰国されたから言えることで、列車に乗り込む姿がTVでライブ中継される状況に狙撃、襲撃の隙を与えることの危険性は全くなかったと言えるのだろうか。検証するべき。報道機関に関しては、海外での予期せぬ出来事が起こり得るリスクの高い地への要人訪問には、1社の代表取材で、かつ、ウクライナ出国後での処理対応も検討していくべきではないか。

 ウクライナ訪問を政府発表前に報じたマスコミに対して河野太郎デジタル担当大臣は24日の記者会見で「常識的な報道をお願いしたい。スピードでなく、中身と質で競って」と期待した。今回の場合『電撃訪問』と報じるより、事後の報道で、訪問したことの意義と成果、見えてきた課題などを伝えることに価値があるといえよう。訪問時リスク低減のため、政府から提供された情報の取り扱いと安全確保への配慮が当然必要になる。政府に都合の良いようにリークされないことも必要だ。

 日本維新の会の浅田均議員は参院予算委員会の質問で「戦地のところであるのに警護が現地の人で良いのか、事前に情報が漏れていたということで情報管理の点でも大丈夫か」と危惧した。戦時下のウクライナを訪ねるのに「自衛隊が総理の警護をするのは当然のことではないか」とも提起した。

 岸田総理は「自衛隊法など法令に基づいて海外に派遣されるが、我が国の要人の警護のみを目的に海外に派遣する明示的な規定はない」と答えた。それなら、国際情勢がロシアによるウクライナへの侵略行為をはじめとして不安定な中で、今後、こうしたケースに対応できるよう、自衛隊法に要人の高リスク地訪問時の警護規定を明記すべきだろう。今回の訪問を検証し、要人警護にどのような体制で臨むことがベストか、早急に具体策を期待したい。(編集担当:森高龍二)

今後、こうしたケースに対応できるよう、自衛隊法に要人の高リスク地訪問時の警護規定を明記すべきだろう。今回の訪問を検証し、要人警護にどのような体制で臨むことがベストか、早急に具体策を期待したい

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