ネット公開されない「政務活動費」の領収書 全国議会の状況を一挙公開! 全国オンブズマンの調査から

4年に1回の統一地方選挙が始まった。議員活動を評価する「ものさし」にはいくつもの種類がある。「第2の議員歳費」と呼ばれる「政務活動費」もその1つだ。政務活動費は議員の調査研究などに必要な経費であり、公金を原子として各議員に支給されているが、私的な旅行や飲食などに使う例が絶えず、監査請求や裁判で違法支出と認定され、返還命令が下った例ケースも少なくない。

一方、政務活動費の使用状況を有権者らがチェックしようとしても、そう簡単に進まないケースがあるのだという。政務活動費の「情報公開度」を毎年調べている全国市民オンブズマンの最新調査で判明した、「情報公開度」の実態とはー。

◆政務活動費の使途が見えない! 地方議会のダメダメぶり

政務活動費とは「議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費」(地方自治法第100条第14項)を指す。「調査研究」だけでなく、「その他の活動」にも使用できる。「政務活動費については、その使途の透明性の確保に努める」(同第16項)とされているものの、全国の地方議会では政務活動費の使途公開がなかなか進まず、それと軌を一にするかのように不正も続いている。

2014年には兵庫県議が東京や博多、城崎温泉などに1年間で195回もの日帰り出張をしたとして、約300万円の支給を受けていたことが明るみに出て、大問題となったことがある。釈明会見で号泣する議員の映像が全国に流れたため、記憶している方も多いだろう。

富山市議会では2016年に政務活動費の不正利用が次々と明らかになり、連鎖的に14人もの議員が辞職する事態になった。地元メディアが情報公開制度を使って関係書類を入手し、それぞれの支出が適正かどうかを調べた結果、領収書の捏造や改ざんが相次いで発覚したのである。山形県議会では、議長経験があり全国都道府県議会議長会の会長も務めた元議員が2022年6月、政務活動費576万円を詐取した罪で懲役1年6カ月(執行猶予3年)の有罪判決を受けた。裁判では「自由に使える金がほしかった。不正受給した政務活動費は私的な飲食や旅行に使っていた」と述べたという。

こうした不正が横行する理由の1つは、関係書類が市民の目から隠され、遠ざけられているためと言っていい。

全国市民オンブズマン連絡会議の「政務活動費 情報公開度ランキング」は、全国の47都道府県、20政令市、62中核市の計129議会を対象として、情報公開度を100点満点で評価したものだ。採点基準は、開示される情報の種類のほか、「住民がどれだけ政務活動費の情報にアクセスしやすいか」を重視して作成されている。

以下、各項目の評価基準と配点を見ておこう。

①領収書=ネット公開15点など。満点で30点

②会計帳簿=ネットで全て公開していれば10点など。満点で20点

③活動報告書=ネット公開は10点。満点で20点

④視察報告書=ネットで全て公開なら10点など。満点で20点。

⑤支出基準を示したマニュアルの昨年とネット公開=10点

①~⑤を合算したものが、各地方議会の情報公開度ということになる。たったこれだけのことだから、満点の獲得は難しいとは思えない。しかし、全くネット公開しない議会も数多く存在する。全国市民オンブズマン連絡会議が昨年9月下旬に開いた全国大会では、最新の2022年ランキングが公開された。その結果をまずは、上位と下位のランキングで見ていこう。

◆都道府県議会のランキング 透明度1位は兵庫・奈良、最下位は岡山

(注)「領収書」項目の「原本提出など(15点)」は、「領収書を原本提出している(7点満点)」「支払先が個人の場合に個人名を公開(5点満点)」「領収書の閲覧に情報公開請求が不要(3点)」の合計。各項目のゼロ点は赤字で表示。全国市民オンブズマン連絡会議「政務活動費 情報公開度調査」のデータを元にフロントラインプレスが作成

都道府県の情報公開度1位は、兵庫県と奈良県が同点で並んだ。京都府、大阪府、東京都といった大都市圏の議会が上位に位置している。

他方、最下位は岡山県。そのほか、福島、和歌山、栃木、香川の各県は評点の合計が20点にも満たない状態だった。

先述したように、このランキングは「住民がどれだけ政務活動費の情報にアクセスしやすいか」を重視している。端的に言えば、使途が適切であることを示す「領収書」、活動の証しとなる「活動報告書」「視察報告書」といった資料をネットで誰でも閲覧できるかどうかが大きなポイントだ。ネット全盛なのに、領収書を見るために議会事務局に足を運んだり、情報開示請求をしたりしなければならないとしたら、とても市民に開かれたとはいえない。ランキング下位の都道府県議会は「領収書」「会計帳簿」「活動報告書」「視察報告書」という重要書類が軒並みネット公開されていないことがわかる。

◆評価基準はかなり緩いのに……

全国市民オンブズマン連絡会議によると、これらの評価基準はかなり緩いという。例えば、「活動報告書」「視察報告書」の内容については、いっさい評価の対象にしていない。A4の書類1枚だけであろうと、双方が同じコピーであっても、ネットで公開していれば、10点満点としたからだ。

この調査をまとめたNPO法人・市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は次のように指摘する。

「50点という点数は、領収証を原本で提出し、閲覧ができ、会計帳簿を提出、活動報告書・視察報告書を公表、マニュアルをネット公開していれば獲得できる点数です。50点も取れないということは、基本的な情報の作成すら義務付けていないということ。政務活動費の不正がこれだけ多くの議会で問題となり、市民の関心が高いにもかかわらず、50点も取れない議会は落第というほかはありません」

◆政令市のトップは静岡市、最下位は横浜市・名古屋市

次に政令市20市のランキングを見てみよう。

スコアの算出方法などは「都道府県議会」に同じ

公開度が最も高い静岡市は97点で、ほぼ満点に近い。2位の京都市、3位の堺市、4位の新潟市も90点以上という高評価だった。

一方、最下位は、横浜市と名古屋市がともに12点という低レベルで並んだ。領収書や会計帳簿といった重要書類をまったくネットで公開しておらず、閲覧するにはわざわざ議会事務局まで足を運ぶ必要がある。このネット時代に有権者にそこまでさせる議員の感覚とは、いったい何なのだろうか。名古屋市は6年連続の最下位で、2019年には議会運営委員会が「可及的速やかにネット公開を行う」と取り決めたが、実際は何も進んでいない。

◆中核市62市のランキングは?

スコアの算出方法などは「都道府県議会」に同じ

公開度トップの函館市は、全議会を通じて唯一の100点満点だった。地元のオンブズマン組織が早くから税金の使い方に目を光らせ、数々の指摘を繰り返すなどしてきた結果、透明度が全国トップクラスになったのだという。政務活動費の不正で市議14人が立て続けに辞職した富山市は、公開度2位。その後に透明化を図ったことがプラスになったようだ。

下位に並んだ議会は、ここでもネット公開がほとんどされてない。そのために、評価点数が低くなっている。

47都道府県、20政令市、62中核市の計129議会をトータルで見ると、評点が50点以下という“失格”は52議会(40.3%)だった。

全国市民オンブズマン連絡会議が、政務活動費の状況を初めて調査し、公表したのは2002年である(当時は「政務調査費」)。そのとき、収支報告書に領収書、視察報告書を添付している地方議会は、都道府県・政令市ともゼロだった。その結果に衝撃を受けたオンブズマン側はこれ以降、政務活動費の透明性に関する調査を継続。都道府県議会では2003年調査で、初めて京都府が5万円以上の領収書を収支報告書に添付するようになった。

ところが、その後の歩みは遅く、47都道府県がすべて領収書を添付するようになったのは2015年を待たねばならなかった。

一方、領収書のネット公開は遅々とした歩みながら、少しずつ進んでいる。都道府県・政令市・中核市のうち、ネット公開を実現させたのは2016年時点では、わずか9議会だった。翌2017年からは30議会、49議会、62議会と増加。2020年には初めて5割を超えて73議会(57.5%)となった。今回詳報した2022年調査では、22都府県、13政令市、47中核市の合計82議会(63.6%)を数える。

◆情報公開度が高い議会ほど政務活動費の執行率は低い

全国市民オンブズマン連絡会議によると、ネット公開など情報公開度が高い議会ほど政務活動費の執行率は低くなるという関係がある。

例えば、中核市でランキング2位の富山市(97点)は、前述したように2016年には不正受給によって議員14人が辞職する異常事態を招いた。不正受給が続いていた2015年度の執行率は100%。調査対象の全議会のうち、唯一、全額を使い切っていた。

ところが、不正をきっかけに領収書のネット公開など透明化を図ったところ、執行率は35.9%(2021年度)まで下がった。

不祥事が起きた、または領収書がネット公開された翌年には、政務活動費の執行率が減少する実態は、政務活動費が本来の調査研究活動に支出されていないことを示している。前出の児嶋氏は次のように言及している。

「政務活動費はもともと、議会活動を活性化することを目的として法制化されたもの。そうである以上、政務活動費を用いた議会活動がどのような内容だったのかを市民にわかりやすく説明するのは、政務活動費を受領した側の義務。透明化に反対するなら、政務活動費の交付は不必要です。

政務活動費の支出を透明化することにより、市民は議員の興味・関心や活動の実態を生の資料で見ることができます。支出資料を通して議員が行った調査研究を知り、自分が投票した議員が期待通り働いているかを知ることができるのです。地方政治に市民が参加するために有益な情報。最近は不正問題がクローズアップされますが、政務活動費に対する関心を不正の追及にとどめていると、本質を見失うでしょう」

■以下に「都道府県議会」「政令市議会」「中核市議会」の全ランキングを掲載する(スコアの算出方法などは上記と同じ)

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