他人の煙「あれがクスリだったら自分も…」 少年、尿検査拒む理由吐露 佐世保署夜間パトロール

「あれがもしクスリだったら、自分もやったことになるんじゃないか」と不安を吐露する少年に、警察官は説得を続けた=佐世保市(画像は一部加工)

 近年、全国的に若い世代を中心に「大麻」による検挙者が急増している。長崎県内第2の都市、佐世保市でも昨年、大麻による逮捕者が相次いだ。繁華街などを管内に持つ佐世保署は、犯罪を防ぐため、夜間の巡回で不審者などに目を光らせている。同署の夜のパトロールに同行した。

 日付も変わりかけた頃。まばらに車が行き交う佐世保市中心部の国道の路肩に、パトカーが止まった。車から降りたのは、佐世保署自動車警ら班第2係の野口貴史警部補(39)と吉原大輔巡査長(30)。1人の少年を見つけ、声をかけた。「話を聞いていいかな?」
 「いいっすよ」
 少年は素直に応じた。夜道を歩いていたのは「家に帰る途中だった」という。持ち物検査にも快く応じた。
 一瞬警察官の目が厳しくなった。かばんの中からたばこが見つかったのだ。未成年の喫煙は補導の対象になる。吉原巡査長は念のため、少年に薬物反応を調べる「尿検査」への同意を求めた。すると少年の態度が一変。かたくなに拒否した。
 「明日は学校もバイトもあるから、早く帰らないと」
 「何かやましいことがあるの…?」。少年に詰め寄った。
 「別に…」
 「じゃあいいじゃない」
 説得するも、少年は口を閉ざしたまま。堂々巡りの状態が続いた。
 すると、少年から連絡を受けた父親が怒号を飛ばしながら駆け付けてきた。「俺の息子がなんしたとや!」
 「まあまあ、お父さん落ち着いて」。なだめる野口警部補。検査を拒む少年と、怒り狂う父親-。状況は一気に緊迫した。
 路上で父親をなだめている間に、少年は落ち着きを取り戻したのか、検査を拒む理由をぼそりと話し始めた。
 クラブに遊びに行き、他人が吸っていた「たばこじゃない煙」を吸ったかもしれないという。「あれがもしクスリだったら、自分もやったことになるんじゃないかって…」
 吉原巡査長は過去のパトロールでも、似たような話を職務質問相手から聞いたことがあった。少年が抱える不安を理解した上で「やましいことがないのなら」と冷静に説得を続けた。
 声を荒らげていた父親も、野口警部補の説明を聞き納得した様子に。親子ともどもパトカーに乗り込み、佐世保署に向かった。
 検査の結果、薬物反応は出ず、少年はほっと胸をなで下ろしていた。野口警部補と吉原巡査長は「寝坊せんごとね。気を付けんばよ」と言葉をかけ、親子を見送った。
 吉原巡査長は「若者と薬物との距離は縮まってきている。しっかり取り締まらないといけない」。野口警部補は「(薬物乱用は)若者の健やかな成長を妨げることになる」と語気を強める。2人はそう話し、再びパトカーを夜の街へ走らせた。


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