初開催のスプリントレース、新品ソフトでの激しいバトルと濃縮の12周/第1戦ポルトガルGP

 スプリントレースでフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が優勝したことについては驚くことではないかもしれない。しかしその短いなかに、じつに様々な内容が詰まっているレースとなった。

 MotoGPでは初開催のスプリントレースは、第1戦ポルトガルGPの3月25日土曜日、現地時間15時から12周で行われた。スタートからチェッカーまで約20分。日曜日のレースが約40分から45分であることを考えれば短い時間にも思えるが、オーバーテイクや接戦、僅差の優勝争いといった要素が凝縮したレースだった。

 最終的に優勝争いを演じたのは、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)とホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)。軍配はバニャイアに上がり、2022年チャンピオンがスプリントレースの最初のウイナーとなった。

 バニャイアは1周目のメインストレートでトップに立ち、そこから終始、トップ3以内を走っていた。最終ラップをマルティンのすぐ後ろの2番手で迎えたバニャイアは、マルティンが5コーナー立ち上がりでふくらんだところを見逃さずにトップを奪った。

「本当にうれしいよ。今は不思議な気持ちだ。明日はもうひとつレースがあるとわかっているからね。今日のことはうれしい。今日はトップ3で終えることが目標だったんだ」と、バニャイアはレース後の会見のなかで語る。

「レースは楽しかったよ。バトルは(日曜日のレースよりも)激しかったね。みんなが新しいソフトタイヤを履いていて、周回数が少ないからいつもより攻められたんだ」

スプリントレースでも強かった王者バニャイア

 方や、最終ラップの5コーナーでミスを犯して2位でゴールしたマルティンは、「もし4位でも満足だったと思う」と語っている。

 また、「今日はこのフォーマットとレースを理解するために、どんな結果でも問題なかった。もちろん、最終ラップにトップを譲ってしまったのは残念だけど。でもとにかく、たくさんのラップを学んだ。昨シーズンから失っていた、ブレーキングの力強さといった自信を取り戻したんだ。これもまた重要なことだ。明日はレース終盤にバトルをして、いいペースを刻むチャンスがあると思う。自信を感じているんだ」とも。

 1ラップアタックに強いマルティンは、もともとスプリントレースに自信をのぞかせていた。そして、2位という結果を獲得した。得たものを日曜日のレースにどう生かすか、ということにはなるが、自信というものはライダーの速さを支えるひとつの要因でもある。マルティンにとっては、表彰台とはまた別の収穫があったレースとなったようだった。

惜しくも2位となったマルティン。しかし自信を取り戻したことは収穫だろう

 そして、この日いちばんのどよめきを起こしたライダーといえば、3位表彰台を獲得したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)である。プレシーズンテストからまとまりきっていない感のあるホンダRC213Vを駆り、Q1からの予選を突破して、Q2でポールポジションを獲得してみせた。決勝レースでは序盤以降に優勝争いからは離れるも5番手以内をキープし、表彰台を獲得するあたり、「さすが」のひと言に尽きる。

「とてもうれしいよ」と語ったマルケスは、「素晴らしい日曜日……」と言ってから「おっと、失礼(笑)。素晴らしい土曜日だ」と言い直した。トップ3が並んだ会見場には笑いが起こった。ちなみにマルティンも同じような言い間違えをしていて、ライダーの頭には「レース=日曜日」という意識──あるいは身体にも──がしっかりと染み込んでいるのだと思わされた一幕でもあった。

 マルケスは今回、チームからライディングスタイルについての助言を受け、それを取り入れたのだという。

「何度も優勝しているライダーに助言を与えるのは容易なことではないとわかる。でも、ときとしてそれは役立つ。受け入れる必要があるとしても、聞き入れるのが難しいこともあるけど、受け入れないといけない。僕は今朝(フリープラクティス)、ひとりで走って、そのアドバイスにだけ集中してライディングスタイルをよくしようとしてみた。明日はもう少しよくしてみようと思う」

「僕がやったのはただ、ライディングスタイルの彼らの優れているところをコピーすること。まだ最終コーナーはけっこうロスしているから改善が必要だけど、明日、トライするだろう。でもサーキットの別の場所では自分の強みをキープして、それから(ジョアン・)ミル、(アレックス・)リンスのスタイルを使っている。彼らは速いからね」

 こうした姿勢に、マルケスの勝利への貪欲さを思い知る気がする。マルケスはすべてにおいてベストを尽くし、苦しい状況の中で3位に駆け上がった。

ポールポジションから3位表彰台を獲得したマルク・マルケス

■トラブルとアクシデントに見舞われたクアルタラロ

 2023年シーズン最初のレースで、影に隠れたのがクアルタラロなのだ。予選では11番手。予選順位の改善は2022年シーズンから持ち越されたヤマハ陣営の課題だったが、少なくとも開幕戦ではその課題は続いているようだった。

 予選の不振に加え、クアルタラロのスプリントレースは、トラブルとアクシデントに見舞われて1周目でほとんど決まった。

「ローンチコントロールに問題があったんだ。いいスタートを切ったんだけど、2速に入れたらかなりポジションを落としてしまった。それからジョアンと接触して、最後尾にまで落ちた。ペースはそんなに悪くなかったけど。レース中に起こったことについてはわかっているけど、グリッドポジションをもっとよくするために、1ラップのペースを上げないといけない」

 クアルタラロは10位でゴール。まさかの順位でスプリントレースを終えた。なお、1周目5コーナーでクアルタラロのインサイドに入った際にクアルタラロと接触したミルは、このときの走りに対して日曜日レース中のロングラップペナルティを受けている。

 また、2023年からドゥカティのファクトリーチームに移籍したエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ・レノボ・チーム)は、転倒でレースを終えることになった。2周目、5番手を走っていたバスティアニーニは、5コーナーでインにいたルカ・マリーニ(ムーニーVR46レーシング・チーム)の転倒に巻き込まれる形でクラッシュしたのだ。

「僕は自分のラインを通っていたんだけど、いつもより1度、バンクしたんだ。エネアとの接触を避けるためにね。そしてフロントを失って、自分のバイクが(バスティアニーニに)当たった。残念に思っている。ただ、僕の大きな過ちだったとは言いにくい。レーシングアクシデントだった。(バスティアニーニが)問題ないといいんだけど。ピットに行ったんだけど、(バスティアニーニは)メディカルセンターから戻っていなかったんだ」

 マリーニはこのアクシデントについてそう説明していた。囲み取材をキャンセルしたバスティアニーニは右肩甲骨の骨折を負い、ポルトガルGP決勝レースを欠場するとチームから発表された。

 土曜日のスプリントレースを終え、ライダーたちは引き続き、25周で争われる日曜日の決勝レースに挑む。

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