「韓国の言葉遣いをしたら公開処刑」北朝鮮新法の恐るべき内容

北朝鮮で、今年1月の最高人民会議(国会に相当)第14期第8回会議で採択された「平壌文化語保護法」。北朝鮮の標準語である「文化語」を守るとの名目で、韓国式の言葉遣いを厳しく取り締まるものだ。

デイリーNKは最近、この「平壌文化語保護法」の全文を入手した。2020年に成立した「反動思想文化排撃法」と合わせて、ドラマ、映画などの韓流コンテンツの流入に危機感を覚えた北朝鮮が、その排除にやっきになっていることがうかがい知れるものだ。

韓国式言語や表現使用・流布時、最大死刑…「公開処刑」言及も

同法は、韓国式の言葉遣いのことを「傀儡語」と呼び、第2条の2項で以下のように定義している。(参考:平壌文化語保護法の全文)

傀儡語とは、語彙、文法、アクセントなどが西洋化、日本化、漢字化され、朝鮮語の根本を完全に失った雑多な言葉であり、この世にないような醜悪で吐き気のするゴミのような言葉である。

第58条(傀儡語使用罪)
傀儡語で話をしたり、文章を書いたり、傀儡語による携帯メール、電子メールを送受信したり、傀儡語または傀儡書体で表記された印刷物、録音物、編集物、絵画、写真、掛け軸などを作成した者は、6年以上の労働教化刑に処す。罪状の重い場合は、無期労働教化刑または死刑に処す。

第35条(公開闘争による教養)
社会安全機関をはじめとする該当法機関は、資料暴露や群衆闘争集会、公開逮捕、公開裁判、公開処刑などの公開闘争を様々な形式と規模で正常に行い、腐りきった傀儡文化に汚染された者どもの気を打ち砕き、広範に群衆を覚醒させなければならない。

第19条(傀儡式呼称を真似る行為の禁止)
公民は血縁関係にない若い男女間で「オッパ」と呼んだり、肩書に「ニム」を付けて呼んだりする行為など、傀儡語を真似る行為をしてはならない。少年団では「オッパ」という呼称を使うことができるが、青年同盟員になってからは「同志」、「トンム」などの呼称を使わなければならない。

第41条(日本語のカスの使用禁止)
機関、企業所、団体と公民は、炭鉱、鉱山、交通運輸、建設部門をはじめとする社会生活の諸分野に残っている日本語のカスをきれいに清算し、平壌文化語を使わなければならない。

第44条(非規範的なアクセントの使用禁止)
公民は、田舎臭く、異様に語尾を上げるような非規範的なアクセントで話す行為をしてはならない。

つまり、方言の使用も禁止するということだ。「異様に語尾を上げるような非規範的なアクセント」とは、東海岸に面する咸鏡道(ハムギョンド)、江原道(カンウォンド)で使われる方言のことを指すと思われる。

首都・平壌の位置する平安道(ピョンアンド)と咸鏡道の間には、感情的な対立が存在するが、自分たちの地方の言葉を「田舎臭い」呼ばわりされたことによる不満も、法が知れ渡るにつれ出てくるかもしれない。

北朝鮮版「言語警察」に法的根拠を与える今回の法律だが、どこまで実効性があるかは不透明だ。

韓国風の言葉遣いから方言に至るまで、すでに公的領域からは排除されおり、私的領域でのみ使われている。プライベートに踏み込んで一つひとつを摘発するのは非常に困難だ。また、反動思想文化排撃法の場合、違反して収監される人があまりにも多すぎて、法の執行を一部緩和せざるを得なくなったが、平壌文化語保護法も同様の道をたどる可能性が考えられる。

また、カネとコネで骨抜きにされる可能性も充分考えられる。「金品を受け取ったり、職権で圧力をかけたり」して、傀儡語使用を黙認してはならないと定めた38条は、そんな状況を予見して、条文に入れられたのだろう。

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