町の銘菓、いちごまんじゅう。家族で守る伝統の味(後編)

プロローグ

さつま町宮之城屋地にある是枝商店は、120年以上続く老舗菓子店。銘菓いちごまんじゅうは、町の老若男女に愛されるふるさとの味だ。この伝統をつなぐため、コロナ禍をきっかけに店を継いだのが4代目となる是枝樹さん。仲間と将来を語り合った公園など、樹さんお気に入りの場所を訪ねながら、Uターン後の心境を伺った。

インタビュー:泊亜希子 撮影:高比良有城 取材日:2022年

仲間と誓った約束の丘

是枝商店から車でおよそ5分。町の子どもたちの遊び場として親しまれる「帝釈天公園」は、小高い丘のてっぺんにあり、宮之城の町を一望できる。「ここから店も見えますよ」と樹さん。あれが小学校、中学校は合併して今はひとつに、向こうが高校ですね、と指差しては教えてくれた。「ここで友達と、自分は将来何になる!と言い合ったりしましたね」と懐かしそう。漫画か映画みたいですね、と向けると「そういうのに憧れていた頃でした」と大笑い。樹さんは何と言っていたのでしょう?「ここから外へ出ていって、いずれ帰って来る、と言っていましたね」というから、有言実行だ。

帝釈天公園からの眺め

約10年間、東京で飲食業に携わってきた樹さん。ゆくゆくは地元に帰るだろうな、と思っていたそうだが、大きなきっかけとなったのは新型コロナウイルスだった。「コロナがなければ、まだ戻っていなかったかもしれません」。仕事が忙しく、同級生の結婚式で帰って来るくらいで、帰省もあまりしていなかった。Uターンにあたり、不安はなかったのだろうか。「何もないところでやっていけるのかな?というのはありました。ただ、小学校からのバスケットボール仲間が10人くらいいて。自分たちの代で初めて全国大会に出場したこともあって、メンバーの絆は強いですね。ご飯に行ったり、バーベキューをしたり」。

町の魅力もずばり、人と人との強いつながりだと樹さんは言う。「久しぶりに帰って来て、どこに行っても知り合いがいる。『帰って来たんだ、おまんじゅう継ぐの?』と。そうしますと答えると、頑張れ、頑張れと励ましてくれますね」。樹さんの顔を見て、すぐにおまんじゅうが出てくるあたり、いちごまんじゅうの浸透度がうかがえる。生まれ育った場所ではあるが、再び町に溶け込むために、樹さんなりに心がけていることもある。「地域の行事にはこまめに顔を出す、町役場や商工会に挨拶に行くというのは意識してやっています。特に地域の年上の人たちとは積極的に話をするようにしています」。

さつま町の温かさ

再び始まった樹さんのかごしま暮らし。移住やUターンを考えている人へのアドバイスを聞いてみた。「さつま町は地域の人たちがとにかく温かい。受け入れ体制が出来ているので、まずは気軽に来てみて、住んでみる。鹿児島は食べ物がおいしい。最初は食べに来るだけでもいいので、遊びに来てほしい。そこで、温かい人たちに触れて、気に入ったら住んでみる、くらいの気持ちでもいいのでは」。東京で飲食業に携わっていた樹さん、帰郷して鹿児島の食材には改めて驚かされた。「これぞ、おいしい鹿児島の味、なんだなと。素材の味が立っている。特に感じるのが肉です。新鮮な鳥刺し、豚肉は絶品。ラーメンのチャーシューが飾りじゃない(笑)。チャーシューだけでご飯が進みます」と、熱弁を奮う。都会暮らしと違い、こちらでは車移動。運動不足が体に表れますね、と苦笑いする樹さんだが、食べ物のおいしさも一役買っているかもしれない。

10年間離れていたふるさとの町。通りを歩いて、すっきりしたな、という印象を受けたという。「昔は大きな建物、工場、小さな家々が点々とあった感じ。アーケードがなくなり、区画整理が進んだのかな」。2006年に大きな水害に見舞われたさつま町。樹さんが懐かしさを感じつつ、整備された印象を受けたのは、水害後の復興によるところもあるだろう。「川内川が整備されて、きれいになったと感じます。川沿いを歩くのが好きですね」。お気に入りの場所のひとつとなった。

思い出の味を未来につなぐ

川のせせらぎに、これからのことを思う時もある。「今後の目標は、いちごまんじゅうを作り続けること。おじいちゃんおばあちゃんから、小さな子どもたちまで、おいしいと食べてくれる。100年以上続くものだから、なくしちゃいけないなと思います。そのために、お店をどうやって後世に残していくか。小さな店なので、建物もリフォームしたいですね」と真剣な眼差しで話してくれた。

最後にさつま町の好きなところを尋ねてみた。「町の人たちの頑張る力、ですかね。何かひとつのことに対する情熱。同世代の30代、40代の人たちが頑張っている」。樹さんの言葉どおり、さつま町の団結は強い。近年も若手事業者を中心に、地域ブランド「薩摩のさつま」を活用し、厳選されたまちの逸品としてPRする動きが本格化するなど、さつま町の熱量は枯れることがない。今や、樹さんもその志を担うひとり。帰る場所があった。守りたい伝統があった。町の銘菓いちごまんじゅうとともに、樹さんのかごしま暮らしは続いていく。

是枝さんのかごしま暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

19年(出生~専門学校卒)+帰郷して2年

Uターンした年齢は?

29歳

Uターンの決め手は?

コロナ禍もあり、家業を継いで、いちごまんじゅうの伝統を守りたいと思ったから

さつま町の好きなところ

小学校からの友人たちと、強い絆や懐かしい思い出を共有しているところ。町でも、人と人の結びつきが強く、助け合っている。町のために、みんなで団結して盛り上げていこうというエネルギーが魅力です。

かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!

これから結婚、出産、子育てという世代。さつま町は買い物が便利で暮らしやすい。県内の中心にあり、鹿児島市、出水市、薩摩川内市、鹿児島空港など、アクセスしやすい。30代40代が頑張って町を盛り上げています!

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