詐欺メールに「2000万円超」“課金”被害男性の泥沼…運営会社への「損害賠償請求」が認められたワケ

「3000万円を受けとってほしい」
「夫に...不満があるんです」
「セックスしてくれたら現金を支払います」

実際に出会い系サイトで相手から送られてきたメッセージです。12名以上の詐欺師にダマされのは50代の男性。なんと2000万円以上もサイト課金してしまいました。

地裁では男性は負けたのですが、高裁で大逆転。高裁は、出会い系運営会社に2000万円を超える賠償を命じました。

ネットを使っていると【あんまぁ〜〜い話】だらけですよね。クリックするとこの男性のように泥沼に落ちるかもしれません。

もし詐欺にあったときは専門の弁護士に相談することをオススメします。以下、わかりやすく事件を解説します(東京高裁 H25.6.19)(弁護士・林 孝匡)。

事件の当事者

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▼ 会社
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出会い系サイトを運営する会社

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▼ Xさん
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・男性(当時おそらく51歳)
・単身赴任生活
・お金に困っていた

どんな事件か

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▼ 現金をお渡しします
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発端は「現金をお渡しします」というメールがXさんに届いたこと。お金に困っていたXさんがリンクをクリックしたところ、相手とメール交換するには会員登録が必要だったため登録。

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▼ 課金システム
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このサイトでは以下のことをするには課金が必要でした。

・メールを読む
・メールを送る
・写真を見る
・写真を送る

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▼ 2000万超えの課金
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Xさんはお金を受け取りたいがために大量のメールを送受信。約1年6か月の間で合計約2031万円も課金しました。

・Aサイト 約913万円
・Bサイト 約523万円
・Cサイト 約393万円
・Dサイト 約201万円

うさんクサすぎるヤツら

さてここからは、Xさんを騙した12名の詐欺師をご紹介します。

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▼ ファイナンス系会社の社長
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「私の指示に従うなら5000万円を特別な手段で供与できます」

クサっ!全文字がウソクサいんですが、Xさんは信じてしまいます。メールのやりとりをするためにどんどん課金します。社長の指示に従ってサラ金から借金までしますが、結局5000万円を受け取れず。

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▼ 謎の女性
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「会社で3000万円の利益が出たので極秘で受け取ってほしい」

Xさんが口座情報をメールしようとすると、女性は「このサイトでは口座情報は送れない」と言い、別の方法を提案。女性はコロコロと提案を変えてきたのでメールやりとりのために大量に課金せざるを得ないハメに。

結局、3000万円を受け取れず。

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▼ アパレル系会社の社員
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「私の祖父の話し相手になってくれませんか。祖父は裕福なのでお礼に数千万円をあげます」

Xさんはメールのやりとりを開始。8回も面会の約束をしましたが、会えず。相手が待ち合わせ場所や時間をコロコロと変更してきたからです。

社員がXさんに送信したメールは、なんと1223回。たぶんXさんも同じくらい送信してますよね。バンバン課金しましたが結局会えず。

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▼ 年商100億の女性社長
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「夫に...不満があるんです。私とセックスしてくれたら高額の現金をお支払いします」

Xさんはメールのやり取りを開始。しかし、約束をコロコロ変更されたり、ブッチされたりして、結局会えず。

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▼ 研究所の職員
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「男性の精子が必要なんです。あなたの年齢がちょうど研究に合致します」

これも対価の支払いを匂わせていたようです。もうお分かりですよね? 課金し続けてメールのやりとりをしましたが結局会えず。職員のメール送信回数は112回。

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▼ 頭取婦人
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「支援金9000万円を受け取るつもりはないか?」

もう説明は不要でしょう。約束日時・場所をコロコロを変えるなどこれまでと同じ手口を使われ結局会えず。頭取婦人のメール送信回数は676回。

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▼ IT企業取締役 (女性)
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「会社経営について相談に乗ってくれれば3000万円をお渡しします」

これまでと同じ手口で結局会えず。

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▼ 固定資産管財人
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「会社の固定資産を管理して生じた2000万円の剰余金を受け取ってほしい」
「税務署にバレないよう特殊の振り込みシステムを使う必要がある」

何回もメールのやりとりをしたんですが、特殊振り込みシステムを使うための作業指示が、いつまでたっても終わらず。結局もらえず。

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▼ 外科医
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「話し相手になってくれれば600万円をお渡しします」

Xさんは新大阪駅や高槻駅で外科医を待ち続けたんですが、外科医は一度も現れませんでした。Xさんは外科医の所在確認のため1日に数百回もメールを送りました。

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▼ システムエンジニア(女性)
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「社長から1600万円を処分するよう指示されたんです」
「税金対策のようです。受け取ってくれませんか」

これまでの手口にプラスアルファで悪どさがあります。「口座番号を1文字5回ずつ送信してほしい」と指示を出しています。5回分の課金になりますからね。

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▼ 銀行員
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「300万円を振り込みたい」

銀行員は「(メールの)文字化け対策として専用回路を開設する必要がある。それには20万円が必要」と言い、Xさんは20万円を出しました。

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▼ 医者
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「不治の病の方がおられます」
「その方のご両親の遺産を受け取ってほしい」

ようわからん申し出です。Xさんは医者と大量の送受信を行います。遺産を受け取る手はずが整ったかと思いきや【ちゃぶ台返し】です。医者は「最初から同じ作業を繰り返してほしい」と指示してきました。Xさんは断念。

Xさんの請求

ついにXさんは目覚めます。「詐欺だ!」と主張して損害賠償請求訴訟を提起しました。

地方裁判所の判断

地裁ではXさんは負けてしまいました。理由は「サクラと会社の関係が明らかじゃない」というもの。会社が送信したとは認定できないということだと思います。

Xさんは控訴。

Xさんの弁護士が実験

Xさんの弁護士さんが試しに会員登録してみたんです(3名分)。すると数分後には大量のメールがバンバン届きました。「財産を譲り渡す」などの内容で3件とも全く同じ文言でした。

弁護士さんが返信すると、次々とサイト運営会社への入金を促すメールが送られてきました。3件とも同じ名前で、同一時刻に送られてくることが多かったんです。

この実験結果が高裁の裁判官の心を動かした可能性が高いです。高裁は「これらのメールは、専属的に担当している者から多数の会員に組織的に送信されていることがうかがわれる」と認定しています。

高等裁判所の判断

というわけで、高裁でXさんは

大逆転します。高裁は「こりゃ会社が詐欺してるね」と判断。会社に対して約2230万円の賠償を命じました。

高裁は「Xさんがメールをした相手は会社と無関係の者はなく会社が組織的に使用しているサクラとみるほかない」と認定。

さいごに

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▼ 本日のMVP
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MVPは弁護士さんですね。何事も実験。私も学ばねば。

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▼ 立証は難しい
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今回は高裁が「このサクラは会社のヤツだろ」と認定しましたが、会社が「このサクラはウチとは関係ないですよ!」とシラを切れば、サクラは会社のヤツだという立証は難しいようです。

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▼ 詐欺師に会ったことあります?
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判決文に実際のメールのやりとりが載っていなかったんですが、相当巧妙なメールを送っていたんだと思います。だってナゾの頭取婦人から「支援金9000万円を受け取るつもりはないか?」と送られてきても【誰が信じんねんタボが】じゃないですか。詐欺師に出会ったことはないんですが、そこから信じこませるテクニックは凄まじいんだと思います。

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▼ あなたにお金はくれない
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人はあなたにお金をくれません。あなたならお金をあげますか? あげないですよね。私はあげないです。なので「コレめっちゃおいしいやん!」と思った時点で騙されると思ってください。

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▼ 詐欺被害にあったら
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もし騙されてしまった方は弁護士さんに相談しましょう。「こんなことでダマされて恥ずかしい...」と思うかもしれませんが、弁護士さんはあなたをバカにしません。怒りだけを詐欺師に向けます。泥沼にハマる前に「これはおかしいかも...」と感じたらスグに相談しましょう。

そして、できれば専門の弁護士さんに相談することをオススメします。悪徳業者って頭いいんでタチが悪いんです。専門にしてる弁護士さんなら悪徳業者を追い詰めるノウハウを持ってらっしゃると思います。

今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!

【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

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