「仮面ライダー」で遊んでみた系映画 『シン・仮面ライダー』茶一郎レビュー

はじめに

お疲れ様です。『シン・仮面ライダー』、初日最速上映とIMAX2D版、計2回観てまいりました。『シン・ゴジラ』、『シン・ウルトラマン』に続く「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」。いったんの最終作品『シン・仮面ライダー』ですが、初見時の感想は、困惑と同時に庵野監督濃度が高いなぁという感じでございました。過去作以上に庵野監督は、自分のフィールドに「仮面ライダー」という題材を持ってきて、ごっこ遊び的に作品を再構築したなという印象が強い、強く出た監督の色と変態性も感じつつ、鑑賞後は劇中の言葉を使えば「スッキリ」気持ち良く、清々しく劇場を後にできる爽快な喉越しも感じました。

「変」だけど「スッキリ」という映画体験で、個人的には『シン・ゴジラ』の次に好きな作品でした。大好きという訳ではないですが、奇妙な清々しさが残る映画です。ということで雑多な感想になりますが、今週の新作『シン・仮面ライダー』ネタバレありで、まとめて参ります。

話し手のポジション

まずこの手の映画は話す側のスタンスを語っておかなければなりませんが、とても僕は中途半端な立ち位置で…。まず「仮面ライダー」「特撮ヒーロー」に関して申し上げると、まぁ本業が「特撮」の製作チームに属していますので、日々、特撮作品とは触れておりますし、幼少期は『クウガ』、『アギト』、特に『龍騎』等々、毎週観ていましたが、どちらかというと「ゴジラ」『平成ガメラ』が好きだったので、「仮面ライダー」ファンではないあくまで仕事として触れているポジションです。庵野作品も『式日』と「夏エヴァ」は好き、『シン・ゴジラ』は一本の映画として大好きだけど、ファンという訳ではないという…とても中途半端なポジションの奴の感想という事は最初に申し上げておきます。

どんな映画?

『シン・仮面ライダー』どんな映画?もう公開初日にツイートした通り、最初に感じたのは庵野監督『キューティーハニー』のリベンジだな、と。そもそも『キューティーハニー』自体、東京国際映画祭・庵野秀明の世界トークショーで監督語られていたように、「仮面ライダー的なヒーロー特撮を作ろうと思っていた所に『キューティーハニー』の企画が来た。仮面ライダーありきの企画だった」と。故に本作『シン・仮面ライダー』が2004年の『キューティーハニー』と同じ構成になったのは当然の流れで、強大な敵組織がいて、その刺客、幹部が複数人いる、主人公はその組織の幹部それぞれと戦いながら、最初は信頼していなかった味方と深く心を通じ合わせていくと。本作も全く同じ構成をなぞっています。

加えて『キューティーハニー』では漫画的、アニメ的な映像をそのままやる実写とアニメの中間を行く映像が印象的でしたが、本作でも今、現在、実写でやると馬鹿馬鹿しく見えてしまいかねない原作の演出を様式美として、そのまま映像にすると。特に『仮面ライダー』1話の「怪奇蜘蛛男」は、予告映像でも見られたように、カット割、編集、果てはロケーションまでも完コピして見せます。『キューティーハニー』のリベンジの意味合いを強く受け取りました。

個人的には『キューティーハニー』でも悪役の執事役だった手塚とおるさん。本作の組織幹部として出てくる、『ラブ&ポップ』でも手塚とおるさんが怪演を見せてましたね、庵野実写映画で怪演と言えば手塚とおるさんの方程式が出来上がってきております。

本作の要素として『キューティーハニー』のリベンジがある…冒頭で申し上げた通り、原作を守りながら、かなり今回、庵野作品濃度が高いのも特徴でしたね。意味があるのか無いのか分からない観客を専門用語の連発と早口で煙に巻く、しばしば「衒学的」と批判される庵野作品ですが、観客の常に一歩先を進んでいく感覚は中々、今の邦画大作では庵野作品以外許されない魅力とさえ思っています。

今回、「蜘蛛怪人」ではなく「クモオーグ」、改造実験ではなく「オーグメンテーション」と呼称されます。人と「動物」「昆虫」を合成する、「改造実験で良いじゃん」、いや違うんだと。「オーグメンテーション」と聞き馴染みのない横文字を使う事にSF・空想科学のロマンがあるでしょと。

劇中で最も重要なワードは「プラーナ」。今回、コミカライズ『真の安らぎはこの世になく』という作品があって、これは悪役サイドの物語を描いた…映画ではほとんど悪役の物語は深掘りされませんが、それはコミカライズで描かれていますので、ぜひ合わせてお楽しみ頂ければと思いますが、「プラーナ」はコミカライズ作品でも登場していて、てっきりテクノロジーなのかと勘違いしていましたが、映画を見ると、魂・生命力エネルギーのような。「プラーナ」はサンスクリット語で「息吹」を意味するとありますが、これ『創聖のアクエリオン』における「プラーナ」生命エネルギーみたいなもの感じですかね、そう解釈しました。オーグメンテーション、プラーナ、そんなワードが会話で当たり前に使われる、庵野作品らしい置いてきぼり感です。

本作の魅力

特に「映画が常に観客の一歩先を行く庵野映画の快感」と言えば、冒頭のアバンタイトルです。これはかなりツイート通り、「使徒、襲来」『エヴァ』1話のスピード感でしたね。監督曰く「『ガンダム』1話に対抗するための演出。客が疑問を持つ前に乗せてから、アレよ、アレよと話が進んでしまう」感覚との事、「使徒、襲来」的なスピード感で、まさしく映画始まってすぐ映る回転するバイクの車輪にいきなり観客を乗せるように、気付いたら観客は巻き込まれている。「シンジ、エヴァーに乗れー乗らないなら帰れー、冬月も帰れー」シンジはエヴァに乗っている。「タケシ、ショッカーと戦え、戦わないなら帰れー」本作の主人公・本郷猛もSHOCKERと戦わされている。この庵野作品らしい「使徒、襲来」のスピード感を「仮面ライダー」に持ってきています。

加えてアバンタイトルのお話をすると、かなり暴力描写が激しかったですね。暴力描写は本作の唯一、手放しで褒められる点じゃ無いかと思います。『THE NEXT』以来のPG-12指定という事ですが、闘争心が高まった本郷がSHOCKER下級構成員をボコボコ倒すというより殺害していく、血が飛び散る。人ならざる者になった本郷猛を強調する暴力描写で、『シン・仮面ライダー』繋がりで、1992年に『真・仮面ライダー 序章』という作品があって、これはVシネ版「仮面ライダー」と言うべき手触りの作品でしたが、あの『真・仮面ライダー 序章』もライダー(?)によるスプラッタホラー的な流血シーンから始まって、その後、自分の肉体が変容していく恐怖、クローネンバーグのホラーのような恐怖が描かれる作品でした。過去の「真」とも重ねられる、主人公の体がしっかりバッタになったり、顔に原作そのままの傷が現れたりと、主人公の肉体変容の恐怖と強大な力を持ってしまった主人公の葛藤が描かれる『シン・仮面ライダー』でした。

暴力描写で言うと、結構、原作も暴力的なんですよね。小さい頃、父親の本棚から勝手に取ったのか、市立図書館で読んだのか忘れたんですが、『仮面ライダー』原作を読んで、凄い残酷で驚いたんですよ。今見ると、コウモリ男を仮面ライダーが十字架で体を刺して殺すという、結構、残酷だなと。そんな幼少期の記憶をこの『シン・仮面ライダー』を見て思い出したりしました。

本作、原作からも要素も持ってきていますし、もちろんTV版の『仮面ライダー』両方から持ってきていますよね。流石にコウモリ男の「ヴィールス」の引用の仕方とか、何かと理屈をこねくり回しSHOCKER構成員が死ぬ時に泡になる描写とか若干笑ってしまいますが。お話それました。暴力描写と岡本喜八監督ゆずりの庵野監督の激しいカッティングが光る、唯一何も考えずに褒められるアバンタイトルだったと思います。『シン・ウルトラマン』もそうでしたが、冒頭は最高なんですよね。

池松壮亮映画としての本作

役者の皆様は本当に素晴らしく、アスカとミサトと綾波レイの要素を分けたひと昔前の萌え系ツンデレ的ヒロイン・緑川ルリ子・浜辺美波さん。一文字隼人の陽気さを淡々と演じた柄本佑さん、特に池松壮亮さんは、とてもハマり役。大きな力を得たが、それを行使するのを躊躇う優しい心の主人公・本郷猛の葛藤が物語の軸。これ池松壮亮さんオーディションで選ばれたという事ですが、この物語はとっても池松壮亮的ですよ。特に作品観ていて想起したのは2019年の『斬、』という映画で、庵野監督、これを見て、キャスティング決めたのかと、ほとんど当て書きと思えるほどに同じ物語ですね。

『シン・ゴジラ』から続いて本作でも重要人物を演じた塚本晋也監督の『斬、』、江戸時代末期を舞台に、剣術の腕はあるのに人を斬れない侍・池松壮亮さんが、ある日、塚本晋也監督演じる剣豪と出会い、侍の、暴力の世界に足を踏み入れると。はい全く本作の本郷猛と彼を改造した塚本晋也=緑川博士と同じですね。他にもドラマと映画『宮本から君へ』の、大学生の池松壮亮さんが営業マンとなったことをきっかけに、男性的な、マチズモの世界に侵食される。こういう話ばかりやっているので、この池松壮亮さんのキャスティングは彼のフィルモグラフィとも繋がります。『斬、』と同じ話を、原作と重ねながら、この大作『シン・仮面ライダー』として描いたのは印象的でした。

庵野作品間違い探し

本作の緑川ルリ子がアスカ、ミサト、レイのブレンドだとすると、能力はあるがコミュ障と改変された池松壮亮=本郷はシンジさながらで、特に亡き父親の思い、亡き父親の優しさを継承してヒーローに目覚める池松壮亮=本郷は、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で父と和解した後のシンジ像とも重ねて良いです。後は無意味な過去の庵野作品とサイゼリアの間違い探しスタートで、先ほど申し上げた通り、中途半端なポジションにいる自分は一本の映画として楽しむという事はできずに間違い探し的な楽しみ方に終始してしまった『シン・仮面ライダー』でした。

他人を信じられなくなったSHOCKERボスが企む、他者の事を完全に理解できる世界を作るハビタット計画は、他者と自分との心の壁A.T.フィールドを取り除いて母体の中で他者と同一化する、人類補完計画をまーたやってるよと。物語的要素はキリがないですが、映像面でも画質の悪さを気にしないiPhone、GoProを多用した色々なアングルの映像は、ビデオカメラの映像を多用した『ラブ&ポップ』からの庵野節で、工場、煙突、工業地帯の切り取り方、物語の重要な場面で線路を映す、ロケーションの切り取り方は『式日』。特に本作は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の第3村シークエンスに増して、『式日』味マシマシの映像を目撃することになります。もう一から十まで「仮面ライダー」TV版、原作をかなり大掛かりに自分のフィールド、「仮面ライダー」というオモチャを自分の庭に持ってきて、ごっこ遊びした映画が『シン・仮面ライダー』という印象でした。

アバンタイトル、クモオーグ戦、暴力描写、池松壮亮さんのキャスティングと魅力も感じつつ、ここまで自分のフィールドでやったという点に困惑という感じでございました。僕も小さい頃、オモチャでゴジラと「スター・ウォーズ」のジェダイを戦わせたり、あ、それこそジェダイにシスのライトセーバー持たせたりしましたが、そういう感じですよね。『シン・ウルトラマン』も金城哲夫回を実相寺昭雄監督の映像、実相寺アングルで再現するという、奇妙なごっこ感がありましたが、まだ「ウルトラマン」のお庭の中だった。本作は「監督・庵野秀明」というクレジットの意味を強く観客に分からせる、ごっこ遊びをセーブする理性は消えてなくなっているという変態性が魅力であり、まぁ怒る人は怒るんだろうなぁとも思います。

やっている事、何かオモチャ遊びはオモチャ遊びでも「トイ・ストーリー」のシド感ありますね。まさしくヒルカメレオンみたいに、かまきり男と死神カメレオンをシド的に魔改造した3種合成オーグが出てきますが、最もシド感のある魔改造はハチオーグのシークエンスなんじゃないかと思います。ここではまさかの東映ヤクザ映画、東映集団/抗争時代劇を「仮面ライダー」にマッシュアップします。正直、これにはもう一周回って感動すら覚えました。

ハチオーグがトライアル的に支配している小さな街、このスモールスタート設定もリアルで良かったですね、その街の片隅に、工藤栄一監督の東映集団/抗争時代劇『大殺陣』、『十三人の刺客』、東映ヤクザ映画「仁義なき戦い」シリーズのポスターをご丁寧に貼り付けて、ハチオーグのアジトはヤクザの事務所風、TV版ではフェンシングだった対決を日本刀、殺陣で行うという、何というか庵野秀明じゃけぇ、何してもええんじゃじゃないですが、そのための『孤狼の血 LEVEL2』に出演していた西野七瀬さんキャスティング?東映ならヤクザ映画ですよね皆さん!という、その割には集団の殺陣は見せてくれないし、殺陣はCGで誤魔化されてしまうので、本当に形だけなんですが、この魔改造っぷりにはもう一周回ってアッパレという感じでした。やっている事シドですね。

まとめ

今回はいつもに増して雑多なまとめになりました。アバンタイトル、クモオーグ戦、暴力描写、池松壮亮さんのキャスティング、やり過ぎなハチオーグシークエンスと魅力も感じつつ、「昭和特撮を再現した」という言い訳で逃げられそうな予算の少なさが露呈したCGアクション、庵野監督の映像・編集が裏目に出て、中々、ロングショットで生身のアクションを見せてくれないもどかしさ、良かった点とノイズだった点が交互に現れる映画であり、「エヴァ」的にキャラクターを再構築し、『式日』のロケーションの切り取り方、『ラブ&ポップ』のカメラアングルと編集で『キューティーハニー』に再び庵野監督が挑んだ映画、『シン・仮面ライダー』でした。

ちょっと庵野監督が暴走したみたいな風な言い方をしてしまったのは反省していて、それくらいの脚色が許されるくらい「ウルトラマン」と違って受け手と東映の許容範囲が広いというのもある気がして、特に本作と同じ初代「仮面ライダー」のリメイクの企画だった『仮面ライダー THE NEXT』もJホラー調でテイストをアレンジした作品でしたが、そういった過去の豪快な脚色作品があったからこその本作の庵野節。

思えば同じく仮面ライダー50周年記念作品だった昨年の『仮面ライダーBLACK SUN』も若松孝二版「仮面ライダー」なんて巷で言われていました、白石和彌監督の色が前面に出ていた、出過ぎていた作品でしたので、本作と合わせて大胆な脚色を許容した50周年記念の二つの作品でした。正直、「仮面ライダー」と「庵野作品」を知らない方の感想が気になる辺りです。ぜひコメントお待ちしております。

鑑賞後の爽快感

非常に奇妙なごっこ遊びを見せつけられ変態的な映画だとずっと困惑して観ておりましたが、最後の喉越しは爽やかという。本作のキャッチコピーの一つ「継承。」を表す通り、本作に一貫して行われたマスクのバトンリレー。言葉通り、マスクを渡していく。本郷の殉職した警官の父の優しさが、ルリ子の思いと合流して、本郷へ、そしてイチローへ、そして隼人へ。バッタオーグ2+1=仮面ライダー第2号のオリジンへの集結する。原作の4話も、亡くなって頭脳だけになった本郷の意思を隼人が継承して終わりますが、それを映画的にゴージャスにしたラストという感じでしょうか。「風を感じさせてくれ」「もっとスピードをあげるんだ」この爽快さは何でしょうかね。今まで散々改造したおもちゃをちゃんと後片付けしてくれたというか、それまで一杯一杯頭に浮かんだノイズがパーっと空に消えて、僕はとっても気持ち良く映画館を出れました。

さいごに

「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」も一応、本作でラインナップ終了という事ですが、『シン・ウルトラマン』の続編どうなるんでしょうか。これからも「シン」映画は続くのか。あ、後、エンドクレジットで仮面ライダーのテーマが3曲連続で流れますが、個人的には「♪ロンリー仮面ライダー」の歌詞がそのまま本作の隼人のテーマに聞こえてしまって、エンドロールに入る前に♪ロンリー仮面ライダーが流れてたら結構、泣いていたかもしれないです。まぁ色々言いたいことはありますが、これくらいで締めさせていただきます。最後までご視聴誠にありがとうございました。また次の新作映画でお会い致しましょう。

【作品情報】
『シン・仮面ライダー』
2023年3月17日(金)公開
© 石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会


茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

© 合同会社シングルライン